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アンチにもサービスしてこそ一流!?【手越祐也】が確立した、新しいアイドルの賞味法を考えてみる

アンチにもサービスしてこそ一流!?【手越祐也】が確立した、新しいアイドルの賞味法を考えてみる

 以前どこかで、「芸能人は、一般人からの愛と軽蔑を同時に受ける存在」といったことを書いた記憶があります。芸能人の中でも、毀誉褒貶がいちばん激しいのが「アイドル」という職種だと思います。演技力とか歌唱力とか、ソングライティングの能力とか、そういったことが二の次とされがちな分野だから、どうしてもアンチが出てきてしまうのかもしれません。

 そんなアンチに、どう対応するか。これは大きく分けて3つのやり方があります。

1.完全に無視する。そもそもアンチという存在を認識しない
 例えばデビュー当時の松田聖子は、「人気」と「ぶりっ子バッシング」がかなり拮抗していたのに、聖子(およびスタッフ)は、バッシングなどまったく目に入っていないかのようにふるまっていました。それはそれで異常なほど胆力のいることです。

「そもそもアンチなんてこの世に存在しない。私(ぼく)のことを嫌いな人なんて、この世に存在するはずがない」

 という、壮大すぎる大前提の下に生きているわけだから。このスタンスでやっている人が、うっかりツイッターなんかで「私は好きな人だけに向けて仕事をしていくんだ」的な宣言をしてしまうのは、アンチを喜ばせるだけです。

「俺ら(あたしたち)のこと、しっかり目に入ってんじゃん。頑張って目に入らないようにしてるだけじゃん」というのは、今も昔もアンチの大好物です。

2.アンチという存在がいることを大前提にして、対抗策を生み出す
 これに関してはAKBグループがうまい。『アンチ』という曲を(カップリング扱いではあるものの)リリースしたり、前田敦子が「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください」と涙ながらに絶叫したり。

 ちなみに、この2番目の方法の先駆者は、私は小泉今日子だと思っています。90年代中盤あたりの『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』で、デビュー当時の営業回りのことが話題になったとき、キョンキョンは、

「(営業先で)てめえなんかこんなとこ来んじゃねえよ! とか言われましたよ」

 と言い、司会のダウンタウンから「うわ。そんときどう思った?」と訊かれると、

「来たくて来てんじゃねえよ! って言いたくなっちゃった」

 とサラッと答え、きっちり爆笑を生み出していました。さすが、「自意識のコントロール」と「嗅覚」にかけては、当時のアイドル界のみならず芸能史上でもトップ集団に位置するだろうキョンキョンの実力を、まざまざと見せつけられた思いがしたものです。

 で、最後は、いちばん新しい方法です。

3.アンチの存在をはじめから勘定に入れたうえで、そちらの側にも一定のサービスを施す
「アンチも笑わせる。楽しませる」わけだから、かなりきつい業務といえるでしょう。この3番目の方法に関して、トップを独走しているのが、NEWSの手越祐也です。

 ちなみに私は、NEWSはけっこう好き。『チャンカパーナ』あたりは歌謡曲のいい部分をきちんと引き継いだ作りでレベル高いし。KinKi Kidsの初期の曲とか、修二と彰(亀梨和也と山下智久のユニット)の『青春アミーゴ』あたりにも通じる、年長者にも大変やさしい「サービス」になっているから。

 さて、そんな手越が出演する『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)に、唯一の「イケメン枠」で出ている手越ですが、その扱いの、いい意味での「ひどさ」と言ったらありません。

 手越が何かカッコいいことをやり遂げた後に、NEWSの持ち歌が流れ、手越単体のPV風の映像が流れるのが、この番組のお約束。もちろん、生粋のファンにとってはたまらない絵ヅラでしょう。しかしこれ、扱い方としては、『めちゃイケ』で体を張りすぎて事故ギリギリの結果が生まれてしまったときに、スロー映像とともに『空に太陽がある限り』を流されていた「スター・にしきのあきら」と全く同じカテゴリーだったりします。

 また、「手越が課題をやり遂げるまでの悪戦苦闘」のシーンに挟まれるナレーションがいちいちひどい(繰り返しますが、いい意味で)。課題に挑戦する際、「いけるでしょう」という手越のコメントのあとに「神様、どうかいけませんように」というナレーションが入る。で、手越が失敗するごとに入れられる「イエーイ」というナレーションが、どんどんボリュームが大きくなっていったり。

 2年ほど前のオンエアになりますが、「視聴者の中学生から届いた」という「どうしたらダンスが上手くなるのでしょうか」という相談メールに、手越が答えるという場面がありました。語りだすうちにどんどんナルシシズムをあふれさせていく手越が、実際にダンスのお手本を見せようとした途端、容赦なくそれを途中でぶった切り、画面一面のラベンダー畑に切り替えたシーンはいまでも覚えています(しかもそれをワイプで見ていたウッチャンが「ありがとう!」とスタッフの判断にお礼を言っていた)。

 最近では、「手越に改めてほしいこと・七カ条」と称し、手越の性格からスキャンダルまで、メッタメタにイジリまくっていました。

「手越祐也のことが嫌い」という層はもちろん、「好きでも嫌いでもない。というか、どうでもいい」という層(手越に限らず、すべての芸能人は、この層がいちばん多いものです)に対して、「手越の取扱説明書」を念入りに作りこんでいるのです。日本テレビは、新しく出てきた芸人に対するトリセツの作り方がほかのテレビ局とは比較にならないくらい上手いのですが、ゴールデンの時間帯でアイドルにここまでひどいトリセツを、たっぷりの愛情とともに披露してみせる「思い切り」が、あの番組を視聴率トップに押し上げている要因のひとつなのでは、と思います。

 で、これが成立するのは、生粋のファンがこのイジり方を許容し、一緒に楽しんでいるからこそ。日本の「アイドル賞味法」は、ここまで進化したわけです。一般人の「メディア空間で空気を読む」能力は、世界中で日本がいちばん高いような気がします。

 そう言えば、「AKBは視聴率を持っていない」と、いろんなメディアで言われてきましたが、私が知る限り、年に1度の(AKB的)大イベント・総選挙のライブ中継以上に視聴率が高かったのは、『めちゃイケ』の抜き打ちテスト企画でした。要するに「AKBの人気者決定戦」ではなく「AKBのバカ決定戦」のほうが高人気。「アンチ」や「どうでもいい」層に向けてのサービスが含まれていないと数字を取ることができないなんて、厳しい時代になったものです。

 ちなみに私個人は、手越祐也はかなり好きです。アイドルとして、というよりは芸能人として。人格というバケツに大小数えきれないほどの穴が空いていて、水がバッシャンバッシャンと漏れ続けているようなスキだらけのキャラクターを、「ポジティブ」の一点突破でカバーしている様子は、見ていて楽しい。

「この人、芸能界くらいしか生きるところがないんだろうな」「芸能界に進めなかったら、かなりの確率で人生が破綻していただろうな」という人が、収まるところにちゃんと収まっているのは、なんと言うか、励まされるんですよ。「誰もがそれぞれ穴だらけだけど、誰もがそれぞれ輝ける場所がちゃんとある」ということを見せてもらっている感じがしますから。

高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』(小学館)で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。月刊文芸誌『小説すばる』(集英社)でも連載中。

最終更新:2017/09/09 20:00
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