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「日本の農業は弱い」なんて誰が言った?『日本は世界5位の農業大国』

nougyounihon.jpg『日本は世界5位の農業大国
大嘘だらけの食料自給率』
(著:浅川芳裕/講談社)

 「食料の6割を海外に依存する日本」「農業人口急減で農家は崩壊寸前」「食料自給率の向上は急務」などなど、ここ数年、日本農業の行く末を危ぶむ報道がかまびすしい。しかし、政府と農林水産省が農業政策の指標としている自給率が、もし「インチキ」だったら……。本書『日本は世界5位の農業大国』は、この自給率に潜むカラクリを暴くとともに、日本農業の潜在能力の高さを説いたものだ。

 では、食料自給率のどこがインチキなのか。国が国策として向上をうたう自給率には「カロリーベース」と「生産額ベース」の2種類があるという。僕らがふだん見聞きするのはもっぱらカロリーベース自給率で、最新値(2008年)は41%だ。一方の生産額ベースではどうかというと、07年で66%。著者の試算によれば先進国中3位の数字だそうだが、こちらはほとんど話題に上らない。なぜ、わざわざ自給率を低く発表し、国民の不安を煽るのか。

〈自給率政策によって、あたかも農水省が国民を「食わせてやっている」かのようなイメージが実現できるからだ。その結果、統制経済的で発展途上国型の供給者論理を正当化し、農水省予算の維持、拡大を図っている〉

 たとえば、鳩山内閣が自給率向上政策の目玉とし掲げている「戸別所得補填制度」。これは「コメや小麦、大豆など自給率向上に寄与し、販売価格が生産費を下回る農作物を作っている農家に、その差額を補填する」制度だが、ここでいう「差額」とは赤字額のことで、「補填」に使われるのは約1兆円の税金だ。要するに同制度は、農家に黒字を出す努力を放棄させ、赤字を推奨する「農業の衰退化政策」にほかならず、税金のバラマキですらない。農家は弱くなればなるほど政治の力を必要とし、政府と農水省の影響力は担保される。

 しかし、これは著者に言わせれば、「自給率」という呪縛が解けたとき、政治・行政主導によらない、自律した農業が実現するということでもある。そして、自給率に縛られているいまなお〈国内の農業生産額はおよそ八兆円。これは世界五位、先進国に限れば米国に次ぐ二位である〉。さらに、農業人口の減少が叫ばれているにもかかわらず、生産量は着実に増加しているという。つまり農業者一人当たりの生産性が飛躍的に向上したわけだ。

 といった具合に、本書は農政を批判するだけに止まらず、ポジティブな視座も与えてくれる。日本の農業や食料安全保障を考えるうえで、目からウロコの一冊になるだろう。
(文=須藤輝)

・浅川芳裕
1974年、山口県に生まれる。月刊「農業経営者」副編集長。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語科セム語専科中退。ソニーガルフ(ドバイ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。若者向け農業誌「Agrizm」発行人、ジャガイモ専門誌「ポテカル」編集長を兼務。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率

まんまとダマされるとこだった!

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最終更新:2010/04/14 21:42
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