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オンラインゲームを支えるグリッドとクラウド


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 オンラインゲーム運営企業が直面する課題は高トラフィックの処理である。多数のプレーヤーの集まる人気ゲームはアクセスが集中し、レスポンスが悪化する。一般にゲームはウェブサイト以上に速いレスポンスが求められる。ウェブサイトの画面表示では数秒を待つことは許容できても、ゲームで数秒待たされることは厳しい。特にアクション系のゲームのレスポンスの遅れは致命的である。

 しかし、一時的な人気のために高性能のマシンを用意するならば収益面で破綻する。特にゲームは土日などピーク時と、そうでない時の差が激しい。ピーク時に対応した高スペックなマシンは用意することは非効率である。

 この課題は有料会員制からアイテム課金制という近時の傾向によって重要性が増している。オンラインゲームの世界は有料の会員だけ利用できる仕組みから、プレイは無料として、プレーヤーの参入ハードルを下げ、アイテムで課金することで収益を上げるビジネスモデルに変化している。この結果、大量の無料プレーヤーを抱えることになり、これまで以上の処理能力が求められる。

 一方でアイテム課金制は平均客単価や立ち上げ時の収入を低下させ、収益面で苦しくなり、より効率的なマシン投資が必要になる。そこで立ち上げ時のコストを抑制し、利用状況に応じてフレキシブルに設備を拡大・縮小できるシステムが理想的である。

 そこで期待された技術がグリッド・コンピューティングである。これはネットワークに接続した複数のコンピュータを一台のコンピュータのように利用する技術である。ネットワークを通じて遊んでいるコンピュータの計算能力を有効利用する仕組みである。タンパク質を解析して新薬開発に貢献するプロジェクトや、宇宙からの電波信号を解析して地球外知的生命体を探索するプロジェクトは広く一般の人々のパソコンも参加した。

 これをゲームにも応用する。ゲーム運営企業内の複数マシンをグリッド化し、ゲームの売れ行きに従ってグリッド・サーバを増減させる。人気マシンには多くのリソースを割り当て、人気が衰退すればリソースを減少させる。利用されなくなったマシンは新規ゲームで利用する。

 早くも2003年には米国Butterfly.net社とIBM社がオンラインゲーム用グリッド・コンピューティング環境「Butterfly Grid」をプレイステーション2用ゲーム開発者向けに提供した。これはマシンの性能を監視し、特定のゲームにアクセスが集中した場合は、余裕のあるマシンを自動的に割り当てる機能を実装している。

 このグリッド・コンピューティングは革新的な技術であるが、オンラインゲームでは社内にプールしたマシンに限定される。新薬発見や宇宙人探索とは異なり、商用ゲームのために自己のパソコンの余剰能力を提供することは考えられない。また、オンラインゲームでは不正アクセスや不正操作(チート)などの問題も起こり得る。社外のマシンを使った分散処理にはセキュリティ上の危険がある。

 そこでクラウド・コンピューティングの登場である。これはシステムの利用企業がシステム構成を意識することなく、ネットワーク上に存在するプロバイダのサービスとして利用できる仕組みである。必要なリソース分を契約できるクラウドは、スモール・スタートで立ち上げ、突発的なプレーヤー増大の可能性のあるゲームに向いている。

 一方でクラウドにも注意点がある。クラウドでは実際のマシンはインターネットの雲(クラウド)の中に隠れ、利用者が実際のマシンを意識せずに利用できる点がメリットである。しかし、マシンがゲームのプレーヤーの住む場所の近くにある場合と、地球の裏側にある場合では回線を通したレスポンスに差が生じる。雲の中にあるマシンを意識しないで済む点がクラウドの意義であるが、ある程度は意識する必要がある。

 クラウドではサービス品質(マシン停止など)やセキュリティが問題になるが、ゲームでの見方は分かれている。現実にプレイステーションネットワークの個人情報流出事件は大問題になっており、品質やセキュリティを重視する見解が一般的である。

 一方で顧客情報は除いて、ゲームは社会インフラを支えるシステムよりは重要度が低く、低価格かつベストエフォート的なサービスで良いとする見解もある。ゲームにアクセスできないなどの問題が起きても基本的にはアイテムで補償するため、運営企業の懐は他の業態に比べれば痛みにくいという計算もある。
(文=林田力)

林田力(はやしだ・りき)
ライター。漫画・ドラマ・不動産・裁判・住民運動・市民運動などジャンルを問わず活動中。著書に『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』(ロゴス社)。
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