深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.353

地縁血縁とは異なる新しい家族の形。ロッキーのもとに集う“荒ぶる魂”たちの物語『クリード』

creed01ボクシング界から足を洗っていたロッキー(シルベスター・スタローン)だが、かつてのライバル・アポロの息子を鍛えることに生き甲斐を見出す。

 フィラデルフィアのダメボクサーが全力で人生の扉をこじ開ける『ロッキー』(76)から、人生は死ぬまで闘いであることを描いた『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)に至るまでのシリーズ全6作のうちのどれか1本でも観たことのある人なら、いや主人公ロッキー・バルボアの名前を一度でも耳にしたことのある人なら、誰もがこの物語を通してロッキーファミリーの一員になることができる。『ロッキー』シリーズの新章となる『クリード チャンプを継ぐ男』は、そんな不思議な力を秘めた映画だ。世界中の人々の心を沸き立たせた往年の人気ボクサー・ロッキーのもとに、自分の居場所を見つけることができずにもがき苦しむ若者が弟子入りを志願し、親子関係とも会社組織とも異なる新しい家族像が生み出されていく。

 アポロ・クリード(カール・ウェザース)は『ロッキー』『ロッキー2』(79)で“イタリアの種馬”ロッキー・バルボアと大激戦を繰り広げたシリーズ屈指の名キャラクターだ。ボクシング史上最高の王者モハメド・アリをモデルにしたアポロは、『ロッキー3』(82)ではマネージャーのミッキーを失ったロッキーを支え、トレーナー役を買って出た。ロッキーにとって最高のライバルであり、得難い親友だった。太陽神にちなんだ名の通り、陽気で派手好きだったアポロには息子がいた……。『フルートベール駅』(13)でデビューした、1986年生まれの新鋭ライアン・クーグラー監督のそんなアイデアから本作は生まれている。

 アドニス(マイケル・B・ジョーダン)は、偉大なボクサーとして活躍したアポロの愛人の息子としてこの世に生を受けた。母親のお腹にいるときに、アポロは『ロッキー4/炎の友情』(85)で描かれたようにリング上で帰らぬ人となった。シングルマザーだった母親も早くに亡くなった。天涯孤独の身となった彼は施設をたらい回しにされたが、幸いにもアドニスに愛情を注ぐ養母メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)と出会い、学歴を身に付け、一流企業に就職することができた。大切に育ててくれたメアリーには感謝している。でも、子どもの頃にぽっかりと空いてしまった心の空洞は今もまだ埋まってはいない。アポロがロッキーと戦うタイトルマッチの動画をプロジェクターで壁に投影し、父の影と拳を交える。父の厳しさも温もりも知らずに育ったアドニスが、唯一父と触れ合うことができる方法だった。

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