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ラジオ批評「逆にラジオ」第13回

「ヨイトマケ」の圧倒的パフォーマンスの根底に宿る「遊び」の精神『美輪明宏 薔薇色の日曜日』

miwabara.jpg『美輪明宏 薔薇色の日曜日』

しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。

 日本の2013年は、「ヨイトマケ・ショック」とともに明けた。いまだ世間には、その衝撃的パフォーマンスの余韻が色濃く残っている。それほどまでに、2012年大みそかの『NHK紅白歌合戦』で披露された美輪明宏の「ヨイトマケの唄」がもたらしたインパクトは絶大だった。それは単に世代を越えたというだけでなく、むしろ若い世代にこそ衝撃的だったかもしれない。そこには確実に、今どきの流行歌に蔓延する一面的な「共感」を越えた、得体の知れぬ何かがあった。では、それはいったいなんなのか? それはもちろん、美輪明宏自身の得体の知れなさから来ている。

 さて、そんな謎めいた人物の本質に迫りたいときこそ、ラジオの出番である。テレビ等の他メディアでの露出が多い人物でも、ラジオにおける語りでは、より深い根っこの部分をてらいなく率直に披露する。『紅白』の翌日、つまり2013年元日にはちょうど、『美輪明宏 薔薇色の日曜日 愛の手引書2013』(TBSラジオ)という番組が放送されていた。これは、普段は日曜の早朝に放送されている10分番組『美輪明宏 薔薇色の日曜日』(毎週日曜7時ごろ~ TBSラジオ『吉田明世 プレシャスサンデー』内)のスペシャル版であり、毎年正月恒例の特番となっている。だが、その内容はいつも以上に得体の知れないものだった。それはゲストとして呼ばれた相手が、博覧強記の「知の巨人」荒俣宏であったせいもある。美輪は黒柳徹子と同様、「打てば響く」相手を迎えたとき、いつも以上にその真価を発揮する。

 今回の番組は一貫して、「人生を楽しく過ごすための知識と文化について」というテーマで進行された。これは普段から美輪が唱えている主張であり、「知識と文化は心のビタミン」という言葉が象徴的である。「今の日本人は、肉体を維持するための栄養は過剰に摂取しているが、一方で心の栄養分である知識と文化が不足し、精神が栄養失調を起こしている」と美輪は言う。これは「知識」や「文化」という言葉から何を思い浮かべるかによっては、あるいは非常に説教臭く感じる主張かもしれない。たとえば「知識」から「受験勉強」を、「文化」から「形骸化した古くさい慣習」を連想するならば、これはまったく面白味のない主張と感じられるだろう。

 だが番組内で、美輪はもうひとつ、「遊び」という重要な言葉を頻繁に使っている。ここで言う「遊び」とは無闇な放蕩のことではなく、「遊び心」というときの「遊び」である。実はこれこそが、知識と文化と心の三者をつなぐキーワードであり、今の日本人に最も欠けている要素でもある。そしてまた、美輪明宏という人物の根本を形成する本質でもある。

 美輪は文化を「日常を逃れ、ロマンの世界に身を浸し、リフレッシュするための先人たちの知恵」と定義する。その代表が「祭り」という文化であり、ゲストの荒俣は、「被災地のお年寄りに話を聞くと、みんな口を揃えて『お祭りやりたい』と言っている」と語る。これはまさに「遊び」の重要性を示しているが、「遊び」という言葉の意味するところは、そういった大掛かりなものばかりではない。2人の共通の知人である水木しげるの話になった際、荒俣が「水木さんは対談のとき、寝たフリをして相手の本音を聴き出すという技を持っている」という逸話を披露すると、美輪は「それも遊びですよね」と軽やかに言う。美輪の言う「遊び」とはつまり、受け身の「遊び」ではなく、集団あるいは個人が自らの手で作り上げ、積極的に仕掛けていく「遊び」を指している。

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