ビートたけしのバイク事故、又吉直樹の芥川賞……ラリー遠田『教養としての平成お笑い史』

2019/03/25 16:00

『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)

 3月15日、お笑い評論家のラリー遠田の著書『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)が出版された。この本では、「ビートたけしバイク事故」「又吉直樹、芥川賞受賞」など14の事件を題材にして、平成のお笑いの歴史を振り返っている。お笑いにおける平成とはどんな時代だったのか? 著者であるラリー遠田氏にインタビューを行った。

――この本を書こうと思ったきっかけは?

ラリー ディスカヴァー・トゥエンティワンの編集の方から「本を書きませんか」とお誘いを頂いたので、どんなことを書くか話し合うことにしました。その打ち合わせの場で「平成が終わろうとしている時期なので、平成のお笑いを振り返るというテーマがいいのではないか」という話になりました。

 ただ、その時点では、具体的にどういう切り口で書けばいいのかということが見えていませんでした。例えば、平成のバラエティ番組を列挙していくことで平成お笑い史を概観することはできるのかもしれませんが、それだと普段テレビを見ない人はあまり興味を持てないかもしれないと思いました。

 また、「この時期に天下を取ったのは誰々である」というような形で、芸人の覇権争いを歴史としてまとめる、というのも考えましたが、実は平成というのはそうやってまとめるのに向かない時代なんですよね。芸人の数が圧倒的に増えているので、その歴史を単純な図式で説明するのが難しいのです。

 そこでいろいろ考えた末、「事件」という切り口が思い浮かびました。私はもともとお笑いに限らず歴史に興味があり、特に「事件」というものが好きなんです。事件を軸にして、そこに関連する芸人や当時の時代背景などを絡めて書いていけば、内容としてまとまりやすいし、多くの人に興味を持ってもらうことができるのではないかと思いました。

――本書に収録されている14のテーマはどういうふうに選んだのですか?

ラリー 事件とひとくちに言っても、日本中を騒がせたような大事件もあれば、お笑い界内部のちょっとした出来事もあります。この本ではその両方を取り上げています。

 選ぶ基準としては、時代を象徴する出来事であるかどうか、ということですね。例えば、1992年に明石家さんまさんが女優の大竹しのぶさんと離婚してしまったという事件があります。これは、お笑いの歴史においては、さんまさんが結婚したことで守りに入り、スランプに陥った時期として知られています。

 一方、2人の結婚生活が破綻した原因を読み解いていくと、さんまさんが大竹さんに子育てに専念してもらうことを望んでいて、女優業を続けたかった大竹さんとの間に溝ができた、という事実が浮かび上がってきます。

 平成の初期にはまだ子持ちの女性が仕事と育児を両立させるような働き方は一般的ではなかった、という時代背景がここにはあります。このように、1つの事件がお笑い史において重要であり、それ以外の意味でもその時代を象徴するものである、ということをテーマ選びの基準にしました。

――14のテーマの中で特に思い入れのあるものはありますか?

ラリー 「スリムクラブ『M-1』で放射能ネタ」です。これ自体は、たぶん多くの人にとっては「そんなことあったっけ?」というレベルのことで、特に事件として取り上げるほどのことではないと思われるかもしれません。

 でも、私としては、あの時代のことを描くにはちょうどいい素材になると思ったんですね。2010年12月26日に行われた『M-1グランプリ』の決勝で、スリムクラブは「放射能」という単語を笑いどころとして取り入れた漫才で大爆笑を取り、準優勝を果たしました。当時の日本ではまだ「放射能」という単語が笑いになりうる言葉だったのです。

 ところが、その約3カ月後の2011年3月11日、東日本大震災が起こり、原発事故を含む未曾有の大災害で日本中に衝撃が走りました。「放射能」という単語で気軽に笑っていた過去は、もう二度と取り戻せない過去になってしまったわけです。その時代の空気を描くためにあえてこの出来事を取り上げることにしました。

最終更新:2019/03/26 14:39

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