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『満州アヘンスクワッド』作者&編集者インタビュー

『満州アヘンスクワッド』の“発明”と、「歴史の禁忌」を描くうえでのポリシーとは

 関東軍の兵士として満州にやってきた日方勇(ひがた・いさむ)が、病気の母を救うためにアヘン密造に手を染めていく……というストーリーで話題となっている『満州アヘンスクワッド』(原作:門馬司/作画:鹿子)。今月6日には最新刊となる9巻が発売されたが、先日、コミックスの累計発行部数が100万部を突破したことが発表され、連載中の「週刊ヤングマガジン」(講談社)では新章「大連編」に突入と盛り上がりを見せている。

 昭和初期の満州を舞台に、アヘンの製造・密売をめぐって関東軍、さらには中国の秘密結社・青幇やロシアンマフィアも巻き込んで繰り広げられる、スピード感のあるクライム・サスペンスにハラハラしている読者はますます数を増しているようだ。

 「月刊サイゾー」2020年12月号では作者、そして担当編集者にインタビューし、この挑戦的なマンガがいかにして生まれたか、そしてどのように作られているのか、話を聞いた。累計100万部突破を記念して改めてこのインタビューをご紹介し、作品の魅力の一端を届けたい。

※本記事は「日刊サイゾー」2021年2月21日掲載の記事を一部編集したものです

 

『満州アヘンスクワッド』の“発明”と、「歴史の禁忌」を描くうえでのポリシーとはの画像1
(写真/Ikki Fukuda)

 今もっとも注目されているマンガ、『満州アヘンスクワッド』をご存知だろうか。本作は満州という日本の傀儡国家を舞台にした、アヘンの製造と流通がテーマのクライムサスペンスだ。一体、なぜこのような歴史のタブーに挑戦するのか? 作者たちに語り合ってもらった。

 時は昭和12(1937)年、場所は満州国。戦地で負傷し、右目の視力を失ったことから、軍の食糧を作る農業義勇軍に回された日方勇は、ある日、農場の片隅でケシが栽培されていることに気づき、やがて病気の母を救うためアヘンの密造に手を染める……。

 そんな刺激的な導入で始まるマンガ『満州アヘンスクワッド』(講談社)が今、注目を集めている。マンガアプリ「コミックDAYS」で連載中【※】の本作は、2020年8月11日に第1巻が発売されるや否や即重版が決定。11月には3刷に到達している。

※…2021年9月18日発売の43号より「週刊ヤングマガジン」本誌に移籍(コミックDAYSでも更新)

 海外ドラマを思わせる壮大な世界観。史実と虚構の間を自由に行き来する、歴史モノならではの味わい。主人公・勇を中心に、中国に実在した秘密結社「青幇」の首領・杜月笙の娘という設定のオリジナルキャラクター・麗華など、個性豊かな登場人物が織りなす人間模様。そんな彼らが満州鉄道や満洲映画協会に侵入していくエンターテインメント性など、本作にはさまざまな魅力がこれでもかと詰め込まれている。

 一方で、このマンガはかなりタブーな歴史を物語にしている。というのも、1932年~1945年の間、満州国は日本の傀儡国家として現在の中国東北部に存在し、そこではアヘンを利用した植民地政策が行われていたからだ。これは当時の政府によって組織的に遂行されたビジネスであり、現地の人々をアヘン中毒にすることによって得た資金は戦費などにあてられていた。さらにこの政策には、三井物産など今も残る日本企業が関係していたという史実もある。

 このように、さまざまな側面からも挑戦的な本作は、いかにして生み出されたのか? 作者である門馬司氏(原作)、鹿子氏(作画)、そして担当編集の白木英美氏にインタビューを敢行した。

麻薬密売に歴史要素……売る側の視点の物語

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ペストにかかった母を治す薬を買うために、阿片を製造する主人公の勇。(C)Tsukasa Monma/Shikako 2020

──第二次世界大戦前後を取り上げた作品はいくつもありますが、満州という国は日本が加害者の立場で作られた国家のため、これまであまり物語の舞台にされてきませんでした。そんな中、「歴史の禁忌に踏み込む超問題作」と謳っている本作ですが、なぜ「満州とアヘン」という、危険なテーマに挑戦したのでしょうか?

