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 >   > 『マイマイ新子と千年の魔法』地味すぎるアニメ映画が起こした小さな奇跡(前編)
アニメ監督・片渕須直インタビュー

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『マイマイ新子と千年の魔法』は「ラピュタ阿佐ヶ谷」で1月29日までレイトショー
公開中。その翌日からは大阪「シネ・ヌーヴォ」に入る。
その他、山口県を中心に全国各地で上映が続いている。
(c)2009 高樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

 昨年末、席数わずか50程度の映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」は空前の熱気に包まれていた。8日間のレイトショーで公開された、ひとつの作品を観るためにファンが殺到。開演の10時間以上前にはすべての整理券が出払い、それでも劇場を訪れる観客は後を絶たず、連日その席数以上の人数が、やむなく入場を断られていたという。

 『マイマイ新子と千年の魔法』──小さな町の小さな劇場に大フィーバーを巻き起こした1本のアニメ映画は、その熱気を受けて年明け9日から再び3週間のアンコール上映に入っている。

 一体この作品の何が、そこまで人を惹きつけて止まないのか。片渕須直監督に話を聞いた。

──昨年末の大入りを受けてのアンコール上映ということで、まずはおめでとうございます。

片渕須直監督(以下、片渕) ありがとうございます。実はここ(ラピュタ)に来る前に新宿ピカデリーで上映していたんですが、終わりの頃はかなり口コミが広がって、大人のお客さんが来てらっしゃったんですね。それが午前中の上映だけだったので、多くのサラリーマンの方が会社を休んで観に来られているという、本当に申し訳ない状況になってしまっていたんです。やっぱり会社が終わった後に、のんびりした気分で映画を観ていただくのがいいんじゃないかと思って、ここへ来てレイトショーという形にしたんですが......。

──まったく入りきらないくらいの観客が来てしまった。

片渕 うん、想像を超えていました。初日から補助席まですべて、午前中に埋まってしまって。これは困ってしまうな、ということで劇場さんのほうからアンコールのご提案をいただきまして、今回また3週間のレイトショーということになりました。

──『マイマイ新子と千年の魔法』は、昭和30年代の山口県を舞台にした作品です。そもそもの企画の成り立ちというのは、どのようなところから。

片渕 この作品はそれまでの(アニメ制作会社)マッドハウスがやっていたこととはちょっと違って感じられるかもしれないけれど、企画当時のマッドハウスは、いろいろな方向の作品を作っていこうという意欲で経営陣が燃えていて、社長の丸田順悟さんが、子どもの世界の持つみずみずしさを映し出したこの話を映画にできないだろうか、と原作本を持ってこられたのが最初です。

──その原作『マイマイ新子』(マガジンハウス・新潮文庫刊)をお読みになった印象はいかがでしたか。

片渕 まず、映像的なイメージが、ふんだんに溢れた小説だと思いました。ぼくはアニメーションとは基本的にファンタジーであるべきだと捉えているのですが、たいていの場合、ファンタジーとは快楽原則的にゆだねていくのが普通です。それだけでは先行きがない、とも感じてたんですが、この小説は「心地よさ」だけで物語を作っていないな、という印象があって。26のエピソードからなるオムニバス的な話なんですが、そのひとつひとつに必ず死のイメージみたいなものが散りばめられているんです。それが、昭和30年代という時代にすごくマッチしていたような気がしますね。生活と死が隣り合わせにあることが今よりずっとあからさまだったような、そんな印象でした。これは、ストーリー的に一筋縄ではいかないな、と。

■この時代に"地味"なアニメで勝負できるのか

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とことん子どもの目線にこだわった本作。「とにかく、
あらゆる意味で、自分が子どものころはこんな感じ
だったよな、という感触の残り香を総動員しながら
話を作っていた」という。

──いま、アニメの世界は日に日に華やかになってきています。動きも速くなり、CGや3Dもどんどん取り入れられている。そういう市場のなかで、この作品は、言葉は悪いですが、一見してすごく地味に映りました。

片渕 地味ですね、地味です。はい。3DCGも使っていますが、あえて目立たない使い方にしています。地に足がついた感じが欲しかったんです。それで、「地に足がついた感じが心地よかった」という感想に数多く出会って、間違ってなかったと思いました。

──企画を進める上で、マーケティング的な障壁などはなかったのでしょうか。

片渕 作り手側は、わりと確信犯的に考えていました。いまは派手なハリウッド映画もたくさん作られているけれど、その内容的な部分、人物の描き方だったり、かなり画一化されてしまって、まるでルールブックがあって、みんながそれに従って同じものを作っているようにすら感じてしまう。映画って、観客がどんな風に新鮮なものを味わうかという"刺激"であるはずです。どれだけ派手でも新鮮じゃないものは単にボリュームが大きいだけの話で、それに対して太刀打ちできるな、という気持ちはありました。

──その「太刀打ちできる」という最大の武器は何だったのでしょうか。

片渕 自分が子どもだった頃、たしかにたずさえていたはずの、「子どもならではのものの見え方」みたいなものを、リアルに思い出せそうだったこと。その上で、登場人物を見渡してみて、その一人ひとりの人物像を心地よく描こう、と思ったこと。好感の抱ける人物を、しかし、単純に"外づら"がいいだけじゃなく、"内づら"も持たせつつ、次々と登場させる。そうした人物たちが総体として並んだときには、かなり大きな力になるのではないかな、と思っていました。

──確かに、人物像がすごくリアルに描かれているという印象を受けます。

片渕 昔は、自分がものを作ろうとしても、いい人って一通りしか思いつけない感じがあったんですよね。それが、年季のせいというのか、人間ってこういうものなんだなって、何となく理解できるようになってきた感じがします。主人公の新子が「転校生の貴伊子の内側にはきっと何かあるはずだ」と想像力を働かせたようなことと同じような気持ちで、もの作りしているということです。それを広げていって、我々が日常生活で出会う世の中の人全員に対して、「何かあるはず」という気持ちで接しつつ生きていくことができるんだとしたら、ずいぶんあったかい気持ちにもなれるはずですよね。そういうリアルなあたたかさを、映画を見る方に味わっていただけたら、そう思ったわけです。
後編へつづく/取材・文=編集部/写真=長谷英史)


●かたぶち・すなお
1960年、大阪府生まれ。日大芸術学部在学中から宮崎駿作品に脚本家として参加し、虫プロダクションなどを経て1986年、STUDIO4℃の設立に参加。その後、マッドハウスを拠点に精力的な活動を続けている。監督作として『名犬ラッシー』(96)、『アリーテ姫』(00)など。また、テレビアニメ『BLACK LAGOON』シリーズは今年、第3期がOVAとして発売予定。
Twitter<http://twitter.com/katabuchi_sunao

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●『マイマイ新子と千年の魔法』
監督・脚本/片渕須直 原作/高樹のぶ子『マイマイ新子』(マガジンハウス・新潮文庫刊)
出演/福田麻由子 水沢奈子 森迫永依 本上まなみ
配給/松竹
アニメーション制作/マッドハウス
上映スケジュールなどは公式サイト<http://mai-mai.jp/>にてご確認ください。


マイマイ新子


原作はこちら。


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