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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第56回

国後・択捉は日本の領土なのか? アメリカの去勢と歴史的歪曲【前編】

ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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今月のゲスト
孫崎享[元外務省国際情報局長]

──昨秋、尖閣沖で起こった中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件後、ロシアのメドヴェージェフ大統領が北方領土を、そして今年に入っても韓国の国会議員3人が国後島を訪問した。ここに来て日本の領土問題が騒がしくなったが、「政府、メディア、アメリカのあり方」という点、日本の領土問題と原発問題は類似している、と本連載の司会・神保哲生氏は語る。またそれに同調した元外務省の孫崎享氏は、北方・尖閣をはじめとする領土問題はフィクションに踊らされたタブーが根底にあると指摘する。原発問題に揺れる今だからこそ見えてくる領土問題について、日本が抱える病巣とともに”真の問題点”を浮き彫りにする。

神保 東日本大震災の発生以来、マル激では防災や原発など震災関連のテーマを通して、日本のさまざまな問題点を見てきました。今回は思い切って、直接震災とは関係がないテーマ領土問題を取り上げます。ただし、これも中身を見てみると、政府の対応やメディアのあり方、そしてアメリカとの関係などで、震災、とりわけ原発問題と共通する構造的な問題がその根底にあるように思います。

宮台 原発問題も領土問題も、合理的解決を目指して政治プロセスが進んでいるよう見えないという共通性があります。政治に合理性を期待する国民が騙されていると言ってもいいし、問題解決に役立たない歪んだ認識を”擬似現実”として信じこまされていると言ってもいい。

 昔からシーモア・M・リプセット(アメリカの社会学者、政治学者)やダニエル・J・ブーアスティン(アメリカの歴史家)がこの”擬似現実”という言葉を使って、大統領選や戦争の際にメディアを使って国民動員がなされることを批判的に分析しました。でもアメリカの場合、何のために国民を騙すのかについて、統治権力の側に合理的な最終目標がありました。ところが、日本の場合、それがないのです。原発問題にも領土問題にも共通する奇妙さです。

神保 今回のゲストは、元外務省国際情報局長の孫崎享さんです。孫崎さんは5月に『日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 』(筑摩書房)という本を出されています。この本を読み、「北方領土」を「原発」に、「外務省」を「経産省」に置き換えると、つくづく同じ構図だなと思ってしまいました。

孫崎 おっしゃるとおりです。原発については、「安い」「安全」「代替エネルギーがない」など、神話のような嘘が通用しており、政府もマスコミも学者も「だから原発しかない」と口をそろえてきた。しかし、今回の問題で「権威のある人間が言うことでも、事実ではない可能性がある」ということが周知されたと思います。領土問題についても、これまで政府やマスコミ、学者が言ってきたことは事実ではない、という私の主張も、今なら信じていただけるはずです。

神保 まずは北方領土問題について、歴史的な経緯を確認していきましょう。

孫崎 1855年に日露国境を択捉海峡と定めた日露通商条約、1875年には樺太をロシア領に千島を日本領にした樺太千島交換条約、1905年には日本が南樺太を獲得したポーツマス条約が結ばれました。これらを見ていくと、第二次大戦の終わりまでは、千島列島のうちの国後・択捉は日本のものであるとの見方で何の問題もありません。

 しかし、政府が国民に伝えていない重要な事実があります。実は1945年のポツダム宣言第八項には、「日本国の主権は、本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」という記述があるのです。

神保 ここでいう「吾等」とは、連合国側のことですね。

孫崎 そうです。本州、北海道、九州、四国は日本の領土であることは間違いない。しかし、その他の島については「連合国側が認めたものが日本のものになる」とされており、日本側はこれに合意している。そして、「吾等の決定する諸小島」に千島は入っていなかったのです。

神保 1945年のヤルタ協定で、ルーズベルトとスターリンの間でどういうやり取りがあったか説明していただけますか。

孫崎 日本人の多くが誤解をしているところですが、ソ連に「満州に入って日本軍と戦ってくれ」と要求したのは、実はアメリカです。ソ連が参加すれば、関東軍を満州に釘付けにでき、アメリカが日本本土を攻略しやすい。そのため、ヤルタ協定の最終的な協議に入る前にルーズベルトはスターリンに「千島・樺太はソ連に引き渡す」と約束しました。実際、戦後占領軍は千島を管轄地に入れていません。

 そして、もうひとつ重要な条約に1951年のサンフランシスコ講和条約があります。第二条第二項に「日本国は、千島列島並びに日本国が一九〇五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」と書かれている。つまり、日本は千島列島を放棄すると言っているんです。ここで問題になるのは、「千島列島」に国後・択捉は入るか、ということです。

宮台 日本人はずっと昔から国後・択捉を「南千島」と呼んできたので、国後・択捉が「千島列島」に入るのは当たり前です。ところが、外務省がアメリカの言いなりに「北方領土返還」などと変なことを言い始めてから、国後・択捉を「南千島」でなく「北方領土」と呼ぶように宣伝・教育されるわけです。

孫崎 そうです。明治以降の資料を見てみると、「国後・択捉が千島列島に入らない」とされているものは、どこにもない。また、サンフランシスコ講和条約を結んだ吉田茂は、条約を最終的に締結する前日の演説で「国後・択捉は日本固有のものなので日本にください」とアメリカにお願いしている。しかし跳ね除けられ、翌日に千島列島全体を放棄する条約にサインしており、日本はこの時点で国後・択捉を放棄したと言えます。講和条約を認めた国会では、「放棄した中に国後・択捉も入っている」と解釈され、それは記録にも残っている。またソ連側は、もともと色丹・歯舞については北海道の一部だと考えていました。

神保 色丹・歯舞は日本の領土だが、択捉・国後を含む千島列島は放棄したこの事実さえはっきりすれば、日本とロシアは平和条約を結べているはずです。なぜこんな簡単な話が、こうまでこじれてしまったのでしょうか?

孫崎 1956年日ソ共同宣言の前に、日本・アメリカ間で重要なやり取りがありました。国後・択捉がソ連の領土だということは、アメリカが認めている。当時の重光葵外務大臣は、この二島は取り戻せないと考え、色丹・歯舞を日本領とすることでソ連側と合意しようとしました。しかし、これを当時のダレス米国防長官に説明したところ、「国後・択捉を放棄するならば、アメリカは沖縄を返還しない」と恫喝されたそうです。ダレスは在米日本大使に向けた正式な書簡でも、「二島を放棄すれば、サンフランシスコ講和条約そのものをチャラにする」という可能性を示唆しています。

宮台 アメリカは、1951年に締結された講和条約では「日本は国後・択捉を放棄せよ」としておきながら、56年になると「国後・択捉を放棄するな」と脅してくる。無茶ですよ。

孫崎 そして、アメリカは手のひらを返したように「そもそも国後・択捉は日本のものだろう」と言い始める。要するにアメリカは、「領土問題を日ソ関係の懸念材料として残せ」と日本側に指示したんです。アメリカは冷戦下で、日ソの緊張関係が緩和することを恐れた。日ソが良好な関係を結べば、日本が共産化する可能性もあり、在日米軍も不要になってしまうからです。

 また当時の鳩山一郎首相は、日ソ間の緊張を弱める自主路線を標榜していたので、アメリカとしては自分たちに都合がいい岸信介(のちに新安保条約を締結)に政権をとらせたかった。フルシチョフが鳩山首相を評価し、国内でのポジションを強化させようと考えていることを、アメリカは知っていたから、早い段階でつぶそうと画策しました。

最終更新:2011/08/05 10:30
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