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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.736

役所広司&菅田将暉共演『銀河鉄道の父』 宮沢賢治はリアル“でくのぼう”だった?

役所広司&菅田将暉共演『銀河鉄道の父』 宮沢賢治はリアル“でくのぼう”だった?の画像1
国民的童話作家・宮沢賢治(菅田将暉)の意外な一面が描かれる

 視点を変えることで、それまでとは違った歴史や人物像が浮かび上がってくる。作家・門井慶喜の直木賞受賞作『銀河鉄道の父』(講談社)は、童話作家・詩人として著名な宮沢賢治の生涯を、父親の視点から描いたユニークな作品だ。「純朴な人」というイメージの強かった宮沢賢治だが、父・政次郎にしてみれば、家業を手伝うことなく浪費ばかりする放蕩息子だった。だが、そんなダメ息子のことが、政次郎は愛おしくて仕方なかった。おかしくも、せつないホームドラマとして『銀河鉄道の父』が映画化された。

 生まれついてのボンボンで、純粋すぎるがゆえに常識はずれな行動を繰り返す宮沢賢治に、『共喰い』(13)や『そこのみにて光輝く』(14)から活躍が途切れることのない菅田将暉。兄・賢治の文才をいち早く認めた妹・トシに、『ラストレター』(20)の森七菜。そんな子どもたちを厳しくも、温かく見守る父・政次郎に役所広司。人気と実力を兼ね揃えた俳優たちによるアンサンブルが楽しめる。

 1896年(明治29年)8月27日、宮沢賢治は、岩手県花巻で質屋を営む宮沢政次郎の長男として誕生した。政次郎(役所広司)は大変な子煩悩で、幼い賢治が赤痢で入院すると、周囲の反対を押し切って、付きっきりで看病するほどだった。当時、家長である父親が子どもの面倒を看ることは、非常に珍しかった。

 愛情いっぱいに育った賢治(菅田将暉)は盛岡中学、盛岡高等農林学校を卒業。政次郎は賢治が家業を継ぐことを望んだが、賢治は質屋になることを嫌った。人工宝石を製造・販売する新しいビジネスを始めるので、政次郎に出資してほしいと頼む。賢治の世間知らずぶりを政次郎が一喝すると、今度は日蓮宗に没頭し、日蓮宗系の団体「国柱会」へと参加する。自分探しに迷走する賢治に、宮沢家の人々は振り回されっぱなしだった。

 父・政次郎と兄・賢治の衝突を、いつも仲裁するのはしっかり者の妹・トシ(森七菜)の役割だ。「お兄ちゃんは、日本のアンデルセンになるって言ってたべ」と賢治を励ましていたトシだったが、不治の病とされていた肺結核にトシは倒れてしまう。

 最愛の妹・トシの生命と引き換えるかのように、賢治は『風の又三郎』や『春と修羅』などの代表作を生み出すことになる。そして賢治自身にも、死の影が忍び寄る。無名の作家・宮沢賢治を世に送り出すため、家業そっちのけで奔走する政次郎の姿があった。

賢治のすべてを受け入れた父・政次郎

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父・政次郎(役所広司)は子どもたちに高等教育を受けさせた

 本作のメガホンをとったのは、『八日目の蟬』(11)や『ソロモンの偽証』二部作(15)などの社会派ドラマで知られる成島出監督。家族から見た宮沢賢治像が、とても人間臭く描かれている。2018年に原作小説が刊行されると、成島監督はすぐに映画化を申し込んだという。

成島「宮沢賢治は非常に面白い人物で、以前から興味があったんですが、すごく多様な面があり、枝葉の多い人。眉唾ものも含めて、あまりにもエピソードが多すぎて、映画としてまとめるのが難しいなぁと思っていたんです。そんな折に門井さんの原作小説を読み、父親の視点から描くというアイデアに、なるほどと感心しました。政次郎に関する資料は少ないんですが、歴史に強い門井さんは丹念に調べて小説化しています。賢治が赤痢で入院した際に政次郎が看病したのは、史実に基づいたもの。それに考えてみれば、親子ゲンカしながらも、最終的には賢治がやりたかったことを、政次郎はすべて受け入れ、やらせたわけです。しかも、地方の古い宗家でありながら、賢治の死後には浄土真宗から日蓮宗に改宗しています。当時ではあり得ないことです。門井さんの原作を読むと、政次郎は大変な親バカでイクメンだったことが分かり、すごく辻褄が合うんです。この切り口は映画になるなと思い、プロデューサーと共に門井さんに映画化を申し込んだんです」

 成島監督は、役所広司が主演した監督デビュー作『油断大敵』(03)や大泉洋&小池栄子共演作『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(20)などのコメディタッチの映画も手掛けており、本作も物語前半は、夢見がちな賢治が巻き起こす騒ぎの数々をコミカルに描いている。

成島「今回は賢治と政次郎の父子関係に、トシを加えた3人を幹にした、シンプルなプロットとして映画化しています。原作には面白いエピソードが多いので、『八日目の蟬』や『ソロモンの偽証』のように1クールもののテレビドラマ版があっても面白いかもしれません。コメディとして撮ったつもりはありませんが、一生懸命に本音で生きている家族をドラマ化すると、笑えてくるものになると思うんです。笑いもあれば、涙もある。おもろうて、やがて哀しき……、という日本映画のかつて伝統だったペーソスの世界ですね。僕も大好きなんです。単なるコメディよりも、ペーソスのほうが日本映画には合うように思うんです」

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