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副島隆彦×佐藤優の処女対談

世界を裏で操っているのは誰だ?(後編)

obama_change.jpg副島氏によると、ロックフェラーらの意向で、次期大統
領に「当確」とされるオバマ氏。副島氏は、「米国大統
領選は完全な出来レースで、それを報道する番組など
はやらせ番組だ」と断じる。

前編はこちら

 ところで、佐藤さんは、日ロ平和条約締結と北方領土返還に向けた交渉で苦労なさった。それなのに02年5月に「背任と偽計業務妨害」という容疑で逮捕されました。01年に鈴木宗男・衆議院議員に捜査の手が入り、一緒に国策捜査された東郷和彦外務省欧亜局長(当時)と共に弾圧されました。対日強硬派といわれたプリマコフ外相(同)の意思の背景には、アメリカがある。つまり、アメリカが佐藤さんたちの北方領土返還の努力を叩き潰したと私は思っています。佐藤さんは確かに、イスラエルの知識人や外交官たちとお付き合いがありました。だが、その背後にもっと大きなグローバリストたちがいて、イスラエルの動きさえも牽制していたわけでしょう。

 ユダヤ人の中で私が親しく付き合っていたのは、イスラエル国家を第一に考えるシオニストです。グローバリストとしてくくられるコスモポリタニストとは別の流れの人たちです。

 そうですよね。イスラエルの外交官や学者たちは、あくまでナショナリスト(愛国者)であり、グローバリストには「守るべき祖国や愛国心」はない。グローバリストは、すなわち地球支配主義者ですから、世界中を均質にして、今のアメリカのような国にしたい。

 つまりグローバリストとは、覇権主義を伴った普遍主義です。

 そうです。そんな中で、佐藤さんは日本の外交官として、ロシアの最もインテリで頭の良い、かつ権力も握っているパワーエリートたちと対等に付き合えた。なぜなら日本はロシアとは対等で、劣等感を持つこともない。日本の外交官のいわゆるチャイナ・スクール(中国派)の人たちも、同様に中国人とは真っ裸で付き合えて、一緒に温泉に入る対等な関係です。ところがアメリカに対してはそうではない。ワシントン・スクールの外務官僚たちは、アメリカ帝国とは絶対に対等な関係にはなれない。佐藤さんは苦労をなさいましたが、それでも幸せだったのは、ロシア人のもっとも優秀な人たちと対等に渡り合えたということです。アメリカと付き合おうとしても、日本人は子ども扱いされてしまう。
藤 ご指摘の通りだと思います。たとえば、アメリカの日本大使館員で、まともに上院議員に会える人は誰もいません。180人くらいいる職員のうち、共和党・民主党を合わせ、アメリカの内政問題を担当している大使館員はわずか2人です。それから外務省全体でアメリカの調査をやっている人間、内政・外政・軍事を行っている職員はわずか3人です。防衛省の情報本部のアメリカ分析官はゼロです。アメリカを調査するセクションが存在しないからです。

 日本語で「やけどをする」という言い回しがあります。政治家や官僚が国益を考えて本気でアメリカとの交渉窓口に立ったら、必ずやけどをする。愛国者として国益重視を貫くとアメリカの怒りを買って切り捨てられるのですが、そうなりたくなければアメリカの家来になって上手に生きる。言うことを聞かなければ左遷されるか、スキャンダルで追い詰められる。

 副島さんのご指摘は、いいところを衝いている。私がなぜ今も「起訴休職外務事務官」という肩書を捨てずに外務省批判をしながら頑張っているかというと、それは僕なりの戦い方で、後輩を守っているからです。外交の最前線に出てくると、絶対に事故が起きます。そのときに、中堅くらいの官僚が、トカゲの尻尾切りにされることはよくある。これに打ち勝つために、尻尾を切ってもうまく切れず、そこから毒が外務省自体に回って敗血症になるという痛みを経験させておけば、外務省は僕の後輩たちには同じようなことをできなくなります。私がやっていることは、まさにこのことなんです。

北方領土問題は、米国に仕組まれていたのか?

