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【『Rom Cassette Disc In SUNSOFT』リリース記念・短期集中連載第1回】

「とにかく既存のファミコンの音を壊したかった」影山雅司”音のサンソフト”を支えた男

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 シンプルだけど無限の可能性に満ちていたレトロゲーム。

 「一日一時間!」というお母さんの監視の目をかいくぐり、大冒険を繰り広げた僕らの傍らにはいつもゲームミュージックの存在があった!

 そんなレトロゲームのサウンドを、21世紀に蘇らせようと今年から活動をスタートさせたレーベルが「クラリスディスク」だ。

 同レーベルは、『アトランチスの謎』『東海道五十三次』『リップルアイランド』など、一度プレーしたら忘れられないサンソフト製ファミコンソフトのゲームミュージックを、何と200曲以上も収録した『Rom Cassette In SUNSOFT』を6月29日にリリースする。

 そこで、今回から3回にわたってサンソフトに縁の深い人物へのインタビューを通じて、テレビゲームが熱かったあの時代を振り返ってみたいと思う。

■「ゲームミュージックのおかげで、本当に必要な音が分かるようになった」

 「音のサンソフト」とレトロゲームファンの間では言われる程、サウンドに対してこだわりを見せていたサンソフト。そんな同社のゲームミュージックの中でも、とりわけ高い評価を得ているのが、サンソフト最後のファミコンソフト『ギミック!』だ。

 すでにスーパーファミコンやメガドライブが登場し、16ビットマシンの時代に移行しつつあった1992年。そんな時代に8ビットマシンのファミコンソフトとして、『ギミック!』は市場に登場。ポップなグラフィックと、やりごたえが十分すぎてクリアすらままならない程の高難易度で一部のゲームファンの間で話題になりつつも、残念ながらヒットには恵まれなかった不遇の名作アクションゲームである。そんな『ギミック!』は、音に並々ならぬこだわりを見せるサンソフトが独自に開発したチップをファミコンカセットに搭載。ハードの限界を超えたサウンドを実現した意欲作だ。

 ジャズ、フュージョンテイストな、およそファミコンらしからぬサウンドで、今もゲームミュージックファンから支持を受ける本作のBGMを手掛けたのは、影山雅司氏。80年代末から90年代半ばにかけて多くのゲームミュージックを手掛け、およそ1000曲以上を発表した名コンポーザーである。

「たまたまサンソフト社内にMacに強いプログラマーがいてね。最初は一つ一つ教えてもらいながら作曲していたんだ」

 そう影山氏は、よくライブを聴きに行くというジャズハウス「お茶の水ナル」にて、当時を懐かしむように語った。元々ジャズバンドなどでサックスを演奏していた彼は、ほとんどゲームカルチャーに接することなくゲームミュージックの世界に足を踏み入れたそうだ。

「当時のゲームミュージックは、ほとんどアルペジオでできている物ばかりだったんだよ。だから、これだけじゃあつまらないだろうって思ったんだよね」

 ゲームミュージックの世界に入って、彼はまずこう感じたそうだ。そこでまず影山氏が挑戦したのは、「少ない音数で、いかに普通の音楽を作るか」というシンプルにしてハードルの高い命題であった。

「当時は同時に使える音が4つくらいだからとにかく音数との戦いだった。音色も(ROMの)メモリーがそんなにないからたくさんは使えない。だからパズルのように音楽を考えていた。和音って4つの音が出ないとかっこいいサウンドが出ないんだけど、そうすると後は音を鳴らす事ができない。だから2音だけでコードを表現してみたり……。とにかく色々と勉強になったよ。ゲームミュージックをやったおかげで、本当に必要な音っていうのが分かるようになった」

 決して恵まれているとは言えない、制限された環境での楽曲制作。通常なら文句の一つもこぼしたくなるところだろうが、彼はこれを逆手にとり印象的なメロディ、当時の他のゲームではあまり耳にすることのないような複雑な構成の楽曲を次々と生み出していった。

「とにかく既存のファミコンの音を壊したかったんだ。一般的に思われている『これがファミコンの音だ』っていうものから、もっとレベルを上げたかった。実験場だったね。いかに少ない音数でかっこいい音楽を作るかって追求できた場だったよ。そして一番大きかったのは、当時の製作スタッフが皆音楽好きだったってこと。テクノやミニマルミュージックに詳しいデザイナー、クラシックに精通しているプログラマーなど本当に面白い人達がいたんだ。音楽以外にもたくさんの刺激をもらったし、影響を受けたよ。彼らに出逢えなければ自由にゲームミュージックを追求することは不可能だったと思う。機会があれば、もう一度彼らと仕事したいな」

 サンソフトで音楽制作に没頭していた80年代から90年代は、ミュージシャン影山氏にとってかけがえのない時期だったそうだ。

■「『ギミック!』は、俺にとってゲームミュージックの集大成なんだ」

 それにしても『ギミック!』のサウンドトラックのクオリティの高さは、発表されて20年近く経過した今日でも全く色あせることはない。その理由はどこにあるのだろうか。そう尋ねた時、影山氏はとあるファンとのエピソードを語り始めた。

