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「聖地巡礼」で新旧ファンが対立!?――空前の“サウナブーム”による功罪

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空前のサウナブームを築き上げたドラマ『サ道』。このヒットによってサウナーが一気に増加し、“聖地巡礼”の儀式も行われるように。

 マンガ家・タナカカツキ氏による「モーニング」(講談社)の連載『サ道』がヒットし、昨年には原田泰造が主演を務めるドラマ版もテレビ東京で放送され、本格的にブームを迎えている「サウナ」。雑誌やウェブメディア、ラジオでもこぞってサウナの特集が組まれ、昨年末には書籍『人生を変えるサウナ術 なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?』(著:本田直之・松尾大/KADOKAWA)が発売されて注目を集めた。さらに、去る2月には『マツコ会議』(日本テレビ系)にて「テントサウナを楽しむ人々」というテーマで、男性のみならず、そのブームは女性にも及んでいることも大々的に特集。

 つまりそれは、これまで「おっさんのオアシス」として機能していたサウナに、若年層の男女が流入してきたことを意味する。老若男女から愛される趣味――なんとも美しい形のブームになるかと思いきや、その陰では、古参と新規に齟齬が生まれ、殺伐とした雰囲気もちらついているという。その内情を探るべく、「公益社団法人日本サウナ・スパ協会」をはじめ、都内でサウナ施設を経営するオーナーや、施設を訪れるユーザーたちにブームの現状を聞いた。

古参ユーザーの深刻な聖地離れ……若年層と中年層の仁義なき戦い

 サウナ活動――この数年、サウナ施設を訪れて汗を流す行為は、通称「サ活」と呼ばれている。また、サウナを愛する者たちは、一般的に「サウナー」と呼ばれ、自らもそう呼称する。一方で、そうしたヤング然とした言葉の響きを嫌い、かたくなに「サウナ愛好家」と言い張る年配ユーザーもいる。古くから愛される伝統的な文化に若人が参入することは、伝統を守っていく上で大切であるはずだが、この一連のブームを年配の古参ユーザーたちは、快く思っていないとも耳にする。なぜ、新規参入を拒むのか? その前に、この空前のサウナブームについて、日本サウナ・スパ協会はどのような見解を持っているのか、同協会の理事を務める若林幹夫氏に意見を仰ぐ。

「現在のサウナブームは第二次といっていいでしょう。正確にはブームではなく“カルチャー”になった、と言っても過言ではない。ちなみにサウナが日本で一番最初に流行したのは、フィンランドの選手が選手村にサウナを持ち込んだ、1964年の東京オリンピックまでさかのぼります。そこで新聞やテレビなどのメディアがこぞって紹介したことで、国内にも一気にサウナ施設が増えました。一番多いときで全国で4000店舗ほどはあったかと。現在は全盛期から半減したとはいえ、サウナを設置する銭湯や、サウナ室をリニューアルする施設(大型ホテルやカプセルホテルなど)などが賑わいを見せています」

 ではなぜ、カルチャーとして根付くサウナに齟齬が生まれ始めたのだろうか? 台東区上野駅前にある人気サウナ施設「サウナ&カプセルホテル北欧」に、年に200回以上通う50代のサウナ愛好家の話。

「北欧は僕のホームサウナ(※自分が一番通っている愛すべきサウナを指す)だったんだけど、ドラマ『サ道』の舞台となったことから“聖地巡礼”として若者が大挙するようになった。別に若者が来ることに異を唱えるつもりはないけど、どうしてもマナーが気になってしまう。サ室(サウナストーブが設置されている空間)では各々がひとりで汗をかきたいのに、一部の若者たちはどうしても複数で行動をしたがるんだよね。みんなで並んで座りたがるし、無駄話もうるさい。古くさい考えかもしれないけど、『サ室では私語を慎む』とか、郷に入ったら郷に従え的にマナーは守るべきだと思うんだよ」

 つまり、これまでおっさんたちによって秩序が守られてきた聖域が、右も左も知らない新参者によって荒らされている、ということか。しかし、その状況はあくまで局地的であり、すべての施設に当てはまるとは言い難いと話すのは、前出の若林氏だ。

「マナーをしっかり守り、思いやりの心を持つ若年層はいます。それを“若い”というだけで、すべて一緒くたにしてしまうのは、逆に年配のお客さんのエゴと映ってしまうこともあるでしょう。年配の方が若者を毛嫌いする風潮があることは否めませんが、若者のすべてが年配者を毛嫌いしているとは思えませんので」

 ここで重要な“意見交換”の場所となっているのが、サウナ好きの有志が作り上げたサウナーのためのポータルサイト「サウナイキタイ」(通称「サウイキ」)だ。ここではSNS同様、サウナー自らが自身のアカウントを作成し、各サウナ施設に訪れたサ活をアップ。その投稿には「いいね」や「コメント欄」が設けられ、サウナーたちのコミュニケーションの場として機能している。巣鴨駅前の聖地として知られる「サンフラワー」に通う20代男性は、次のように語る。

「去年の夏くらいですかね、自分が行ってみたい施設の情報を得るために、サウイキに登録しました。最初はユーザー数も少なくポジティブな投稿が多かったので、行きたい施設を見つけるのに重宝していました。でも、去年末あたりから一気にユーザー数が増えて、ちょっと殺伐とした雰囲気が見え始めたんですよね。例えば、若者の新規参入をかたくなに否定する中年ユーザーの辛辣な投稿があれば、長年通ってれば優遇されると勘違いでもしてるんじゃないかと、年配のユーザーを“老害認定”する若年層の投稿など、ちょっとピリついたムードが漂うようになった」