門馬司(以下、門馬) 「ヤングマガジン」で原作を手がけていたマンガ『首を斬らねば分かるまい』(講談社)でアヘンを扱ったことがあって、それがきっかけで白木さんから「アヘンをテーマにした作品をやりませんか?」と提案していただいたんです。

白木英美(以下、白木) もともと、ドラッグをテーマにした作品に人気があるのはわかっていたんですけど、やはりフィクションの作品よりもドキュメンタリーを見たほうがリアルだし、面白い。だから、どう企画にしようかと思いながら、『応天の門』(新潮社)というマンガを読んだときに「これって海外ドラマの『SHERLOCK』を平安時代でやっている感じだ」と思って、「麻薬密売も舞台を現代以外に変えて、歴史モノにしちゃえばできるんじゃないか?」と考えたんです。なので、僕が考えたときは「歴史×麻薬密売」という枠組みだけだったんですけど、その後に門馬さんが満州にするというアイデアを出してくださって、うまく発展していきました。

門馬 そんな軽い感じで始まったんですけど、いざ舞台を満州に決めて調べ始めると、掘れば掘るほどいろいろ出てくる(笑)。結果的に、作品の魅力につながったと思います。資料集めは国立国会図書館オンラインを活用しています。今は出回っていないような当時の本がたくさんあるので、インターネット・アーカイブでたくさん当たりました。中にはアヘンの製造法とか書いてあるものもあります。また、満州に関する書籍もたくさんありますが、どうしてもこうした本は書き手のバイアスがかかりやすいので、個人的にはフラットな視点で見られる昔の資料のほうが好きです。その土地の人たちが写っている写真とかだけでも、そこからいろいろ想像して膨らませています。当時の写真は一番息吹を感じるんですよね。

鹿子 でも、青幇の資料はないんですよね。

門馬 そうなんです。青幇の資料ってほとんど残っていなくて、杜月笙ですら写真が数枚あるかどうかのレベル。扱った作品も過去に『青侠ブルーフッド』(集英社)というマンガがあるくらいなんです。そのため、作中に登場する「帽子に黒ずくめの服装」というのは想像もありつつ、現実のマフィアのファッションも参考にして、いろいろと混ざっていますね。細かい部分は鹿子先生にお願いしています。

鹿子 僕は香港のノワール映画に出てくる、悪役っぽいキャラクターを参考にしました。

──作中では、年端も行かない少女・リンが「腕利きの売人」として登場してストーリーに動きを与えますが、となるとこれもフィクションなのでしょうか?

門馬 そうなります。ただ、これは僕の見解になってしまうんですけど、子どもが売人というのは実際にあったと思うんですよ。今でも貧困地域で、子どもを犯罪行為に使うというのはごく一般的に行われていることですしね。それに、変な言い方ですけど、ドラッグの世界というのは「売る側の力」で成り立っている業界なんですよ。一般的には「どうして買ってしまうのか?」という、買う側に注目しがちですが、現実として売る側がいるから続くわけであって、そこをメインに描ければ、真に迫れるんじゃないかと思っていました。

──主人公がアヘン製造に手を染め始めるきっかけは、病気の母親の治療代のためです。これは主人公たちを悪人とは思わせず、読者に感情移入させるための設定なんでしょうか?

門馬 いえ、むしろ僕はこいつらは完全に悪人だと思ってます。だからこそ、仕方がないみたいな罪悪感はあまり描いてないですし、あえて正当化をしたくもない。ドラッグを売ればお金も手に入るだろうし、何か成し遂げた気にもなるかもしれないけど、結局どういう悲惨な運命が待っているか。彼らがひどく追い込まれた状況にいて、わずかな光明にすがっているのは事実ですが、正しい道に行こうとしているわけじゃない……というのは、読者の皆さんにも伝わってほしいと思っています。そこまで描くのは、まだ先の話になりますけどね。

──先ほど、門馬さんも言われていましたが、本作はアヘン製造者・勇を中心に作って売る側が主役となります。一方で、買う側のアヘン中毒者たちのラリ顔も魅力的です。鹿子先生の画力が遺憾なく発揮されてますよね。

鹿子 必殺技みたいな気持ちで気合を入れて描いてますね。グルメマンガじゃないですけど、そんなイメージで(笑)。

門馬 あのアッパー描写に関しては、勇のアヘンが特別だと表現していると思っていただければと思っています。実際のアヘンはダウナー系の薬物なので、主人公が作るもの以外は、そういうぐったりとした描写にしています。もちろん実際に吸った人の本も読んでいますけど、あのラリ顔はマンガ的に派手にやってる部分だと思ってもらっていいですね。

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