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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.414

日本人専門歓楽街タニヤ通りで生きる女と男の物語 『バンコクナイツ』に見る楽園のリアルな内情!!

日本人専門歓楽街タニヤ通りで生きる女と男の物語『バンコクナイツ』に見る楽園のリアルな内情!!の画像1バンコクにある日本人専門の歓楽街タニヤ通りで働く女たち。彼女らとのコミュニケーションは日本語でOK。

 女、ドラッグ、拳銃……。男が欲しいものは、そこへ行けばすべて手に入るという。タイの首都バンコクは、自国に息苦しさを感じている男たちを否応なく惹き付ける魔力に溢れている。日本人専門の歓楽街タニヤ通りに繰り出せば、日本語の看板と妖しいネオンがきらめいている。店のドアを開くと、甘い匂いを漂わせたセクシーな美女たちがひな壇にずらりと並び、指名されるのを待っている。男たちの脳内物質を刺激して止まない、そんな夜の歓楽街へとカメラはごく自然に入っていく。そして、男と女の出逢いと別れのドラマをカメラは映し出す。富田克也監督ら空族によるインディペンデント映画『バンコクナイツ』は、日本映画でありながら今まで描かれることのなかったタイの内情とバンコクに集まる人々の心情を赤裸々に描き出していく。

 富田監督は前作『サウダーヂ』(11)で自身の故郷・甲府を舞台に、地方都市で暮らす肉体労働者や外国からの移民たちのシビアな日常を描き、国際的な評価を得た。『サウダーヂ』に出てきた人々は働いても働いても楽にならない生活に疲れ、楽園に旅立つことを夢想する。そんな彼らの楽園願望を叶えてくれる先が、“ほほえみの国”タイだった。構想10年、製作に4年を要し、映像制作集団・空族を支援するファンから集まったクラウドファンディングで完成したインディペンデント大作が『バンコクナイツ』だ。この世界に楽園は存在するのか? そんな楽園での暮らしはどんなものなのか? レオナルド・ディカプリオ主演作『ザ・ビーチ』(00)とは異なるリアルな楽園像を空族は追い求めていく。

 上映時間182分という長尺ながら、物語はシンプルさを極めている。日本人男性がタイの女性と恋に堕ち、楽園を目指すというものだ。バンコクのタニヤ通りで働くラック(スベンジャ・ポンコン)はお店でNo.1の人気嬢。裏パーティーに呼ばれたラックは、そこでかつて恋人だったオザワ(富田克也)と再会。元自衛官のオザワはバンコクに出てきたばかりのラックと出逢い、2人は恋に陥った。その後、オザワはネットゲームで日銭を稼ぐ、いわゆる海外沈没組に成り下がってしまう。高給マンションで暮らすようになったラックとは身分違いとなったが、それでも5年ぶりに巡り合った2人は焼けぼっくいに火が点くことに。そんなとき、オザワは自衛隊時代の上官・富岡(村田進二)からタイの隣国ラオス周辺の不動産の調査を依頼される。ラックの故郷イサーン地方は、ラオスとの国境に近い。オザワとラックはバンコクから抜け出すように、イサーン地方へと向かう。ラックの故郷で暮らす人々は、みんな純朴だった。自然が豊かで昔ながらの共同体が残るイサーンは、日本の高度成長期の田舎町を思わせ、どこにも居場所のないオザワの目にはまるで桃源郷のように映った。

 ラックをはじめとするタイの女性たちは美しく、たくましく、そして情が深い。彼女たちはプロの女優ではなく、実際に夜の街で働く女たちだ。現在はバンコクで暮らし、プロモーションのために日本に帰ってきた富田監督は『バンコクナイツ』の舞台裏をこう語った。

富田「僕と脚本を担当した相澤(虎之助)の2人で夜のバンコクを歩き回って、『この子、いいな』という女の子たちに声を掛けていったんです。タニヤ通りの撮影は苦労しました。何度も通ってお願いしているうちに、『いつになったら撮るんだ?』と訊かれるような関係になった。タニヤ通り以外のシーンの撮影を先に済ませ、もう機は熟しただろうというタイミングでタニヤ通りでカメラを回そうとしたんですが、やっぱりダメで騒ぎになっちゃったんです。そこでようやくボスが現われて、呼び出されました。タニヤ通りは複雑で、最終的な話を誰につければいいのか分からなかったんです。僕らの切り札は、それまでに撮った映像だけ。ダイジェストをボスに見てもらったところ、『OK。パーフェクトだ!』と(笑)。翌日からはスムーズに撮影できるようになりました。撮影がOKになった要因として、この映画に出演してくれた女の子たちがみんなで『この人たちは悪い人たちじゃないよ。撮影させてあげて』と頼んでくれたことも大きかったと思います。『バンコクナイツ』が撮影できたのは、本当に彼女たちのお陰です」

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