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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第54回

孤高の女芸人・友近が体現する「女としての業と生き様」

larry_tomochika.jpg『いつもごひいきにしていただいて
おります』R and C Ltd.

 昔から、お笑い文化というものは、男性が中心になって作られてきた。現在でも、お笑い芸人やお笑い番組制作者の多くは男性である。だから、私たちが普段テレビや舞台で目にしているものの大半は、男によって作られ、男によって演じられる「男の笑い」なのだ。

 そんなお笑い界という男社会の中で、女性芸人が笑いを作っていくためには、大きく分けて2つのアプローチがある。

 1つは、世の中の主流である「男の笑い」の方法論をなぞって、その枠組みの中で自分たちの芸を磨いていく、という方法だ。そしてもう1つは、女としての立場を生かして、「女の笑い」というものを一から新たに作っていく、という方法だ。

 もちろん、前者よりも後者の方が道は険しい。「男の笑い」を見慣れている視聴者や観客に対して、全く別の価値観を新たに提示して、それを理解させなくてはいけないからだ。

 友近は、デビュー以来一貫して、後者の道を歩んでいる女性芸人である。職人気質の彼女のこだわりに満ちたネタの数々は、業界内外で熱狂的な支持を受けており、女性芸人の中でも実力ナンバーワンとの呼び声も高い。

 友近の芸人としての魅力は、鋭い観察眼と高い演技力や歌唱力を生かした、精密で隙のないキャラ造形にある。だが、彼女がすごいのはそれだけではない。

 友近は、「自分が面白いと思っていることを表現したい」という揺るぎない信念を持ち、いかなるときでもそれを曲げようとはしない。彼女は、インタビューなどでも平然と「好きなことができれば、笑いがなくても構わない」という趣旨の発言をしている。そこまで割り切っているというのが彼女の恐ろしいところだ。

 11月3日、新宿・ルミネtheよしもとにて、友近の単独ライブ「吉本炎上」が開催された。本公演は、遊廓を舞台にした故・五社英雄監督の映画『吉原炎上』を下敷きにして構成されたもの。女性芸人を多数擁する吉本興業を、女の欲望が渦巻く吉原遊廓になぞらえた独自の世界観のもとに、珠玉の新作ネタを披露していた。

 自分自身を、女を売って生きる吉原の遊女に見立てて、ライブ冒頭から「好き勝手にやらせてもらうよ!」と宣言。その言葉通り、彼女は自分の感性だけを信じて、2時間あまりの単独ライブをやりきった。

 ネタバレになるので詳細は控えるが、このライブでは、平尾昌晃・畑中葉子によるデュエット曲「カナダからの手紙」が効果的に用いられる場面があった。この往年のヒットソングの歌詞の中に、こんな一節がある。

「あなたの愛を たしかめたくて わがままばかり 云いました」

 愛されているという実感が欲しくて、わがままを言って相手を振り回す。これがまさに、芸人・友近が抱える女の業というものだ。彼女の本当のすごさは、女らしさを抱えた自らの手の内を堂々とさらけ出して、「女としての業」をお笑い芸の形で昇華させようとしている、という点にあるのだ。

 自己満足と言われても仕方がないくらい、好きなことだけを無理に押し通す。それでも、心のどこかに、共演者や観客に自分のわがままをわかってほしい、という身勝手さを持っている。愛されているという確かな手応えだけが欲しくて、今日も彼女は舞台に上がる。女をまっとうする友近の芸人人生は、有無を言わさず見る者を圧倒する迫力に満ちている。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は11月下旬予定。ご期待ください。

この芸人を見よ!

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」
【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」
【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由
【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」
【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
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【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
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【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 12:50

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