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バルブを印籠代わりに“水戸黄門”化する阿部寛!! 3年ぶりの帰還『下町ロケット』は安定の好発進

TBS系『下町ロケット』番組公式サイトより

 池井戸潤原作の熱血理系ドラマ『下町ロケット』(TBS系)が3年ぶりに帰ってきました。阿部寛、土屋太鳳、竹内涼真らメインキャストは前シリーズに続いての続投です。町工場を舞台にした男臭い地味なドラマながら、前シリーズは最終回で視聴率22%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録しました。今回は一体どんなロケットを打ち上げて、働く人々に夢を与えてくれるのでしょうか。新シリーズ『下町ロケット ゴースト』第1話を振り返ってみましょう。

 前シリーズでは、佃航平(阿部寛)率いる「佃製作所」は弱小企業ながらも、大企業「帝国重工」が打ち上げる宇宙ロケットに驚異の高性能バルブを提供。さらにはバルブ技術を応用して、人工心臓の人工弁の開発にも成功しました。新シリーズのキャッチコピーは「宇宙から大地へ」。農業用トラクターの改良に尽力し、日本のモノづくりを根底から支える農業に貢献することになります。

 新シリーズの第1話、「帝国重工」宇宙航空部の部長・財前(吉川晃司)が陣頭指揮して完成させた純日本産ロケットが白煙を吐きながら大宇宙へと飛び立ちます。佃社長ら「佃製作所」の社員たちも、「帝国重工」に入社した佃の娘・利菜(土屋太鳳)もロケット発射の成功に大喜びです。前シリーズの感動が蘇るオープニングです。

 ところがその感動は早々に立ち消えに。「帝国重工」は業績悪化のために、ロケット事業も計画の見直しを迫られることになったのです。「帝国重工」がロケット開発から撤退すれば、高性能バルブを納品している「佃製作所」も大打撃です。「ロケット品質」「佃ブランド」を謳うことができなくなってしまいます。何よりも、ロケット開発が夢だった佃社長の会社経営モチベーションまで急降下してしまいます。

 さらには長年のお得意さんだった「ヤマタニ製作所」からもトラクター用エンジンの発注を取り止めることが伝えられます。新興企業「ダイダロス」が廉価なエンジンを売り込んできたので、そちらに乗り換えるそうです。第1話の序盤からピンチの連続です。佃社長を演じる阿部寛は目を剥いて驚いてみせるのでした。地味な企業ドラマなので、喜怒哀楽がはっきりした阿部寛の演技はとても分かりやすいです。

 

■古舘伊知郎が嫌みなヒールとして登場

 佃社長がしょんぼり引き揚げようとすると、話題にあがった「ダイダロス」のやり手社長・重田(古舘伊知郎)とばったり遭遇します。すれ違い様に「農機具のエンジンは動けばいいんですよ」と嘲笑され、佃社長はショックの追い打ちを喰らうのでした。演技経験は少ない古舘ですが、かつてはプロレスの実況アナウンサーとして鳴らしていただけに、ドラマにおけるヒール(悪役)の役割をしっかりと認識しています。佃社長が“燃える闘魂”アントニオ猪木なら、重田は“狂虎”タイガー・ジェット・シンのように佃を苦しめる存在となりそうです。

 重田が経営する「ダイダロス」は二流品を安く売ることをモットーにして急成長を遂げてきました。小さな町工場ながら、高品質の製品を生み出すことにこだわってきた「佃製作所」の存在意義は大いに揺さぶられます。これまでは社員一丸となってハイクオリティーのパーツを開発することで難局を乗り越えてきましたが、新シリーズはいかに製作コストを抑え、一般消費者のニーズにより応えられるかがテーマです。開発者としての夢を追い掛けるだけでなく、経営者として地に足を降ろすことを佃社長は求められるのでした。

 東京から場面変わって新潟県燕市。「佃製作所」にとっては欠かせない存在である経理部長の殿村(立川談春)の父親(山本學)が倒れ、殿村は実家の田んぼをトラクターに乗って耕しています。殿村家のことが気になってお見舞いに訪ねた佃社長は殿村とお父さんが元気そうだと分かると、後はトラクターの内部構造を一心不乱になってチェックしています。佃社長に同行した技術開発部長の山崎(安田顕)は、殿村の奥さん・咲子(工藤夕貴)が思いのほか美人だったことが気になっています。会社経営が危ぶまれているのに、目の前のことにすぐ夢中になれるオッサン2人でした。

 トラクターに乗って田んぼを耕した佃社長は、自社製品に足りなかった部分に気づきます。高性能エンジンの開発ばかりに意識が向かっていましたが、作業ムレを減らすためにはトランスミッション(変速機)の改良が必要だったのです。「佃製作所」がトランスミッションを手掛けるのは初めてですが、トランスミッションでもバルブは重要パーツでした。佃社長は雄叫びを挙げます。「バルブを制する者は、トランスミッションを制するだッ」と。

 

■前作から3年、竹内涼真の出番が大幅アップ!

