日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『けもなれ』は等身大のガッキー
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

脚本家・野木亜紀子が『獣になれない私たち』で肯定する、等身大の新垣結衣

 現在、女優が最も演じたい役は、脚本家・野木亜紀子が執筆するドラマのヒロインだと思う。

 今年1月には石原さとみ主演のドラマ『アンナチュラル』(TBS系)が放送され、現在は北川景子主演の『フェイクニュース』(NHK)と新垣結衣主演の『獣になれない私たち』(日本テレビ系)という2作のドラマが放送されているが、それぞれの女優の新しい魅力を見事に引き出している。

 野木が書くヒロインには共通点がある。それは、仕事に対するプロ意識が高く、常に理性的であろうとするところだ。

 彼女たちは美人で優秀であるため、女性差別を受け、セクハラ・パワハラの被害に遭うのだが、理不尽な要求にはNOと言い、条件交渉をしっかりと行う。同時に自分の生活も大事にしていて、ただの仕事一辺倒ではない物腰の柔らかさも兼ね備えている。

『けもなれ』で新垣が演じる深海晶もまた、理性的で物腰の柔らかいヒロインである。

 新垣は過去に『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』(ともにTBS系)、『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)といった野木脚本のドラマに多数出演している。中でも2016年に放送された『逃げ恥』は、エンドロールで出演者が踊る「恋ダンス」が話題となり、その年を代表するヒット作となった。

『逃げ恥』は家事代行サービスの仕事をする森山みくり(新垣)が、システムエンジニアの津崎平匡(星野源)と契約結婚をする同居モノで、夫婦を会社の雇用関係に見立てた設定が斬新だった。女性の労働と結婚の問題を描いた社会派コメディだったが、そのテーマは『けもなれ』でも健在だ。

 本作で新垣が演じる晶はIT企業の営業アシスタントとして働く30歳の女性だが、職場の労働環境はあまりよくない。晶は仕事ができるあまり、ほかの社員のミスの尻拭いをさせられて、次から次へと難題を持ちかけられる。一方、付き合って4年になる恋人・花井京谷(田中圭)がいるが、京谷は、引きこもりの元恋人・長門朱里(黒木華)と同居しているという複雑な関係で、結婚どころではない。

 仕事で疲弊した晶は、行きつけのクラフトビール・バーで会計士の根元恒星(松田龍平)と出会う。付き合っていたはずの橘呉羽(菊地凛子)がほかの男と結婚すると聞かされ、あっさりと別れた恒星に興味を持ち、そこから2人は仲良くなるが、簡単に恋愛感情を持つようにはならないのが、本作の面白い距離感だ。

 タイトルの『獣になれない私たち』とは、なかなか感情を表に出せない、もしくは出さない晶と恒星のことだろう。

 しかし、野木のドラマに登場するヒロインが魅力的なのは、感情的にならずに、状況を冷静に判断して最適解を見つけようとする理知的なところにある。

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