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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.497

少女は亡くなった後もネット上で凌辱され続けた!! フェイクニュースが招く惨劇『飢えたライオン』

事件に否応なく巻き込まれる母親役は筒井真理子。園子温監督の『アンチポルノ』や深田晃司監督の『淵に立つ』での熱演が印象に残る。

 主人公である瞳が17歳の生涯を終えた後も、物語は続く。写真映えのする女子高生がセンセーショナルな死を遂げたことから、マスコミが騒ぎ始める。テレビニュースの中で瞳は「後輩想いな、明るい優しい女の子」「シングルマザーに育てられ、問題の多い家庭環境で暮らしていた」など、テレビ番組にとっての都合のいいキャラクターにその都度歪められていく。テレビ報道がトリガーとなり、SNS上で繰り返し再生される担任教師のポルノ動画と共に、瞳の死亡原因は「担任教師との淫行事件が発覚したため」という噂が事実にすり替わって広まる。ひとりの少女を死へと追い詰めた孤独さと絶望感は、動画を再生しては嬌声をあげるネットユーザーたちの笑い声によって掻き消されていく。

緒方「映画にはラストに希望を提示してハッピーエンドで終わるものもありますが、ラストシーンで観客がカタルシスを感じて『あぁ、よかった』と帰っていく映画には僕はしたくない。問題の多い日常生活を変えるきっかけを、映画の中に見つけてほしいという気持ちで撮っています。今の時代に足りなのは、他者に対する寛容さと想像力だと思うんです。他者に起きていることを自分に置き換えてみれば、もっと人間は寛容になれるはずです。それに人間はもともと綺麗な生き物だとは、僕は思っていません。僕にとっての映画づくりは、自分の中にある嫌な部分を認める行為でもあるんです。人間の嫌な部分に対しても、寛容になれるように僕自身もなりたいんです」

 この物語は、ひとりの女子高生の生と死が情報として消費され尽くされることで終わりを迎える。視聴率が取れなくなれば、テレビ局が取材にくることもなくなり、SNS上で広まったデマもユーザーたちが飽きてしまえば、より新しい刺激的な情報に入れ替わっていく。ひとりの人間の命が、なんと軽々しく扱われていることだろう。顔が見えず、匿名性も高いことから、誰もが簡単に参加できるネット社会だが、同時に誰もが情報源の不確かなフェイクニュースに踊らせられ、被害者にも加害者にもなりうる恐怖が潜んでいる。火星人が襲ってきたと思い込んだ、80年前のラジオ番組のリスナーたちを誰も笑うことはできない。火星人はあなたのすぐ近くにまで迫っている。
(文=長野辰次)

『飢えたライオン』
監督・脚本・プロデューサー/緒方貴臣 脚本/池田芙樹 共同プロデューサー/小野川浩幸 撮影監督/根岸憲一 録音/岸川達也 編集/澤井祐美 音楽/田中マコト
出演/松林うらら、水石亜飛夢、筒井真理子、菅井知美、日高七海、加藤才紀子、品田誠、上原実矩、菅原大吉、小木戸利光、遠藤祐美、竹中直人
配給/キャットパワー 9月15日(土)よりテアトル新宿にてレイトショー、10月13日(土)よりシネ・リーブル梅田、元町映画館、10月27日(土)より名古屋シネマスコーレほか全国順次公開
(c)2017 The Hungry Lion
http://hungrylion.paranoidkitchen.com

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最終更新:2018/09/14 19:30
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