 トランスミッション用の新型バルブの開発チームには、前シリーズの「ガウディ編」で大活躍した立花(竹内涼真)と加納(朝倉あき)が選ばれました。ところが、ここで問題が。新チームのリーダーはキャリア充分な中堅社員の軽部(徳重聡)が務めているのですが、軽部は定時の夕方6時になるとさっさと帰宅し、やる気がまるで感じられません。石原プロの二枚目俳優だった徳重演じる軽部は、原作以上にかなりの変人キャラとなっています。「佃製作所」はサービス残業や徹夜作業が当たり前になっていたので、軽部のように残業を拒否するクールな社員がいることはすごくいいと思います。

 第1話25分拡大版は、竹内涼真の出番がかなり多く用意されていました。サスペンション用の新バルブの設計図を描いても、軽部は「野暮ったい」「予算を越えている」「お前たちらしさがない」と何度も突き返します。バルブに「お前たちらしさ」を出せとはどういうことでしょうか。思い悩んだ立花と加納は、「ガウディ計画」で度々通った福井市へと足を伸ばします。佃社長も来ていました。そこでは「ガウディ計画」で開発された人工心臓によって命を救われた子どもたちが元気にサッカーの試合をしていました。病院で苦しんでいた子どもたちがサッカー場を走り回っている姿を見て、立花も加納も佃社長も、そして前シリーズを見ていた視聴者も思わず涙腺が緩んでしまいます。試合を観戦していた一村教授(今田耕司)は、「みなさんが彼らに命と夢を与えてくれたんです」と開発チームの労をねぎらうのでした。立花たちが自分では口にしくい心の声を、視聴者に向かって代弁してくれる心優しい一村教授です。

 サスペンションの開発・製造で急成長を遂げているベンチャー企業「ギアゴースト」の社長・伊丹(尾上菊之助)と副社長・島津(イモトアヤコ)が見守る中、新しいサスペンション用バルブを完成させた「佃製作所」の開発メンバーと業界最大手である「大森バルブ」の営業部長・辰野(六角精児)がコンペを競い合います。比較実験の結果、「大森バルブ」のほうがあらゆる点で高性能なことが明らかになりました。勝ち誇る「大森バルブ」側に向かって「待って」と声を掛けたのは、かつて「帝国重工」で天才エンジニアと呼ばれた島津でした。「佃製作所」の新型バルブはとてもシンプルなデザインで、構成しているパーツが非常に少ないことに気づいたのです。パーツが少ないということはそれだけコストが安上がりな上に、壊れにくいということです。宇宙ロケット用バルブや人工心臓用の人工弁の開発に取り組んできた「佃製作所」のノウハウが生かされたバルブだったのです。かくして、「佃製作所」は消費者のニーズに応えた新路線を見つけることに成功するのでした。

 しかし、喜ぶのはまだ時期尚早です。第1話の終わりに前シリーズで「佃製作所」を法廷地獄へと引きずり込んだ悪徳弁護士・中川(池畑慎之介)が舌なめずりしながら復讐のチャンスを狙っている姿が映し出されました。佃社長とその一行の行く手には、これからどんな難関が待ち受けているのでしょうか。

 前シリーズに続いての登板となるTBSの福澤克雄チーフディレクターの演出はメリハリが効いていて、テンポも快調です。慶應大学の先輩にあたる直木賞作家・池井戸潤の原作小説をテレビドラマ向けに分かりやすく噛み砕き、さらにドラマチックに見せていきます。同じく福澤ディレクターが手掛けた『半沢直樹』(同)をはじめとする他の池井戸作品もそうですが、パッと見で善人と悪人が見分けられるので、視聴者は悩まずに勧善懲悪の世界を安心して見ていられるのです。新シリーズの第1話のラストには青空が広がり、まるでTBSの看板時代劇だった『水戸黄門』のようでした。黄門さまならぬ佃社長は高性能バルブを印籠代わりにして、ブラック企業や悪徳弁護士を成敗していくことになりそうです。新シリーズでも竹内涼真と朝倉あきは、助さん・格さんのように大いに活躍してくれるに違いありません。

 さて、新シリーズの初回視聴率は13.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。前シリーズの初回16.1%より数字は低いのですが、よく考えてみると、農業用トラクターの変速機を、しかもバルブ部分の開発を題材にした連続ドラマなんて、かつてあったでしょうか。きっと、佃社長なら「バルブを制する者は、ドラマを制するだッ」と言い出すことでしょう。『下町ロケット』が今後どれだけ水戸黄門化していくのか追ってみたいと思います。

(文=長野辰次)

最終更新:2018/10/15 20:00
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