「一度、とある学校の先生が『弁慶外伝』(1989年に発売されたPCエンジン用RPG)のテーマ曲を、吹奏楽部で演奏したいから譜面を送ってくれって手紙をくれたことがあって、その時に「これはやばい。真面目に仕事をしないといけないな」と改めて思い直したの。「次世代の子供にいい音楽を聴いてもらわなければ」って。だってファミコンをやっている子供たちにとって、ゲームミュージックが初めの音楽体験になるかもしれないじゃない。そこから音楽自体に興味を持ってもらいたかったんだよね。そういう気持ちで最初から作った『ギミック!』は、俺にとってゲームミュージックの集大成なんだ」

 その言葉を裏付けるように、『ギミック!』で使用されたゲームミュージックはフュージョン風なオシャレなサウンドから、聴いているだけでも心が躍るようなポップス。重低音をきかせたアシッドな曲。浮遊感たっぷりなファンタジーな曲。ドラマティックなハードロック風な曲。映画主題歌のような、美しいメロディがキラリと光るエンディングテーマ。果ては影山氏がノリノリでサックスをプレーしている姿が想像できるような、アドリブパートを盛り込んだ楽曲など、様々な方向性のサウンドがいずれも高いクオリティでまとめ上げられている。

「『ギミック!』のBGMにはアドリブが入っているんだけど、それってつまりジャズやフュージョンでやっていることなんだよ。でもそういう音楽って一般の人はあまり聴かないし、聴く機会がない。だから、あえてそういう要素を盛り込んだんだ。歌謡曲とか売れてる曲はどこに行っても聴くことができる。でもジャズとかフュージョンなんてのはなかなか聴く機会がないから、自分の曲の中にそのエッセンスを入れたのかもしれない」

kageyamapp.jpg現在は写真家として活動する影山氏。
上/去年の4~10月まで銀座4丁目
交差点リコー三愛ビル、リングキューブ
の袖看板に採用されていた作品。下/
ドン・フリードマン。影山氏はここ数年、
国内外のジャズ・ミュージシャンを中心
に撮影しているそうだ。

 ミュージシャンとしての使命感とプライドによって紡がれた楽曲の数々は、当時ゲームをプレーした子供たちの心にしっかりと届き、今もなおゲームミュージックファンの間で高い評価を受けている。

 そんな影山氏は1990年代後半に入ると作曲活動から身を引き、今はフォトグラファーに転身。国内外のジャズミュージシャンのライブフォトを多く手掛ける一方、2010年には銀座4丁目交差点にあるリコー三愛ビル、リングキューブ袖看板に作品が展示されるなど、気鋭のフォトグラファーとして活躍している。

 なぜ彼はサックスからカメラに持ち替えるようになったのだろうか。そう尋ねられた影山氏は、ある人物の名を挙げた。

「『ギミック!』のプログラムやグラフィックを作った酒井智巳君が何でもできる人でね。彼が写真を初めてすぐに賞を取ったのを見て、あいつにできるなら……ってライバル心を出したのが始まり。(苦笑)。彼のモノクロ写真を見なければ写真をやってみようなんて思わなかったかも。それまで全然興味なかったから(笑)」

 影山氏が親友であり、ライバルであり、そして尊敬する人物として挙げた酒井氏こそ、8ビットマシン全盛期のサンソフトを支えた名プログラマーである。

「俺、酒井君にものすごく影響を受けたんだよ」

 影山氏をしてこう言わせる酒井智巳とはどんな人物なのだろうか。そして、彼がサンソフトで活躍した80年代から90年代はゲーム開発者にとってどんな時代だったのだろうか。次回は『ギミック!』を生んだもう一人の人物・酒井智巳氏に当時のエピソードを伺ってみよう。
(取材・構成=有田シュン)

【取材場所】ジャズハウス「NARU」お茶の水店
http://www.jazz-naru.com/
国内外一流ジャズメンが毎日出演、エキサイトなライブが聴けるジャズクラブの老舗。 11:00~17:00まではランチ、カフェとしても営業しています。

・影山雅司氏へのメッセージはこちらまで
the845@excite.co.jp

Rom Cassette Disc In SUNSOFT(初回限定CD付3枚組) [Limited Edition]
●サントラ初収録音源+19タイトルの大ボリューム3枚組!
名曲が多く存在する「サンソフト」を代表する19タイトルからOP、ED曲はもちろん、名曲、名場面BGM、ボス戦BGMなどこれまでにないラインナップを実装した豪華版、しかも特大ボリュームの2枚組!『ギミック!』ももちろん収録! なんとサウンドテストでも聴くことのできなかった曲も完全収録しています。さらに毎月抽選でもらえた「お楽しみプレゼント」賞品のカセットテープに収録されたシンセサイザーアレンジ曲も完全収録した特典CDも付属。 今や貴重となったレトロゲームの名曲の数々をご堪能ください!
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ディスク:1
1. スーパーアラビアン
2. ルート16ターボ
3. いっき
4. アトランチスの謎
5. 東海道五十三次
6. マドゥーラの翼
7. 天下の御意見番 水戸黄門
8. 上海
9. リップルアイランド
10. 超惑星戦記メタファイト
11. マハラジャ
12. バットマン
ディスク:2
1. ラフワールド
2. なんてったって!! ベースボール
3. グレムリン2 新・種・誕・生
4. へべれけ
5. バトルフォーミュラ
6. ダイナマイトバットマン
7. ギミック!
ディスク:3
1. マドゥーラの翼(MUSIC BY ATOMIC WAVE、テープ音源)
2. デッドゾーン(MUSIC BY ATOMIC WAVE、テープ音源)

最終更新:2012/10/11 17:55
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