
ビートたけし、渡哲也、山城新伍…名優たちが演じたマンガの世界──テレビと銀幕の中のジョージ秋山(2)
テレビ 映画 マンガ ドラマ 北野武 ビートたけし ジョージ秋山 浮浪雲 渡哲也 倉本聰
劇場アニメ版『浮浪雲』(東映/1982年)
1982年の劇場アニメ版も劇場で観ている。やっぱり『浮浪雲』ファンの父親に映画館へ連れて行かれたのだが、筆者は併映の『戦国魔神ゴーショーグン』を観たかったので、利害が一致していた。
改めて観ると、監督は1968年にNET(現・テレビ朝日)や毎日放送で放送された時代劇アニメの名作『佐武と市捕物控』(石ノ森章太郎原作)を手掛けた真崎守で、作画や美術に至るまで丹精に作られているが、公開当時はロボットアニメ全盛期だったので、小学生の筆者は併映の『戦国魔神ゴーショーグン』のほうに熱心だった。
ただ、主演声優の山城新伍はいつものテレビバラエティでのC調ノリと、それまで見たことのなかったシリアスな演技を巧みに使い分けていて、驚いた記憶がある。
もともと、東映時代劇の由緒正しい(が、全盛期には乗り遅れた)映画俳優だったのだから当然なのだが、筆者がそれを知るのは、テレビ時代劇『付き馬屋おえん事件帳』(1990年/テレビ東京)で演じていた渋い番頭役・新五郎を見てからのことだ。
山城新伍本人のビジュアルはさておき(アニメであるから、問題もないのだが)、原作初期の飄々とした人生観を呟きつつも、時に仕込み刀で悪を斬る不気味な二面性を見事に演じており、もっとも浮浪雲らしい浮浪雲だったと言える。ジョージ秋山のアニメ化作品としても、最良の出来だったのではないだろうか。
映画版『恋子の毎日』(東映/1988年)

70年代のジョージ秋山を代表するヒット作は『浮浪雲』だが、80年代を代表するのは、1985年から「週刊漫画アクション」(双葉社)で連載された『恋子の毎日』だろう。
もともと「モーニング」(講談社)で連載された、ジョージ秋山夫人をモデルとした【※01】主婦ものホームドラマ『超人晴子』に、ヤクザものの要素を組み合わせてヒットした作品で、両者を行き来するギャップで話のバリエーションが増え、長期連載となった。【※02】
1988年に劇場公開された和泉聖治監督の映画版は『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎完結篇』(那須博之監督)の併映だったので、当時、映画館で観ている。
原作のイメージとは違うが、アイドル時代の長山洋子(恋子)がとにかく可愛いかった、川浜一のワルだった松村雄基(サブ)も格好良かった、という記憶しかないが、改めてフィルモグラフィを見ると、企画は天尾完次、プロデューサーは安藤昇(!)というバリバリの東映実録ヤクザ映画な布陣だった。当時は長山洋子のアイドル映画だと思い込んでいたのだけど。
【※01/1969年、「週刊少年マガジン」創刊10周年グラビア企画『私は人気漫画家の妻です』で「ジョージ秋山夫人・秋山晴子さん」として紹介されている。夫人は『浮浪雲』のかめのモデルでもあった】
【※02/1983年連載の『超人晴子』と、1985年連載開始の『恋子の毎日』の違いとして、画風の大きな変化が挙げられる。1984年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された『海人ゴンズイ』を最後に、実質的に少年マンガ誌から離れたこともあってか、完全に青年誌仕様の絵柄へ変化し、美女がより肉感的に描かれるようになった。特に脚】
テレビドラマ版『恋子の毎日』(TBS/1986年、1988年)
しかし、作品として印象に残っているのは、映画に先んじて作られたスペシャルドラマ版だ。
演出は久世光彦、脚本が松原敏春、恋子に田中裕子、サブに小林薫という後期久世作品の鉄板布陣で、当然だが、映画版よりもホームドラマ要素の強いコメディになっている。
大柄でおおらかな性格の恋子に、長山洋子以上に小柄で線の細い印象の田中裕子という配役は、実は原作のイメージからかなりかけ離れているのだが、そこはさすがの名女優、快作であった。
1990年の『浮浪雲』では箸にも棒にもかからなかったビートたけしも、この作品では原作初期のメイン悪役で迷惑な兄貴分の星永を好演している。ギャラクシー賞奨励賞も取っているので、世評も良かったのだろう。VHSビデオでの販売も行われているが、そのジャケ写はたけしがメインに据えられていた。
『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』とTBS社員時代の名声から、コメディ系ホームドラマの大家扱いされていた久世光彦だが、実は80年代以降は『あとは寝るだけ』(1983年/テレビ朝日)、『花嫁人形は眠らない』(1986年/TBS)など、の話題作や佳作として評価されることは多かったが、コメディ系作品でのヒットは本作と、とんねるず主演の『時間ですよふたたび』(1987年/TBS)、玉置浩二の怪演で知られる『キツイ奴ら』(1989年/同)くらいしかない。
そして、90年代に入るとテレビドラマの最前線から一歩引いた形になり、文芸作品のスペシャルドラマ化がメインになっていく。
TBS時代からの宿敵・石井ふく子が、1990年開始のTBS『渡る世間は鬼ばかり』で『仁義なき戦い』シリーズのような集団心理劇を導入し、ホームドラマに新機軸と金字塔を打ち立ててしまったからだ。泉ピン子が菅原文太、赤木春恵が金子信雄の役回りと言えば、わかりやすいだろう。
『恋子の毎日』はホームドラマと実録ヤクザ映画の世界を行き来することで新しいコメディを作り出していた。久世はそこに注目したことで、ホームドラマの世界を守るために金策と犯罪で駆け回るコメディ『キツイ奴ら』のスマッシュヒットへつながっていくのだが、ホームドラマの構造に実録ヤクザ映画をまるごと取り込んでしまった石井のほうが一枚上手であった。
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