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“誤報”と“フェイクニュース”の狭間に──塩田武士『歪んだ波紋』が投げかけるもの【前編】

『歪んだ波紋』(講談社)

 作家・塩田武士が元気だ。グリコ・森永事件をモチーフに大胆な作劇で話題をさらった『罪の声』(講談社)でブレークを果たすと、人気俳優・大泉洋に小説を“当て書き”してプロモーション展開するという挑発的なプロジェクト『騙し絵の牙』(KADOKAWA)を矢継ぎ早にリリース。そして今度は“誤報”をテーマに自身初の短編集となる『歪んだ波紋』(講談社)を上梓した。

 元新聞記者がつづる“誤報”にまつわる5編の物語。ネット上に氾濫する情報、ジャンクとフェイクニュース、誤報と訂正……日刊サイゾー編集部として、この耳慣れたテーマを内包する作品をスルーするわけにはいかなかった。

──よろしくお願いします。日刊サイゾーと申します。

塩田武士(以下、塩田) 存じ上げております。

──まずはその、我々の媒体の印象などを伺えませんか?

塩田 えーと……攻めてる感じがして……シニカルな……?(苦笑)

──う、困らせてしまってすみません。では、この5年くらいにエンタメ系のネットニュースサイトがドーンと増えていることについて、どんな風に感じてらっしゃいますか?

塩田 それはもう『歪んだ波紋』っていうタイトルの通り、少し前までは、やっぱり新聞、テレビ、週刊誌っていうのがあって、そこで伝わっていくイメージだったんですけど、Yahoo!が出てきて無料で幅広いものが読める状態になってからは、意識が変わってしまったなと。ひとつのニュース文化として定着しているとは思いますが、読み手としては、どこからどこがホンマかわからないっていうのは、やっぱりあるので。結局、ページビューの問題というのがあると思うんですけど、Yahoo!にできるだけ載せてリンクで誘導していく、そのリンクもなかなかクリックされないという話も聞きますし。サイトの価値として、「正しいか」っていうことと、「面白いか」っていうことがあると思うんですけれど、(サイゾーは)面白さで押していってはるというのは。

──そのつもりではあります、はい。

塩田 誤報というのも、やっぱり取材体制だと思うんですよね。どれだけファクトチェックするのか、取材源を確保しているか、その基準というのが各サイトによって違うのかなというイメージはあります。エイヤーで出してしまえるか、それとも、ちょっとここは裏付けをもっとしようとするか、サイトによってばらつきが出てきているのは感じます。

──私たちの職業を前提として読んでしまうと、誤報だとわかる瞬間、「これ、違うじゃねえか!」とか「つかまされた!」とか、その瞬間がものすごくリアルに描かれていて、それがもう苦痛で苦痛で。心臓がキューっと握りつぶされるような……実体験もあっての描写だとは思うのですが。

塩田 そうですよね、まずは誤魔化さなきゃって思ってしまう。

──なんとか逃げられないものかと……。

塩田 そこが人間の弱さですよね。僕も新聞記者時代に訂正を連発したので……。神戸新聞にいたんですが、社員からしたら「塩田が誤報の小説を書く」となったら、「どの口が言うねん!」みたいなことだと思うんですけど。今回5編書いてみて、やっぱり思ったのは、結局誤報って人の弱さにつながっていくという実感ですね。僕の場合は「つかまされた」というのはなくて、単なるケアレスミスだったりしたんですが、菓子折りを持って謝りに行ったり……経験者はグッとくると思います。つかまされた先輩もいましたけど、あのときの「えっ、ホントに騙すために全力で具体的にこれを作ったの?」っていう人間の悪意にゾッとすることもありました。

──作品の中では、「誤報」と「フェイクニュース」を意図的に使い分けているように見えました。定義するとしたら、どのようなことでしょうか?

塩田 悪意が介在するかどうか、自浄作用があるかどうか。僕はよく訂正を出したんですけど、「間違いでした」と謝れる場所があるかどうかだと思います。フェイクニュースには自浄作用がない。だからこそ拡散しやすいんですけど、そこにウソをつくための目的──例えば大統領選をどうしたいとか、それでお金を稼げるとか、そういう明確な意図や悪意があって広めるものが、フェイクニュースですね、分けるとすれば。

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