 修羅場をくぐって、ここまで生き延びてこられた佐藤さんは偉い。00年から02年の頃が、恐らく人生の地獄だったのではないでしょうか。

 そうでもなかったです。取り調べ中、鈴木宗男さんを検察に売り渡せばいつでも出してもらえたのですが、それをしなかったので、東京拘置所に512泊、513日間、勾留されました。しかし、もう良心に反する仕事はしないで済むのかと思ったらホッとしました。外務省では、それぐらいのことをさせられていたわけです。

 鈴木宗男事件【註3】は、たぶんアメリカに、北方領土返還を「いじらせない。返還させない。日本とロシアを絶対に仲良くさせない」という意思があって、それに抗う鈴木さんが犠牲になった。そもそも北方領土問題は、敗戦時にアメリカの外交官(のちに国務長官)のジョン・フォスター・ダレスが、日ロが手を結ばないよう初めから仕組んでつくったものでしょう。

 僕は、鈴木さんの件をこう考えています。アメリカという表象を使った人が外務省にいたことは間違いありません。ただし、赤坂のアメリカ大使館が誰かに、「鈴木を撃ってこい」などと命じたことはなかったと思います。おそらくアメリカの意向を過剰忖度した外務官僚が自発的に行ったのでしょう。まずは、そうしたアメリカの名を騙り、過剰忖度をする連中の姿を明らかにすることが重要だと思います。こういう連中の争いこそ、国益を損なう大きな要因だからです。

 いや、佐藤さんは外務省の組織の中にいた人だからそうおっしゃいますが、一番上のところの決断は、政治家がやっていますよ。親分であるアメリカの意を体現して、「今日は天気が悪いな」と言うと、その一言を聞いて、相手を刺しに行く。そういう政治家がいるんです。それはさておき、ロシア情勢に精通されている佐藤さんにぜひ、お聞きしたいのです。就任したばかりの(ドミトリー・)メドベージェフ大統領が、最近、「北方領土問題はもともと、2国間協議であり、6国間協議のようなものではない」と言明しました。つまり「アメリカは邪魔するな」ということでしょう。

 その通りです。プーチン前大統領とメドベージェフ大統領は、一緒の路線を歩んでいます。ですから、今後、北方領土問題は部分的に動くと思います。どういうことかというと、日ロ関係で一番進んだのは、森喜朗総理とプーチン大統領(いずれも当時)が、01年3月25日、イルクーツクの会談で声明を出したときです。この声明は、56年の日ソ共同宣言と93年の日ロ関係に関する東京宣言【註4】の双方を初めて明示的に記した外交文書です。日ソ共同宣言では平和条約が結ばれた後、2島を引き渡すことが、東京宣言では4島の帰属交渉を行うことが記されましたが、その両方を認めた文章は、それまでなかったのです。プーチン政権末期のぎりぎりのところだった今年の4月26日の福田・プーチン会談で、このイルクーツク声明が確認され、同じく、そのメドベージェフ次期大統領にもすぐ確認を取ったのです。ただ、4島一括返還でなければ絶対ダメだと拳を振り上げる連中がまた出てきて、これを潰そうとするでしょう。

 プーチン路線では、簡単には進まないでしょう。

 簡単ではありませんが、進めることはできると思います。副島さんはご存じと思いますが、ロシア人は「所有」に関して独特の感覚があります。ロシア人は所有の概念であるhaveという動詞を使いません。by me(私のそば)と表現します。「私のそばにある」ということが「持つ」ということなのです。「所有」の概念が希薄で「占有」なのです。だから、北方領土問題では、ロシア人の所有感覚を理解していれば取り返せる可能性があります。ロシアは占有していれば安心で、所有しなくてもいいのです。逆に言えば、その感覚をつかんでおかないと、日本はロシアと勝負できません。情勢を的確に判断していくには、情報だけではなく、感覚をつかむことも大事なのです。

 それが佐藤さんの言うところの、真のインテリジェンスなのでしょうね。
(構成・吉野勝美 写真・天野憲仁/「サイゾー」9月号より)

【註3】鈴木宗男事件
あっせん収賄容疑で、鈴木宗男衆議院議員が2002年6月に逮捕された。その後、鈴木氏は受託収賄、議員証言法違反などでも起訴され、一審で懲役2年、追徴金1100万円を言い渡された。現在、上告中。

【註4】東京宣言
エリツィン・ロシア大統領が細川護煕首相と東京で署名した文書。択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の帰属に関する問題を「両国間で合意の上、作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結する」と記している。

●佐藤優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。85年外務省入省。外務省元主任分析官。情報分析のプロとしてロシア外交の最前線で活躍。現在、起訴休職中。情報化時代に対応するための独自のインテリジェンス論を説く。

●副島隆彦(そえじま・たかひこ)
1953年福岡市生まれ。常葉学園大学教授。副島国家戦略研究所主宰。サブプライム危機をはじめ、現在進行しつつある世界経済の大変動を早くから予測。日本の持つべき国家戦略について提言し続けている。

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最終更新:2009/02/05 20:46
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