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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 65冊目

実は初めて読んだ『復讐するは我にあり』

実は初めて読んだ『復讐するは我にあり』の画像1
『復讐するは我にあり[改訂新版]』 (文春文庫)

 物書きとして自分を律するために読むのは、最近古典ばかりである。

 古典といっても別に『万葉集』を読んでいるわけじゃない。ノンフィクションの古典である。ノンフィクションだとかルポルタージュと呼ばれるジャンルの作品を立て続けに書こうと悪戦苦闘はしているけれども、これはなかなか苦しい作業である。ひとつのことを取材しても解釈はさまざま、アウトプットの方法は無限。ああ、それに取材の時のスタンスもいろいろとある。

 筆者は、四十を回ったけど、いまだ顔つきが年齢に追いついている気がしない。なので取材に出かける時は、服装からしても工夫をしないと取材相手に対峙するには精神性に欠ける。

 そりゃ、高名な○○先生の活動とか作品を絶賛し、応援するだけで面白おかしく書いてみたり、文字通りの「御用」をするならそれでも構わない。そっちのほうが「自分は○○先生と仲良しなんだぜ」と狭い界隈でヘゲモニーを握って、矮小な自尊心くらいは満たせるかもしれないけれど、そんなことをしたいわけじゃないからねえ。

 と、平成の終わりに読んでいたのは佐木隆三の実際の連続殺人事件を題材にしたノンフィクション小説『復讐するは我にあり』(講談社)。これ、映画はすごかった。いや、映画を見直したので、そういや原作本は読んだことがなかったなと取り寄せたのだ。

 映画のほうは緒形拳と三國連太郎の鬼気迫る演技。そして、倍賞美津子と小川真由美のエロスが光る。その原作は映画に比べると意外にあっさりしている。

 ひたすら淡々と、連続殺人犯である榎津の犯罪を時系列で追い、そこに絡む人々の人間模様を描いていく。映画を先に観ると、綴られる時系列の動向は印象が薄い。でも、それが構成の妙技。ひとつひとつの人間模様が絡み合っていくうちに次第に味を濃くしていくのだ。いわば、ページをめくるごとに味が煮詰まって濃くなっていく感じ。

 一見、ひとつひとつの出来事がさらっと記されているがために、その犯罪がごく身近に起きているように感じさせる。ワイドショー的だったり、覗き見的だったりするものとは違う作品の魅力がここにある。なるほど、映画化権をめぐってトラブルが発生したことも頷ける。

 果たして、今の時代にここまで熱のこもった作品がいくつあるのか。そう考えると、やはり古典ばかりを読みたくなる。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/05/18 21:00
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