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鉄道は赤字が基本!? 赤字ローカル線は日本国民の“公共財”?

20080326_tetudou.jpg福井県福井市の都心部と三国港、および勝山方面を結ぶ、えちぜん鉄道。以前この路線を所有していた京福電鉄が01年6月に運行を停止するも、地元住民の強い意向などもあり、02年7月にえちぜん鉄道として復活した。(写真提供/椎野吾一)


 利用者減少に歯止めがかからず、きわめて苦しい経営を強いられている地方民鉄各社(JRや大手民鉄16社、大都市高速鉄道7社等を除いた鉄軌道事業者)。1974年には4億4000万人だった地方民鉄の年間輸送人員は、その後減少を続け、90年代前半に一時やや盛り返したものの、04年には2億6800万人と、30年前の約61%にまで落ち込んでいる。そうした状況下で、最近5年間に限っても、のと鉄道や神岡鉄道、鹿島鉄道、くりはら田園鉄道など、10以上の地方民鉄が、一部または全線廃止を余儀なくされている。

 利用客低迷の最大の要因は、まずモータリゼーション(自動車の普及)。そして、少子化により、最大の得意客である通学利用の高校生が減少したことだ。

 「どの地方民鉄も、人員コストの削減は限界に達しており、このままでは、安全面のコストがさらに切り詰められる懸念もあります」と、ローカル線の現状に詳しい日本政策投資銀行の浅井氏は語る。同氏によれば、地球温暖化も利用客減少の一因になっているという。降雪量の減少により、冬場の自動車や自転車の利用が増え、客離れに拍車をかけている、というわけだ。昨今の日本を席巻する変化のすべてが、地方民鉄にとってマイナスに作用しているかのようである。

 さらに、地方民鉄の中でも、勝ち組と負け組の差が浮き彫りとなっている。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「全地方民鉄の約半数に当たる、都市化の進んでいる地域では、利用客が横ばいか、やや増加傾向にあり、減少し続ける残り半数との差は開くばかりです。また、大都市近郊でも、つくばエクスプレス開業によって深刻な経営状況に陥っている関東鉄道や総武流山電鉄のように、新線開通のあおりを受けている民鉄もあります」

 そうした厳しい状況をなんとか打破するため、地方民鉄各社は、涙ぐましいまでの努力を重ねている。自社ウェブサイトに「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」という悲痛なメッセージを掲載したことが反響を呼んで、名物のぬれ煎餅の売り上げが運賃収入を上回り、なんとか廃止の危機をしのいでいる銚子電鉄や、女性アテンダントを乗務させることで利用客獲得に成功したえちぜん鉄道などは、まだしも恵まれた例だ。

 浅井氏は、観光列車の運行や、観光地とのタイアップなどによって交流人口(外部から訪れる人口)を増やす策では、一時的な効果しか得られない、との見解を示した上で、「地方民鉄の赤字は、せいぜい150億円規模。3兆円規模の道路特定財源からすれば微々たるもので、これを投入すれば、状況は一変します。実際、利用客が増えれば道路が傷まなくて済むという論理で、道路特定財源の使途拡大分の一部は、すでに地下鉄整備に使われています」と述べる。また、梅原氏は、地方民鉄の生き残り策のモデルとして、若桜鉄道や松浦鉄道のように、高校前や都市部に駅を増設して新規の客を呼び込んだ例を挙げる。

 ただ、25万人の存続要望署名によって生まれ変わった和歌山電鐵の例を見ても、最後にローカル線の生死を決するのは、地元住民の熱意だ。

「鉄道は地元住民だけでなく、道路・水道・公園・公衆トイレと同じく、国民共有のインフラであり、社会資本なんです。環境に対する便益や子孫に対する遺贈価値など、安直な廃止によって失うものは計り知れませんし、しかも、鉄道は廃止されたら二度と元に戻らない。欧米では一般的な考え方ですが、鉄道というのは、赤字で当たり前なんですよ」(浅井氏)

 結局のところ、「企業である以上、利益を出すのが当然」という考え方を、鉄道経営にそのまま当てはめること自体に無理がある、ということのようだ。
(松島拡・文/「サイゾー」4月号より)

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最終更新:2008/04/07 15:17
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