本があれば大丈夫!読書大特集

「男子だって密かに読んでいた!」思い出の少女漫画の世界


 少女漫画。それは一見すると男子禁制の世界である。キャラクターの瞳には星が輝き、少女目線に彩られた恋愛至上主義の世界観は男子を拒絶する。しかし、中には男子が読んで面白い作品もある。姉や妹が買った「りぼん」(集英社)などの少女漫画雑誌を密かに愛読していた男子も少なくないだろう。そのような往年の隠れ少女漫画ファンにとって懐かしの作品を紹介する。

 まずは少女漫画の主流に属しながらも、男子も読める作品として池野恋の『ときめきトゥナイト』である。「りぼん」で1982年から94年まで連載された長寿作品である。吸血鬼と狼女を両親に持つ魔界人の少女・江藤蘭世を主人公としたファンタジー。ちょっぴりドジな主人公がカッコいい同級生に恋し、恋のライバルや主人公を好きになる別の男性など恋愛物のツボを押さえている。絵柄も少女漫画らしく、篠原健太の『SKET DANCE』に登場する少女漫画家志望キャラ・早乙女浪漫にパロディで使われるほどである。

 一方で魔力や超能力という特殊能力を使ったドタバタ劇や、魔界や他の世界での戦いなど冒険漫画的な要素もあり、男子もワクワクできる作品である。第2部では蘭世の弟・鈴世の恋人・市橋なるみ、第3部では蘭世の娘・真壁愛良が主人公になり、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』のような壮大なサーガになっている。

 次に少女漫画の異端作品として岡田あーみんの『お父さんは心配症』がある。これも「りぼん」の作品で、83年から88年まで連載された。中年会社員が主人公という点でも少女漫画としてユニークであるが、内容も少女漫画の常識を超えている。主人公・佐々木光太郎が高校生の娘を過度に心配するあまり、常軌を逸した行動に走る抱腹絶倒のギャグ漫画である。

 絵柄も少女漫画らしからぬ勢いのあるタッチで、主人公が娘の恋人をぶん殴り、事故に巻き込まれ、血が噴き出るなどメチャクチャな展開である。脇役達もエキセントリックな存在ばかり。あまりに面白く、声に出して爆笑してしまうことを抑えられない読者も多い。後の作品『ルナティック雑技団』になると少女漫画らしい絵柄になるが、抱腹絶倒のパンチ力は健在である。

 当時の「りぼん」は『お父さんは心配症』と、さくらももこの『ちびまる子ちゃん』の異端作品の双璧であった。『ちびまる子ちゃん』は1990年にアニメ化され、国民的人気作品に成長したが、実は『お父さんは心配症』と『ちびまる子ちゃん』はコラボ作品を発表している。最近では『ONE PIECE』『トリコ』や『銀魂』『SKET DANCE』など週刊少年ジャンプ作品のコラボが注目を集めているが、その20年以上前のコラボであった。

 最後に、より高い年齢層向けの作品として吉田秋生の『BANANA FISH』を紹介する。「別冊少女コミック」(小学館)で85年から94年まで連載された。並外れたカリスマと才能、容姿、運動神経を有するストリート・キッズのボス・アッシュを主人公とし、ギャングやマフィアの抗争を描く。

 コルシカ・マフィアやチャイナ・マフィア、CIAの陰謀が入り混じる展開は、男性向け漫画のテーマそのものである。少女漫画の定番である男性と女性の恋愛描写も非常に少ない。代わりにアッシュと日本人の大学生・奥村英二の精神的な絆を描写する。BL(ボーイズラブ)の要素があるが、アッシュと英二の関係はプラトニックなものであり、心に傷のある者の癒しの物語である。その点で男性も理解しやすい。

 また、『吉祥天女』など吉田秋生の作品は人格を踏みにじる性的虐待への激しい怒りが背景にある。これは『BANANA FISH』も同じであるが、アッシュら男性が性的虐待の被害者になっているという特徴がある。どうしても男性と女性では性的虐待に対する感覚に差が生じてしまうが、男性キャラが被害者となることで男性でも被害者の痛みをリアルに実感させられる。その意味で『BANANA FISH』は男性と女性のギャップを縮められる作品である。

 その他にも過去記事「ボーナスで漫画を大人買い~長編コミックを読破しよう!~」(http://www.cyzo.com/sp/2011/07/post-20.html)で紹介した前世ブームを巻き起こした日渡早紀の『ぼくの地球を守って』や架空戦記物の田村由美の『BASARA』なども男子が楽しめる少女漫画である。秋の夜長を想いでの少女漫画に浸ることも一興である。
(文=林田力)


●林田力(はやしだ・りき)
ライター。漫画・ドラマ・不動産・裁判・住民運動・市民運動などジャンルを問わず活動中。著書に『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』(ロゴス)。
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