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米国債、デフォルトに陥る可能性―デッドラインは6月中旬

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 米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている。米国債のデフォルトが現実味を帯びれば、株式市場は暴落、国債価格は急落し、急激なドル売りによるドル安・円高が進行するなど、世界の株式、債券、為替市場は大混乱に陥るだろう。

 1月19日、米財務省のイエレン長官は2021年末に設定された政府の債務上限額約31兆4000億ドル(約4100兆円)の上限に達したことを公表した。

 債務上限に達すると原則として新規の国債発行が禁止されるが現在、米財務省は公務員退職・障害基金の国債購入停止や為替安定化基金への投資停止などの特別措置を発動し、緊急避難的に米国債のデフォルトを回避している。

 イエレン長官はこれらの特別措置と財務省の手元資金、4月15日に予定される連邦税収を合わせれば、6月中旬までは債務返済や歳出を継続することができるとしている。つまり、米国債がデフォルトに陥るデッドラインは6月中旬ということだ。

「債務上限」は米連邦政府が借金できる上限額を指す。米国では議会が政府の借入額を決定する権限を持っており、議会が決めた債務上限額の範囲内で財務省が国債などを発行して、資金調達(借り入れ)を行う。

 米国では債務上限の変更は毎年のように行われており、いわば“年中行事”のようなものだ。第2次世界大戦後から現在までに債務上限は102 回変更されている。ところが、稀に議会での債務上限引き上げ協議が“暗礁に乗り上げ”、米国債のデフォルト危機が現実味を帯びることがある。

 直近では、オバマ政権下の11年がそうだった。米国では法案成立には上下両院での可決が必要だが、当時、与党民主党が上院で過半数、野党共和党が下院で過半数を占める“ねじれ議会”となり、オバマ政権と野党共和党が債務削減案を巡って対立、議会での債務上限引き上げ法案の交渉が難航した。交渉が合意して債務上限が引き上げられたのは、財政資金が枯渇する当日で、米国債はデフォルト寸前の危機的状況に陥った。

 22年11月の中間選挙で、共和党が下院の多数派を獲得、上院ではわずか1議席差で与党民主党が過半数を守ったが、上下院で“ねじれ議会”となっている。このねじれ議会は11年よりも議会の対立が激しく、米国債がデフォルトする可能性は11年よりも高いと見られている。

 新議会招集後の下院議長の選出が共和党保守強硬派議員の反対で難航し、15回もの投票が行われたことは日本でも大きなニュースとして取り上げられたが、下院議長に就任したケビン・マッカーシー議員は、債務上限の引上げを政治問題化している。

 米国では24年の大統領選挙を控え、共和党が新型コロナウイルス対策を含め、大きく膨れ上がった歳出に対して、債務上限の引き上げと引き換えに社会保障費やメディケア給付などを含めた歳出削減を求めており、ねじれ議会とともに債務上限の引上げの大きな障害となっている。

 2月7日、バイデン大統領は一般教書演説の中で、債務上限引き上げ問題で米国がデフォルトに陥る事態は招かないと強調し、議会に上限引き上げを呼び掛けたが、交渉が進展する気配すら見られないのが現状だ。

 これまで米国債がデフォルトに陥ったことはない。デフォルトが引き起こす影響の大きさを考えれば、最終的には両者が歩み寄り、債務上限の引き上げが行われると楽観視する向きは多い。だが、米国債がデフォルト直前まで債務上限の引き上げ交渉が難航すれば、世界中の各市場は大きく動揺するだろう。

 前述の財政資金が枯渇する当日まで債務上限引き上げ交渉が難航した11年には、米格付け機関のスタンダート&プアーズが米国の長期発行体 格付けを最上位のAAAからAA+に格下げた。債務上限の引き上げ交渉がデッドラインに近づくとともに、投資家の警戒感が高まり、米国株式市場は15%以上も下落した。米国債は一時的に急激な売りにより、価格が大幅に下落し、利回り(長期金利)は急上昇し、為替相場ではドル安・円高が進行した。

 同様の事態は今回の債務上限引き上げでも発生する可能性が高い。最終的には米国債のデフォルトが回避されるとしても、米国の財政資金が枯渇するデッドラインが迫れば、それを引き金に、世界の市場が混乱に陥る可能性があるのだ。

 一部では、6月15日に米国の連邦税収が予定されることで、デッドラインは秋口まで引き延ばせるとの見方もあるようだが、現時点では米財務省のイエレン長官は6月中旬がデッドラインになるとの見方を変えておらず、今後、米国債のデフォルト危機に対する警戒感は一層高まるものと思われる。

 国内で植田和男氏が日本銀行の新総裁に就任予定となったことで、今後の日銀の金融政策に注目が集まっているが、世界の市場に与えるマグニチュードでは米国債のデフォルト危機の方がはるかに大きい。今後の米国議会の動向を注視していく必要がある。

 

 

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2023/02/18 08:00
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