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ポルトガル商人に毎年1000人が海外へ売られた!『大航海時代の日本人奴隷』著者が踏み込んだキリシタン史のタブー

イエズス会士が奴隷に「洗礼」を授けたワケ

――日本人奴隷の取引は、いつからいつまで続いていたのでしょうか?

岡 ポルトガル人が1543年に種子島に流れ着いたことで鉄砲が伝来したという説がありますが、鉄砲の話はさておき44年にはポルトガル人とスペイン人の両方が日本に来ていますので、そのときにすでに国外に連れて行かれていると思います。種子島限定のご当地の伝承として、鉄砲の製造法を教える代わりに村の娘が売られていったというものがあるんですね。その前から鹿児島のあたりの倭寇が中国人・日本人をさらっていましたけど。

 日本で奴隷貿易そのものやイエズス会の介入が完全に絶たれる状況になったのは、1598年にルイス・デ・セルケイラが日本司教として長崎に到着して、奴隷取引に関わる者すべてを教会法で罰すると定めたことによります。それで日本人の奴隷という形の流出は終わって――ただ、奴隷身分ではない傭兵などとして海外に行く人は変わらずいました――、奴隷の供給源は秀吉の朝鮮出兵(1592~98年)でさらってきた朝鮮人に変わります。

――ということは50年以上、取引されていたと。実際には守られなかったそうですが、1570年にポルトガル国王が日本人奴隷取引を禁じたり、1603年にスペイン国王がインド・ゴアでの日本人奴隷禁止を定めたセバスティアン法を再び公布したりと、取引に制限をかけようとしていますよね。そもそも、なぜポルトガルやスペイン国王は日本人は奴隷にするべきでないと考えたのでしょうか? おおっぴらに人さらいから買って大量に奴隷として流通させると、日本の権力者の怒りを買って布教に差し障りがあると危惧したから?

岡 それは大きいと思います。加えて、ヨーロッパでは新しく発見する人種をカテゴライズしてランクを付けるんですね。例えば、イエズス会のアコスタによる『新大陸自然文化史』(1590年)という本には人種の等級分けについて書かれています。ヨーロッパを最上級とすると、インディオは非常に下位の「獣、動物に近い」に入れられる一方、日本と中国は「中の上」くらいの「ほぼ文明化された人々」に位置づけられています。だから、「そういう人を奴隷にするのはいかがなものか」という議論がされていました。

――イエズス会の人たちが商人から頼まれて奴隷に洗礼を授けていた動機は……?

岡 受洗には「文明化する」、つまり「獣から人間にしてあげる」という意味があります。奴隷にはなるものの、キリスト教徒になることによって人間になるのだから良いことだと解釈されていた。もちろん、雇用主によってはまったく人間扱いしないんだけれども、教会側は「キリスト教徒になったのだから人権は守られるべきだ、虐待は犯罪だ」と考えます。だからこそ、例えばアルゼンチンで「私は本来『期限付きの奴隷』のはずなのに、勝手に永久奴隷にされた」と訴訟を起こした、日本から連れてこられたフランシスコ・ハポンの場合は訴えが認められて、奴隷身分から解放されたという裁判資料が残っています。現地の言葉も自由に話せるようになると、ヨーロッパ人が新大陸でしている契約のごまかしや理屈のトリックに気づくんでしょうね。それで裁判所に訴えた事例がたくさんあります。

――売られた日本人の感覚からすると「年季奉公」のつもりだったけれども、「奉公」はヨーロッパ人の感覚では「奴隷契約」である、という指摘も本の中にありました。

岡 歴史学で「奴隷」をどうとらえるかという研究が進んだのはこの10~20年ですが、人類の歴史上ずっといて、今もいないとはいえない存在です。英語で言うslavery(奴隷)は多様な労働形態を含みます。日本の奉公がslaveryではなかったかというと、欧米の研究者はslaveryだととらえます。ただ、「期限付き」だったし、例えば年に一度は実家に帰れたりといったことはあった。虐待され続けるディスポーザル(使い捨て)な存在かというと違います。でも、歴史的にいうと、おそらくslaveryに入る。「奴隷」と聞いて私たちがしばしばイメージするのは「アフリカ人がアメリカに連れてこられてプランテーションで働かされる」だと思いますが、そのステレオタイプで人身売買をとらえると実態を見誤ってしまう。

 例えば、「からゆきさん」(19世紀後半に東アジアや東南アジアなどに渡って娼婦として働いた日本人女性)の契約書を見ると、16世紀の日本人奴隷の契約書とほぼ同じストラクチャーなんですね。書かれている内容が全然変わってない。ということは、からゆきさんも実質的には奴隷ですよね。

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