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緊急INTERVIEW【監督・橘正紀×ボンズ・南雅彦】

いよいよ最終回!『東京マグニチュード8.0』が描いたリアル(後編)

tm80.jpg(C)東京マグニチュード8.0製作委員会

前編はこちらから

★この記事には重要なネタばれが含まれています。第10話未視聴の方はご注意ください。

──そもそも「ただ帰るだけで物語になるのか」という根本的な不安はなかったんですか?

 ああ、ありましたね。だからプロット作りには時間をかけました。どういうふうにドラマの山を作るのかをセッションして、いまのかたちに落ち着くまでに3ヶ月くらいかかりました。

 地震そのものではなく、地震の後の物語だからドラマはあくまでも人間を描くことですよね。余震で物語を引っ張るのも前半で精一杯だったよね。

 そうですね。回を追うとどうしても、地震で何かが崩れることに慣れてきてしまう。早い段階で大きい建物を壊して、そこからドラマで大きなうねりを作っていこうという感じになりました。

──現象としての物理的な破壊から、ドラマは精神的な面に移っていく。転換点としては5話の老夫婦かと思ったんですが。

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 ぼくのなかでは4話でお姉ちゃんと弟くんがケンカしたところから変わっているんですね。それまでわがままばかり言っていたお姉ちゃんが、きちんと弟のほうに目を向けるようになって、そこから内面を掘り下げる話に切り替えていく。4話のケンカがあったから5話が作れたとも言えます。そこから地震で心に傷を負った人たちを描いていく流れに切り替わっています。

──2話では、何かの下敷きになった死体の足がのぞいている。これは物理的な死ですけれども、お話が進むにつれてだんだん遺されたものの心の傷へと、死を描写する視点が移っていきますよね。それでいよいよ8話以降のお話をうかがいたいんですが、なぜ悠貴くんをドラマとして「殺し」、未来ちゃんを遺したのでしょうか。

 地震のなかで家に帰るという物語ですから、どこかで地震の危険性が明示されていないといけない。怖さを見ている人に追体験してもらおうと思ったんです。最初はみんなが無事に帰る結末もあったんです。でもさんざん悩んで、悠貴くんになりました。

 自分は本読みから号泣してた。ほんと、脚本でこんだけ泣けたんだから、フィルムで泣けなかったら監督のせいだからな、と言ってね(笑)。でも、地震が起きたら多くの人命が失われる、身近な人が亡くなるかもしれないという、そこまでの覚悟って地震に対してみんなできてないと思う。だからこそ大地震をテーマに持ってくるのであれば、そこまで(主人公の死を受け入れる)の想像力をもってやらなければいけないし、持ってもらいたいという覚悟でやってはいますよ。

──未来ちゃんが心を入れ替えていいお姉ちゃんになろう、と決意したとたんに、急に悠貴くんが亡くなってしまった。心残りがあり、死んだ事実を受け入れられずに、ああして悠貴くんの幻をこさえて話をするしかなかったのかと思うと本当にかわいそうで。

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 阪神淡路大震災で家族を亡くした人が、不意に亡くなった子どもの声を聞いたことがあったと聞きます。ずっと弟のために何かをしてあげようと思っていたことを、幻相手にしてあげる。あの弟くんが幻だったのか、それとも霊だったのかは、視聴者の方々に考えていただきたいことではありますが、そこにアニメーションなりのファンタジーがある。弟の死が、お姉ちゃんの心の成長を丁寧に描くためのキーポイントになったんです。

 未来ちゃんのストーリーとしてはほんとうに入口みたいなもので。人の死を簡単に受け入れられる人間なんてそんなにいないでしょう。大人であってもそうそう受け入れられないのに、未来ちゃんはまだ中学1年生の子どもだよね。未来ちゃんが悠貴の死をほんとうに受け入れられるのは、11話よりもっともっと先の話なんだけど。人間は過去を思い出すことはできるけど、過去には戻れない。戻すことは絶対できなくて、未来に向かって進んでいくしかない。そこを、特に11話を見て、感じてもらえればいいと思う。

 ショックに耐えられなくて自分でああいう幻を作った。もしくは霊を見てしまう、側にいる気になってしまう。弟の死を受け入れるまでの時間が必要ですから。でも、それにいつか気が付かないと生きていけない。わかっているんだけど受け入れられなくて、でも受け入れなければいけない、という葛藤が10話でした。

 失った悲しみとか、失いたくない葛藤を表現したかったんです。そういう辛さ、苦しさを表現できないかと思った。親しくしていた方が亡くなったときも、またひょっこり出てくるんじゃないかな、という気もしましたし。そういう感覚をアニメのなかで表現したいという気持ちがありました。言葉では伝えづらいんです。

──未来ちゃんとお母さんとの諍いが最後に回収されると思うんですが、そこにお言葉をいただけますか。

 最後どういうふうに回収されるかは、やはり最終回を見ていただいて、見た方それぞれに感じ取ってほしい。いまここで、安易な言葉では語らないようにしようと思います。どこか未来ちゃんに重なる部分を感じて見てくれていたら、それが最終回の答えになるんじゃないかと思っています。

──ありがとうございます。最終回、楽しみにしています。ところで南さん、最後にこれからのボンズの展望をお聞かせいただけますか?

 ウチはもう、アニメーションを作る会社なので、アニメーションを作っていくと。いろいろなクリエイターといろいろな作品を作って、見てもらいたい。見てもらう場所を探していっしょにやっていきたい。それ以上ないんじゃないんですか。みんなおもしろいものを作ろうとしているし、作れると思っているし、それを見てくれるお客さんもいる。まぁ、もうちょっと制作にスケジュールと予算のゆとりがでると嬉しいけど。『M8』でアニメ作品のひとつの作り方を提示できたと思うので、続編と言うよりは、橘くんが次にどんな作品を作れるのか、楽しみに待っていてもらえれば。

──橘さんはどういう人でしたか?

 最初はこんなまじめな奴が監督つとまるのかな? と思っていたけど、なかなかの頑固者であり、作品全体を見通すバランス感覚ももっている。ただ、映像に関してはほんと、変態だね(笑)。
(取材・文=後藤勝)

●たちばな・まさき
アニメ演出家。東映アニメーションで『ドラゴンボールGT』『ドクタースランプ』などの演出助手を務めたのち、フリーに。プロダクションI.G.で「攻殻機動隊」シリーズの演出に携わり、今回ノイタミナ『東京マグニチュード8.0』監督に抜擢される。キネマシトラス所属。

●みなみ・まさひこ
アニメプロデューサー。ボンズ代表取締役社長。サンライズで制作進行、制作デスクを務めたのち、98年にアニメ制作会社「ボンズ」を設立。『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』シリーズや、劇場公開作品『カウボーイビバップ 天国の扉』などハイクオリティな作品を次々に発表している。

東京マグニチュード8.0 (初回限定生産版) 第1巻 [DVD]

DVDは10月28日より。

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最終更新:2009/09/17 15:51
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