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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第67回

チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論

chuto.jpg『チュートリアリズムIII』
よしもと・アールアンドシ―

 2009年、漫才の祭典「M-1グランプリ」の覇者となったのは、パンクブーブーの2人だった。彼らは、最終決戦で審査員7人の全員から票を得て、史上二度目の満場一致の「完全優勝」を成し遂げたことでも話題となった。

 そんな彼らより前に完全優勝を果たしたのは、06年のチュートリアルである。当時、全国区ではそれほどの知名度もなかった2人が、革新的な漫才で文句なしの爆笑を巻き起こし、M-1史上初の満場一致による優勝を達成したのである。

 この年の決勝でチュートリアルが見せた2本の漫才は、M-1の歴史、いや、お笑いの歴史に残る傑作と呼べるものだった。もちろん、M-1で優勝するような漫才は、いずれも圧倒的な完成度を誇っているものだ。だが、そんな中でも、06年のチュートリアルが披露した漫才は、その独創性、構成力、発想力などの点で、「M-1史上最高傑作」との呼び声も高い代物だった。だからこそ、7名の審査員たちも、最終決戦で彼らに1票を投じたのである。

 彼らの漫才のどこが革新的だったのか? M-1という大会におけるチュートリアルの歩みを振り返りながら、その点について考えてみたい。

 チュートリアルは、M-1では01年、05年、06年と三度決勝に上がっている。そして、1回目と2回目以降では漫才のスタイルが大きく変わっている。01年には、比較的オーソドックスなボケとツッコミの掛け合いの漫才をやっていた。彼らなりのセンスを感じさせる部分はあったものの、枠組みそのものはかなり基本に忠実だったのだ。

 だが、そんな彼らは、決勝の舞台で高評価を得られなかった。そして、苦節4年を経て、久々に上がった決勝の舞台では、全く違う形の漫才を見せた。それは、徳井が、バーベキューの串に具材をどういう順番で刺していくのかを真剣に語るという独創的な設定の漫才だった。どうでもいい話題を熱く語る徳井が、福田をどんどん一方的に巻き込んでいく。これが、「妄想漫才」と呼ばれるチュートリアルの新しい漫才の形だった。この年のM-1では、彼らは5位に終わったものの、新たな笑いの片鱗を見せることができた。

 そして、運命の06年が来た。この年、チュートリアルは1本目のネタ「冷蔵庫」でお笑い界に衝撃を与えた。この年の彼らの漫才のどこが画期的だったのか? それは、一言で言えば、「ボケない漫才」だったということに尽きる。漫才では普通、「ボケ」と呼ばれる「笑わせることを意図した台詞」が何度か繰り出されるものだ。

 だが、チュートリアルの漫才では、ボケ役のはずの徳井は、一度たりとも意図的にボケようとはしない。彼はただ、初めから感性がズレていて、一から十までボケている人間そのものを演じているだけなのだ。

 福田が「冷蔵庫を買おうと思っている」という話を切り出すと、徳井はそこに異様な食いつきを見せる。他愛ない話でどんどん勝手に興奮し始める徳井を見て、福田は少しずつ彼の異常さに気付き、脅え始める。

 2本目のネタでは、自転車のベル(チリンチリン)を盗まれたという話をする福田に対して、徳井が自分のチリンチリンが盗まれたときの体験談を深刻そうに語り出す。そして、徳井の妄想がエスカレートした果てに、衝撃の大オチが待ち構えている。

 05年と06年のチュートリアルのネタの違いは、「意図的なボケの回数」にある。05年の時点では、漫才の中にいくつか「意図的なボケ」が挟まっていた。つまり、明らかに笑いどころだと分かるような部分が何カ所かあったのである。だが、06年には、ついにそれさえも払拭され、徳井という人間そのものがボケているだけの漫才が完成したのである。

 こういう形の漫才を演じる若手芸人は、他に例がないわけではない。ただ、徳井ほど、感情を込めて真剣に妄想キャラを演じ切れる芸人はあまりいない。だからこそ、切れ味鋭いボケのフレーズなどが存在しないにも関わらず、彼らの漫才には圧倒的な爆発力と勢いがあったのだ。

 その後の彼らのテレビでの活躍については記すまでもないだろう。それぞれのキャラをすっかり認知された彼らは、いまや熱愛報道などでも騒がれるほどの人気芸人となっている。M-1という高い頂を制した彼らの芸は、テレビという舞台で次の高みへと向かっているのだ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための”ツールとしての批評”でありたい」

チュートリアリズムIII

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最終更新:2013/02/07 12:45

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