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「ソドム」は同性愛によって滅びたのではなかった──同性愛者はなぜ救われない? キリスト教の男性優位主義

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『あなたが気づかないだけで神様もゲイもいつもあなたのそばにいる』(学研プラス)

 ローマ教皇が同性婚を容認する発言をするも、カトリックの総本山バチカンはこれを否定──。そんなニュースが世界に流れたのは、2020年の12月だった。

 発端は10月にローマで開かれた国際映画祭で上映されたドキュメンタリー映画の中で、フランシスコ教皇が「同性のカップルにも婚姻関係に準じた権利を認める『法的なパートナーシップ制度』の整備が必要」と語ったと、イタリアメディアで報じられたこと。かねてよりリベラルといわれてきたフランシスコ教皇だが、カトリック教会には同性愛を否定してきた長い歴史がある。バチカンは、この教皇の発言について、「教会の教義に言及したわけではない」と、教義の変更を否定する文書を各国の司教に送っていた。このように、バチカンが教皇の見解を文書で解説したり否定したりすることは極めて異例だという。

 カトリックのみならず、プロテスタントにおいても、つまりキリスト教全体で同性愛は罪であり、神がこれを許さないと固く禁じてきたことは周知の事実だ。そのようなキリスト教会の姿勢は、西欧社会全体にも広く影響を与えてきた。

『同性愛と異性愛』(風間孝・河口和也/岩波新書)という本によれば、イギリスでは同性間の性行為をはじめ、婚姻以外の性行動や、婚姻内でも生殖を目的としない口腔・肛門性交、獣姦などを指して、「ソドミー行為」と名付け、1533年には国王ヘンリー8世によってソドミー行為は「自然に反する行為」として死刑が科せられていた。この「ソドミー行為」の名前の由来は、旧約聖書にある、同性間の性行為を住民が行っていたことを理由に神によって焼き滅ぼされたとされている町の名前「ソドム」である。

 20世紀のアメリカでも、60年代までは同性愛は「性的逸脱」行為とされ、ニューヨーク州では、酒類販売法の中に、飲食店は同性愛者だとわかっている相手に酒を出してはならないとする規定があった。1969年、ニューヨークの「ストーンウォール・イン」というバーに入った警察の手入れに、ゲイやレズビアンが抗議した暴動が、同性愛解放運動の転機となったとされる「ストーンウォール事件」である。

 キリスト教国家といってもいいほどクリスチャンの多いアメリカでも、同性愛者への差別の根底にはキリスト教があったのだが、そもそも聖書のどこに同性愛は罪であり禁じると書かれているのだろうか。その論拠とされているのが、旧約聖書のレビ記にある、「女と寝るように男と寝る者は、ふたりとも憎むべきことをしたので、必ず殺されなければならない」という一節である。

同性愛禁止は後世の解釈

 だが、この一節について、ゲイであることを公表しながら、牧師として活動しており、『あなたが気づかないだけで神様もゲイもいつもあなたのそばにいる』(学研プラス)の著書がある平良愛香氏は、「聖書のこの一節が同性愛を禁じているというのはあくまで後世の解釈。もともとはそのような意味はなかったと考えています」と話す。

「同性愛という言葉が使われるようになったのは19世紀以降ですし、聖書に同性愛は禁じられていると書かれているというより、後世の人々がそういう解釈をあてはめたと考えるほうが正確です。よく引用される『女と寝るように男と寝てはならない』というレビ記18章22節の言葉にしても、同じレビ記にはほかにも、豚やエビは食べてはいけない、二種類以上の素材の繊維を使って織った布を使ってはいけないなど、現代人には不合理なさまざまな決まり事が書かれています。男性が女性を所有するのが一般的だった時代に、男性を女性のように所有してはいけない、という意味だったと解釈することも可能です」(平良氏)。

 また、創世記19章の「ソドムの滅亡」の話にしても、「予備知識なしにこの章を読んだら、同性愛が理由で神がソドムを滅ぼしたと解釈する人はいないのではないでしょうか。そこに書かれているように、男性の旅人の姿で現れた神の使いを町人がレイプしようとしたことが、神の怒りの原因だと考えるのが、普通の解釈でしょう」と話す。

 平良氏は沖縄の牧師の家庭に生まれ、キリスト教の学校で教育を受けたが、自分が同性愛者であることに気づいてから、キリスト教が同性愛は罪だと教えていることに長く苦しんできた。だが、やがて「神は同性愛者もありのままで愛してくれている」と信じられるようになり、実際に初めて教会に同性愛者であることを告白したときには、牧師から「神様は平良さんを同性愛者として造り、祝福したんですね」と言ってもらえたという。

 そんな平良氏であるが、牧師になるための試験を受けたときには、同性愛者であることを公にしていたため、これを認めるかどうかで牧師たちの間で大変な議論が巻き起こり、大騒動になった。

 今でも平良氏のところには非難するメールや手紙が来ることがあるというが、そんな平良氏は、自分はゲイというマイノリティであるとはいえ、女性に対しては男性という強者であることを強く自覚していると話す。

「男性というのは、男性が考えている以上にさまざまな意味で女性より優位に立っています。それは体力的、生物学的な意味でもそうですし、女性よりも平均して高い給与をもらっているという社会的な意味でもそうでしょう。だから、同じ性的マイノリティでも、ゲイのカップルはレズビアンのカップルよりもとても強い立場にある。体力的に強い男性は自分が意図しなくても女性に対して加害者になってしまう可能性を大きく持っています。男性がつい荒らげた声が女性を怯えさせてしまうように、かなり意識的に気をつけないと、男性は強者として女性を被害者の立場に追いやってしまいかねないと、私も自身のことも含めていつも気をつけているのです」

 このように言う平良氏は、まさにキリスト教も、男性優位の考えを強く押し出してきた宗教であり、家族観・結婚観においても、男性中心の家父長制を後押ししてきた歴史があると語る。

「キリスト教は、長く夫婦が子どもを作って育てることを称賛し、さらに『男は男らしく』『女は女らしく』と、男女の性別による役割分担を強調する考え方を根付かせてきました。その延長として、子どもを作らないセックスや妊娠中絶、そして同性愛などは罪深い行為として否定してきた歴史があります。男性優位の考え方は今でも教会には強く根付いていて、牧師は大半が男性ですし、教会でも炊事や皿洗いは女性の仕事と、今でもなんとなくそう思われている節があるくらいです」

 実際、男性牧師が教会で皿洗いをしていると女性信徒のほうから、「そんなことしないでください」と言われてしまうが、女性牧師がお皿を洗っていてもほとんど言われない。教会にも根付いている男女の役割分担という既成概念に、平良氏も困惑してしまうのだという。

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