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凶悪犯罪の真相

「尼崎には、同じようなんはなんぼでもおる……」尼崎連続変死事件・角田美代子が求めた“家族”の姿

kazokugui.jpg『家族喰い――尼崎連続変死事件の真相』(太田出版)

 「尼崎連続変死事件」は、その残虐性とともに、まるで全容が見えない不可解さで、多くの人びとの注目を集めた。事件に関わる容疑で逮捕されたのは8人、事件に関連して死亡したとみられる被害者は10人以上の大惨事だ。この事件の首謀者である角田美代子は、2012年12月に留置所で首を吊り自殺。事件の真相は闇に包まれた。

 この事件を解き明かそうとする一冊が、ルポライター・小野一光による『家族喰い――尼崎連続変死事件の真相』(太田出版)だ。事件に関係する人物たちが、複雑怪奇に絡み合ったこの連続変死事件。さながら中上健次か、それともガルシア・マルケスの小説かというような入り組んだ関係図だ。本書では、丹念に現場を取材し、人々の証言をかき集めることで、関係図を丁寧に解きほぐしながら、その「真相」に迫っていく。

 美代子をはじめ、内縁の夫・鄭頼太郎や、戸籍上の長男・角田優太郎、義理の妹・角田三枝子らによって構成された「角田ファミリー」の残忍極まりない手口は、報道によって広く明らかになった。借金やいさかいなどの些細なトラブルの種を見つけると、家族や親族たちに踏み込み、恫喝し、軟禁し、徹底的に金を巻き上げていく。美代子たちは彼らに、何時間にも及ぶ「家族会議」を開かせ、親族間で暴行を加えさせる。被害者たちが警察に訴えたところで、家族間の暴力は「民事不介入」として立ち入ることができない。平和な日常を過ごしていた一家は、美代子の存在によって、地獄に突き落とされ、ついには親族内の殺人にまで発展していく……。

 この手口を評して、小野はこう書いている。

「たしかに、すべては美代子が元凶だ。彼女さえ関わらなければ、なにも凶事は起きていない。しかし、真に厄介なのは、美代子は媒介だということだ。彼女の存在によって、社会の、個人の、そのなかに潜む悪の部分があぶり出され、被害者にまとめて降りかかってくるのだ」

 美代子の振る舞いによって、人々の悪や暴力が徹底的にむき出しにされていく。恫喝し、追い込み、不眠不休の家族会議を開催させることで、人々の理性はあっけなく崩されていく。彼女は人を殺さない。殺すように追い込むだけなのだ。

 では、この美代子とは、いったいどのような人物なのか? 

 左官職人の手配師であった父と、「新地」と呼ばれる非公然売春地域に務める母の間に生まれた美代子。中学校にはろくに出席せず夜遊びで補導を繰り返し、少年院にも入れられている。中学時代の担任を務めた元教師は「とにかく月岡(注:角田美代子の旧姓)には親の愛情が足りへんかった。それは間違いない。あの子は親の愛情に恵まれんかった子なんや」と振り返る。そして、高校を1カ月で退学すると、美代子は「よくある不良少女」の枠にとどまらなくなっていく。実の親から仕事場として紹介された売春街を渡り歩き、19歳にして、少女に売春を斡旋した容疑で逮捕。その後もスナックの営業や売春斡旋、恐喝行為などを主な収入源としながら尼崎の地で生きのびていく。そして、彼女が家族の問題に介入し、金銭をむしりとるようになったのは1998年、50歳の頃だった。

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