どうあがいても絶望しか感じない暗黒のラスト……オタクの青春の終焉を描く『げんしけん』最終巻
当の斑目は、どうであったのか。この男は、ハーレムの最中も、そして、最終局面まで攻略不可のヒロインと、どうにかなるのではないかという希望を捨てなかった。ファンディスクだとかコンシューマー化の際の追加シナリオがあるのではないかと、わずかな希望を抱き続けていた。その無謀な一点突破でのヒロイン攻略を諦めていなかったことが明らかになるのは、咲が斑目に決着をつけさせるために「妊娠した」と嘘をついた瞬間だ。
この時、斑目は人目も憚らずに「誰でもいいから、やっときゃよかった」と叫ぶ。咲の視点からすれば、そこまで想われれば半ばは迷惑だけれども、半ばはまんざらでもないというところだろう。だからこそ、決着をつけるために手を差し伸べるのだ。
とはいえ、ハーレムのヒロインたちにしてみれば、完全に十把一絡げの扱いをされながら、ここまで引っ張られていたことが、わかってしまう瞬間だ。
斑目は、誰とも付き合わないと告げた時、各々のヒロインに丁寧に理由を述べるが、それも、その場をやり過ごすために、言葉を弄んだだけだったのである。
前述したように、斑目にスーを選択した理由を、咲も明確に持っているわけではない。ただ、読者には見えるだろう。暗黒の未来が。
このジョックスの餌食として生きてきたとしか思えない、金髪娘。ナードの側でも扱いに困るシロモノだ。既刊も含めて読み返してはみたのだが、げんしけんのメンバーですら、まともにコミュニケーションが取れているかといえば疑問である。それでも、げんしけんのメンバーは、まだコミュニケーションが可能だ。それは、マンガやアニメを媒介として共通言語を持つことができるからだ。
だが、それは大学というモラトリアムの空間の中でのこと。この先、とことんコミュニケーションが不要な仕事を選択しなければ、生きづらさを抱え込む人生が待っている。日本で暮らしていれば、コミュ障の部分も「外人さんだから、仕方ないな……」と言語や習慣の違いと勘違いしてくれるだろうけど、それでも限界がある。
何より、これからの斑目との恋愛は、どう構築されていくのか。身体の関係が出来るのは早いだろう。単行本の、おまけマンガでは、まだキスまで至っていないことを記しているが、ここから肉体関係の発生まで、あと2週間程度と推測できる。なぜなら、この2人は、お互いの気持ちが一致して関係を結ぶのではなく「そういうものらしいから、やらなければならない」という一種の強迫観念の中で挿入に至るに違いない。
結果、実はマスターベーションのほうが気持ちいいと心の中でボヤきながら、どちらかの家で漫然と行為だけは繰り返されていく。お互いに遠慮しながら、習慣的にやらなければならないという思いだけを抱えて。身体を重ねても通じ合えない行為の繰り返すが別れはこない。互いに、自己評価の低い人生ゆえに次はないと思っているから、結婚には至るだろう。ただ、コミュニケーションに難ありな夫婦間に、子どもでもできたら、どんな結果が待っているのか……。
やっぱり、波戸クン。時点で、笹原妹と付き合っておけばよかったのに……。すべての元凶となった咲は、責任は感じても責任は取らない。
人生において一瞬の快楽や喜びの後には、それを無にする崖を転げ落ちるような絶望が待っていることを、改めて感じた。ここまで、足かけ14年。誰も何も成長なんて、なかったんだよ……。
(文=昼間たかし)
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