 去る2月上旬には、20代の男性ユーザーがラブホテルに併設されているサウナ施設で、女性と性行為に及んだサ活をアップしたところ、炎上。その論争はツイッター上にも波及し、「これだから若僧は」vs.「かくいう自分はクリーンなユーザーとでも?」といった、若年層と中年層のバトルも繰り広げられた(※現在、当該ツイートは削除されている)。

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老若男女が集うサウナーたちのためのポータル・サイト「サウナイキタイ」。ブームの過熱からか、利用規約の締め付けが厳しくなりつつある。

 以後、サウナイキタイはユーザーの投稿内容の規制を強化し、卑猥な表現をはじめ、不特定であっても攻撃的な内容と見受けられた投稿は強制削除、またはタイムラインに表示させない強行措置を執っている。サウナも併設されている都内の老舗カプセルホテルに勤務するオーナーが話す。

「弊店にとってサウナイキタイでサ活を投稿していただくのは、ブームを後押しする意味でも、とてもありがたいことですが、時には『スタッフの対応がよくなかった』や『あまり好きな雰囲気のサウナではなかった』などと書かれてしまったり、正直、悲しい気持ちになるときもあります。そのほとんどが若いユーザーの方で、池袋『かるまる』(昨年12月に池袋にオープンした関東最大級のサウナ&ホテル施設)のような設備が整った新規店と比較されてしまったら、太刀打ちはできません」

■ととのうとは?
「サウナで汗を流し、水風呂へ入り、十分な休憩を取る」というルーティンを組むことによって訪れる“究極の恍惚状態”を指す。その状態がやってくるタイミングはユーザーそれぞれで異なるが、ととのったおかげで「寝つきが良くなる」「仕事がはかどる」「サ活後のアルコールがいつもの倍以上においしくなる」など、ユーザーが体感する効能も異なる。一方で「サウナは気持ちよければそれでいい」と、断固「ととのう」という新しい概念を毛嫌いする中年層も多い。
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 前出の北欧ユーザーが続ける。

「サ室でのマナーもそうなんだけど、そうしたサウイキのようなサービスにおいて、たった一度だけの訪問で達観したような感想を書く若者も気に入らないわけですよ。我々おっさんは、古くから経営するサウナ施設の酸いも甘いも嚙み分けてきた歴史も味わいながらサ活にいそしんでいる。そんな一朝一夕のにわか審判を下したいのであれば、ずっとかるまるで“ととのう”を連呼してればいいとか思っちゃうんだよね」

新参者に迎合するか、古参を大切にするか

 サウナに足を運ばぬ者であれば、想像もつかないことかもしれないが、前述した「サウナ&カプセルホテル北欧」を筆頭に、本格的なブームの到来で「入場規制」がされる施設も出ている。莫大の売り上げが見込める一方で、頭を抱える経営者もいるらしいが――。

「北欧さんの入場規制で、同施設に通う古参ユーザーがどんどん離れていると耳にします。ここで経営的に悩ましいのは、施設を見限った古参はそのままで、ブームが去ってサウナに飽きた若年層まで来なくなってしまったときです。ブームにあやかるだけではなく、両者の共存を図るための施策を練らねばいけない時期だと思っています」(前出・老舗カプセルホテルのオーナー)  

 そこでユニークなキャンペーンとして各施設が力を注いでいるのが「女性解放デー」イベントだ。男性専用の施設である「北欧」をはじめ、鶯谷「サウナセンター」や錦糸町「ニューウイング」、果てには池袋「かるまる」まで、女性ユーザーのために“1日”だけ、女性専用施設として解放するのだ。オーナーが続ける。

「本来、サウナは“男性のもの”という認識でしたが、このブームのおかげで若い女性ユーザーも一気に増えました。各施設、女性のためにアメニティなどもすべて入れ替え、普段男性しか味わえない施設を開放するというイベントは、とても面白い試みです。サウナイキタイでも概ね好意的な投稿ばかりでしたね。しかも、翌日の平常営業において『女性の残り香を嗅ぎに行く』という中年層もいたりと、その時ばかりは中年層と若年層も一時休戦のような形になっていたと聞いています」

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公益社団法人日本サウナ・スパ協会のHP。サウナに関するさまざまな情報を得ることができる。残念なことに5月28日に予定していた「協会創立30周年記念式典」は、コロナウイルスの影響により中止となってしまった。

 

 こうしたポジティブな形で、文化が続いてほしいと願うのは、若林氏だ。

「協会としては昨今のブームをありがたく感じています。各メディアからの(協会への)取材も増えましたし、毎年3月7日を〈サウナの日〉としているのですが、イベントに協力してくださる店舗も増えました。また、純粋なサウナ施設ではなく、大元がパチンコ店を経営し、サイドビジネス的にサウナを併設しているカプセルホテルなどもあるんですが、そのオーナーさんも興味のなかったサウナ室をリニューアルするなど、客足が遠のいていた施設も盛り返していると聞きます。古参のユーザーさんからすれば、新規参入者の行動が異常な光景に見えるかもしれませんが、サウナ室でも気持ちの面でも“譲り合いの精神”はお持ちいただけると幸いですね」

対立と共存――サウナブームの行き着く先

 識者たちの意見を総括すると、現段階では古参と新参者の共存は困難なのかもしれない。しかし、入場規制がかかった店に難癖をつけるのではなく、「自分もその入場規制となった対象者のひとりである」という、一歩退いた考え方を持つだけで、だいぶ世界も違って見える。

「サウナは自分自身を見つめ直す空間でもあります。洋服を脱ぎ捨てて裸で入るわけですから」と若林氏も語るように、共存することから始めるのではなく、自らの精神が“ととのう”ようになることから始めることが急務なのではないだろうか。

(取材・文/編集部)

サイゾーpremiumより

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最終更新:2020/06/22 20:26
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