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 >   > 芸能レポーター・梨元勝さんの死を悼む
【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」】番外編

芸能レポーター・梨元勝さんの死を悼む

nashimoto.jpg謹んでご冥福をお祈りいたします。

 
梨元勝さんが8月21日に亡くなった。享年65歳。

「梨もっちゃん」と私の付き合いは長い。彼が、講談社の女性誌「ヤングレディ」で芸能モノの記者をしていた頃からだから、40年近くになる。

 私は「週刊現代」(同)の編集者だったが、ほぼ同年ということと、ウマがあったのだろう、よく会っては、学生運動崩れの連中が集まる新宿の居酒屋で、大酒を呑んだものだ。

 彼は当時、大宮あたりに住んでいたと思う。お祖父さんに育てられたそうで、両親の話は聞いたのだろうが、忘れてしまった。お祖父さん子で、可愛がられて育ったのだろう、私のようにひねくれてない、明るく、気持ちの優しい、誰からも好かれる好青年だった。 一緒にサウナやトルコ風呂へ行ったり、焼き肉好きな彼とあちこちの焼き肉屋を食べ歩いた。

 彼もあちこちでしゃべっていたが、「ヤングレディ」時代は取材の報告をさせると面白いが、原稿を書かせるとからきし駄目な記者だった。

 その頃の「ヤングレディ」は、「ギャングレディ」と言われていたぐらい、芸能界では恐れられていた雑誌で、それだけにプロダクションとのトラブルも多く、そのたびに人柄を買われて、彼が謝りに行かせられたようだ。

 何度か愚痴を聞いたことがある。今でも怖いプロダクションとして有名なTBS近くの某プロへ行くと、部屋に閉じこめられ、何時間も「バカ野郎! このままで帰れると思っているのか。どう落とし前をつけるんだ」と責められ続け、その間、例の調子で、「恐縮です。すいません」と謝り、数時間後、ようやく開放されたときは、ホットして、涙が出たといっていた。

 その「ヤングレディ」が部数に翳りが出始め、芸能ネタをやらなくなってきたというので、私のいる「週刊現代」の記者としてこないかと、声をかけた。

 後から聞いた話しだが、「ヤングレディ」時代、テレビで芸能記者座談会などがあると、上から彼に指名がかかり、ときどき出ていたという。持ち前の明るさと、話しの面白さで、テレビ局から芸能記者をテレビでやってみないかと、言われて悩んでいた。 

 彼から相談を受けたとき、私は反対した。「梨もっちゃん、アンタのような顔の大きな巨体では、テレビ画面に入りきれないよ」。半分冗談だったが、その当時、朝のワイドショーに出てくるレポーターたちは立て板に水の如くしゃべる人が多く、彼のように話しは面白いが、どちらかというと訥々としたしゃべりでは難しいと考えたのだ。

 彼は悩んだ末、テレビで勝負してみたいと、雑誌を離れて行った。

 そして彼は、それまでのレポーターとはまったく違うやり方を考えて、テレビに登場したのだ。

 それは、雑誌と同じ取材方法をテレビでやって見せたのだ。「密愛」がバレた芸能人を、梨元さんが「恐縮です、恐縮です」と言いながら追いかける。その後ろからカメラがその姿を追う。マイクを突きつけるが、何も答えないで、家の中に入ってしまう。インターホンで、彼が、「恐縮です。彼女とはどういう付き合いなんですか?」と問いかけるが、答えは返ってこない。

 これが雑誌の取材なら、コメント無しで終わり。無理矢理書いても2,3行にしかならない。だが、テレビで見ると、汗を流しながら、ドタドタ追いかける梨元さんと、無言で逃げる芸能人の姿が、視聴者に何かを伝えるのである。こうして新しい芸能レポーターのスタイルを確立した彼は、元祖芸能レポーターとして、テレビ界の寵児になる。

 私の結婚式の披露宴では、出席者たちの声を聞くレポーター役を務めてくれた。故・山城新伍が言い出した「梨元に言いつけるぞ」が流行語になっても、忙しい合間を縫って、私が編集長をしていた「フライデー」や「週刊現代」のパーティに顔を出してくれた。

 彼には、私が教えている大学の授業にもたびたび来てもらった。法政大学時代、学生運動の闘士だったこと、書けないダメ記者がテレビ界へ入っていく時、無言で相手に迫っても視聴者にはつまらないので、「恐縮です」という言葉を多用したらこれが受けたことや、芸能界の裏話を、身振り手振りを交えて話し、学生たちは目を輝かせて聞いていた。

 彼がテレビ界で成功したのは、人脈の多さや、情報の早さが抜きん出ていたからではあるが、もう一つ忘れてはいないことがある。それは、権力への批判精神である。

 この場合の権力は、芸能界を牛耳っている権力のことである。2001年に「SMAP」の稲垣吾郎が逮捕されるという事件が起きた時、ジャニーズ事務所に配慮して報道を控えたい上層部と対立して、『やじうまワイド』『スーパーモーニング』(テレビ朝日系)への出演をボイコットしたことがある。

 ジャニーズでもバーニングでも、言うべき時にいうべきことはいう。それが彼と、他の凡庸な芸能レポーターとの決定的な違いであった。

 結果的には、そうした反骨精神がテレビ界から疎まれていく。06年6月に、レギュラー出演していた番組が、「これからはジャニーズのニュースは扱わない」との方針を打ち出したことに反発し、降板したことから、テレビへの露出が激減していった。
 だが、梨もっちゃんは意気軒昂だった。もはやテレビの時代ではないと、慣れないながら、ネットを駆使して、「梨元芸能!裏チャンネル」などを開設し、芸能情報を発信し続けていった。

 私も昔、インターネット・マガジン「Web現代」をやっていたこともあり、彼もよく相談に来ては、これからやらなければならないことを語り合った。

 私も30年ほど前、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏のスキャンダルを記事にして、週刊誌から女性誌にすっ飛ばされたことがある。今や大権力になったジャニーズ事務所について、二人がゲストを呼んできて毎週語り合う、ネット番組をやろうかと話し合っていた。

 毎年恒例になった、正月にハワイで過ごす芸能人を追いかけるために、一人でパソコンとビデオカメラを担いで、ネット中継も続けていた。

 昨年の、のりピーこと酒井法子夫妻の覚せい剤事件の時は、彼の依頼で、「酒井法子 隠された素顔」(イーストプレス)を緊急出版するプロデュースをした。

 そのなかで彼はこう書いている。「芸能人の薬物事件は断固として許さないという姿勢で、社会、そして私たちジャーナリストは臨む必要があります。保釈後の記者会見での酒井法子の姿。それを決して「きれい」で終わらせてはいけないのです」

 体のためだと、地方のテレビ局へ出演しても、毎日、1万歩は歩いていた。タバコは吸わず、昔のように暴飲暴食もしなかった。それは、権力にひれ伏し、自分の口を封じようとしたテレビ局や、権力を笠に着てワガママ放題の芸能プロとの闘いを継続するために、彼なりの決意の表れだったのだと思う。

 今年6月、突然のがんの告白にビックリした。メールの返事に、「いろいろご心配かけて恐縮です。副作用凄く面会謝絶になってしまいました。頑張ってます。ツィター毎日やってます。面会できるようになったら是非是非お会いしましょう。ありがとうございます」とあったので、退院できるまでに少し時間がかかると思っていたが、これほど長きになるとはと心配していたのだが、残念で仕方がない。

 長い友人として、同じ現場で闘った戦友として、梨元勝さんの死を心から悼む。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

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もう「恐縮です」って聞けないんだね。

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