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 >   > 事実は小説より奇なり 幽霊よりも怖い実話怪談集『現代百物語』
妖怪小説家・田辺青蛙の「妖しき本棚」第12回

事実は小説より奇なり 幽霊よりも怖い実話怪談集『現代百物語』

hyakumono.jpg『現代百物語』(角川書店)

「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。

 見開き2ページで1話完結の実話怪談集『現代百物語』。どちらかと言うと、幽霊よりも人間の方が怖いと思わせる内容の怪談となっている。岩井志麻子さんは、「週刊新潮」(新潮社)で実際の事件を小説仕立てに書く連載「黒い報告書」も行っているだけあって、内容のリアリティーがハンパじゃない。一時期日本中で話題となった、結婚詐欺師の話に、韓国の連続殺人犯、レズビアンの食人鬼、整形手術の後、何を嗅いでもウン○の臭いに感じるようになった女の話……。岩井さんらしい、エロネタもあって、悲惨なグロ話が続いたあとにニヤリともさせられる。

 そんな中、一つ気になる話があった。「奇妙なインタビュー」というエピソードで、岩井さんが取材の依頼を受けると、日本語のアクセントのおかしい女性がインタビューにやって来た。彼女は何故か岩井さんに質問をふらずに不幸な香港女の話ばかりを語り、取材は終わるのだが、後日岩井さんが聞くと、出版社も雑誌もそんな依頼はしていないし、彼女の存在も知らないという。

 何故この話が気になったかというと、以前インタビューした某ホラー作家からも同じような女の話を聞いたことがあったからだ。もしかすると同一人物だったのかも知れない。何故、彼女がありもしない依頼をでっち上げてホラー作家にインタビューを迫っては、不幸な香港女の話をするのか……一度その理由について、彼女にインタビューしてみたいと思った。

 そして、私自身も奇妙なインタビューの依頼を受けたことがある。それは新人賞を取ってから、一カ月程経った日のことだった。『授賞式で貴女のことを知りました。コスプレ作家として取材したいので、コスチュームを着用したまま、○○ホテルのラウンジに来て下さい』という内容のメールをもらった。会社名も雑誌の名前もメールには明記されていたが、どちらも聞いたことも見たこともないものだったので、ネットで検索してみることにした。
すると、一件もヒットしないし、ホームページも存在しない。電話をいつかけても留守電話だった。Googleマップで待ち合わせに指定された場所も念のために検索してみると、それはホテルではなく普通の住宅地にあるマンションだった。何だか怖くなって、メールに返信しないまま、待ち合わせの日が来たが、私は当然行かなかった。すると翌日、『どうして来てくれなかrけあえま。』(原文ママ)無題の件名にこの一文だけのメールが来て背筋がゾッとした。

「富士山麓鸚鵡無く」という一文を必ず冒頭につけてメールをくれたミニコミ紙を名乗る編集者がいて、妖怪を見た話を書いてくれと頼まれた。しかもその依頼されたメールの文章がまるで、機械翻訳にでもかけたかのような珍妙な文体で、これもまた別の意味で怖かった。

 何故だか、変な取材依頼というのは重なるようで、他にも20万を振り込んだら記事にしてやるといった内容の電話がかかって来たこともある。こういうことが続くと、さすがに気味が悪くなったので、同じ時期にデビューした作家さんに相談を持ちかけたところ、そんなメールや電話は自分に来たことはない。変な依頼が今後来たら、出版社を通して断ってもらうといいというアドバイスを受けた。しかし、どういったわけかそのアドバイスを受けてからは変な依頼が来たことはない。彼らはまた別の新人作家に、奇妙な依頼をし続けているのだろうか?

 そして、本書の中で個人的に物凄く怖いと思った話。「子供への無関心」と題された話で、二人の子どもを持つ母親が出てくる。長男は酷い風邪をひいても母親にろくに看病もされず放ったらかしにされて、脳炎になった。長女は、行方不明になっても、捜索届けすら出されなかった。そして行方不明になってから二日後、長女は、性器やお尻の穴も裂けた状態で、傷だらけの廃人となって帰って来た。それでも母親は無関心で、長女はいまだに口もきけない状態だという。しかも、そんな家族の状態を何とも思ってないように淡々と語る夫の存在も恐ろしい。

 今もなお、どこかにこんな家族がいるかと思うと何ともいえない気持ちになってしまった。本当に怖いのは、幽霊なのか、人なのか……。

 1話あたりが短く直ぐ読めるので、寝苦しい熱帯夜のお供にお勧めの一冊だと思う。ただ、そのまま眠ると悪夢を見てしまう可能性があるかも知れない……。
(文=田辺青蛙)

tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。

現代百物語

げに怖ろしき。

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「妖しき本棚」INDEX
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【第10回】節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』
【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』
【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』
【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』
【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』
【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』
【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』
【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった”岡山”を読む『魔羅節』
【第2回】“大熊、人を喰ふ”史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』
【第1回】3本指、片輪車……封印された甘美なる”タブー”の世界『封印漫画大全』


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