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週刊!タレント解体新書 第47回

視聴者の言葉をつなぐ90分間のDJショー NHK総合『今夜も生でさだまさし』(6月29日放送)を徹底検証!

 言うまでもないことだが、テレビ番組とは多くの人たちの手によって作られている。出演者、ディレクター、プロデューサー、カメラマン、音声スタッフ、美術、などなど。これだけ多くの人々が関わるというのはテレビの世界では常識であるが、その常識に歯向かっているのが『今夜も生でさだまさし』(NHK総合)だ。出演者はさだまさしと、構成スタッフと音響スタッフの3人のみ。VTRは差し込まれず、セットは簡素そのもので、テロップでさえ手書きのボードで提示される。制作にかかる人数と予算を極限まで抑え、原始的なテレビの形を模索しているのが『今夜も生でさだまさし』だともいえるだろう。

 6月29日放送の舞台は京都の清水寺であった。普通なら貸してもらえない珍しいシチュエーションだが、さだはそのことに感謝を述べつつも、番組のスタイルはいつもと少しも変わらない。“清水寺の隠された秘密を暴く”的なノリは一切なく、いつものように淡々と視聴者からのハガキを読み続け、しゃべり続ける。それはいわゆるテレビの常識には反しているが、それでもテレビとして成立している。削ぎ落としたものが欠落ではなく、むしろ豊かさとして示されていて、わびさびの世界さえ感じてしまうほどだ。

 もちろんそこには、さだのしゃべり手としての稀有な能力がある。ミュージシャンでありながら、ライブでのトークだけを集めたCDボックスセットを発売しているだけあって、どんなハガキの内容に対しても面白く落とすのはさすがだ。しかし、それはさだの才能の為せるわざではない。淡々と進行していく番組を注意深く見れば、さだは一切、どのハガキを読もうかと悩むそぶりを見せていないことに気づくはずだ。そこには、横にいる放送作家のスタッフさえもタッチしていない。さだは淡々と、あらかじめ決められた、というかおそらくさだが、決めた順番で、視聴者からのハガキを読み続ける。

 この番組は、一見するとAMラジオのテレビ版に似ているが、むしろやっていることは90分間のDJショーだ。視聴者からのハガキをレコードとして、本来の音楽的な意味でのディスク・ジョッキーの作業をさだは行っている。だから注目すべきは、さだのしゃべり手としての能力よりも、むしろ「選曲」のセンスだ。90分間という時間の中で、視聴者からのハガキが最も効果的に聞こえるようなセットリストを作っているのは、明らかにさだまさしその人である。

 たとえばこの日の番組では、東京都港区在住の稲見正子さん(65歳)によるハガキが読まれた。さだは「今夜も生でさだまさし。港区、稲見正子さん、65歳……」とハガキを読み上げたところで苦笑する。カメラに向かってハガキを見せると、その宛先の面には番組の名前が、もう一方の面には住所と氏名、年齢は書かれているのだが、そのほかのメッセージが書かれていない。「何かにご応募なさったんでしょうか?」と戸惑ったふりをしながらも、さだは港区の稲見正子さんだけに向かって「次はハガキのこの辺にご意見などお書きくださると、番組も盛り上がるという風に思います」と語りかける。

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