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「なんでもない日が素晴らしい」都会の日常に溶け込む『東京空気公園』

kukikoen.jpg『東京空気公園』(主婦の友社)

 家や職場の近くに公園がまったくない、という人はたぶん少ないだろう。広くて有名なところでなくても猫の額ほどの大きさで、ベンチや遊具がちょっとあるだけの、名前も付いていないような公園なら、一つくらい思い当たると思う。都会の日常生活に溶け込んでいるそんなスペースを「空気公園」と名付けて紹介したガイドブックが『東京空気公園』(主婦の友社)だ。
 
 著者・tsukaoは、ありふれた風景をはっとするほど魅力的に切り取った作風を生かし、郵便局の年賀状サイトや雑誌・音楽・広告などさまざまなジャンルで活躍する写真家。また、写真とマンガを融合させた作品づくりにも取り組んでいる。『東京空気公園』は、「空気公園」の風景写真と紹介コメントに、その公園からインスパイアされたショートコミックが加えられた構成で、著者の手腕がいかんなく発揮されている。

 ショートストーリーには、公園ごとにさまざまな人・時間・シチュエーションが描かれている。それを読むと分かるのは、公園がどんなシーンにも対応している、とてつもなくフリーな場所であるということだ。

 誰と行く?(ひとりで/友だち・恋人・家族と)、いつ行く?(朝/昼/夕方/夜、平日/休日)、何をする?(散歩/スポーツ/読書/食事/お酒を飲む/おしゃべり/ただ通り抜ける/何もしない)

 これらをどう組み合わせもいい場所なんて、ほかにはなかなかない。しかも、お金もほとんど掛からない。

 さらに、ちょっと極端に言えば、自分次第でどこだって公園にできてしまうのだ。例えばこの本では、原宿のファッション流行発信地・キャットストリートも「空気公園」として紹介されている。スタイリッシュなショップが立ち並ぶ中、植え込みやベンチが置いてあるスペースもあるが、そこを「公園」だと思っている人はあまりいないだろう。それでも、この本のショートストーリーに出てくるカップルのように、ちょっと座って休憩がてら、道行く人を見ておしゃべりすれば、そこはもう公園と言ってもおかしくない。

 「日常の風景」とは単調なもので、カメラマンが撮った写真のようにキラキラして見えることなんて、ほとんどない。それでも、この本を見ていると「なんでもない日バンザイ! なんでもない場所バンザイ!」という気持ちがわき上がってきてしまう。

 手元にあるだけで、空気をたくさん吸い込んで深呼吸した時のように気持ちがふっと明るく軽くなる一冊、うつ気味になりがちな時や、退屈を持て余した時、ぜひ手に取ってもらいたい。
(文=萌えしゃン)

●ツカオ
1977年5月生まれ、神戸出身。神戸大学卒業。写真家・菅原一剛氏に師事し、2006年に独立。雑誌・音楽・広告などさまざまなジャンルで活躍するかたわら、写真からインスピレーションを得てつづるマンガのショートストーリーを作成。誰の頭の中にもある、温かい記憶が蘇る作品づくりを心掛けている。
<http://tsukao.net/>

東京空気公園

穴場もりだくさん。

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最終更新:2013/09/13 15:34
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