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ラジオ批評「逆にラジオ」第13回

「ヨイトマケ」の圧倒的パフォーマンスの根底に宿る「遊び」の精神『美輪明宏 薔薇色の日曜日』

 そして、美輪の「遊び」の感覚を象徴する逸話として極めつきなのは、番組後半に披露された、江戸川乱歩との出逢いのエピソードである。美輪の舞台『黒蜥蜴』に話題が及び、その原作者である江戸川乱歩、そして脚本を手掛けた三島由紀夫との関係について荒俣が訊ね、その質問に答える形で、美輪は次のように語った。

 ある日、東京へ出てきた美輪が歌っていた銀座の店に、中村勘三郎(先日亡くなった18代目勘三郎の父)が、江戸川乱歩を連れてきた。美輪はかねてより乱歩作品の読者であったため、乱歩に「先生、明智小五郎ってどんな人?」と、小説に登場する架空の私立探偵について訊ねた。すると乱歩は自らの腕を出し、「ここ(腕)を切ったら、青い血の出る人だよ」と粋に返す。そして乱歩が美輪に、「じゃあ、キミはどんな血が出るんだい?」と試すような質問を投げかけると、美輪は「七色の血が出ますよ」と鮮やかに切り返したという。乱歩は、そんな美輪が16歳だと聞いて仰天したらしい。

 そもそも、この話をしているときの美輪が、「こないだ亡くなった勘三郎さんのお父様の勘三郎さんが」と説明を加えたり、「江戸川さんが」と江戸川乱歩を「さんづけ」で呼んだりしているのを聴くだけでクラクラするような、まるでおとぎ話のような世界観だが、この稀有な会話の端々からも、美輪の言う「遊び」の感覚が、16歳にしてすでに美輪の中に存分に備わっていたということが証明されている。しかも、この会話の主導権を握っているのは乱歩ではなく、明らかに美輪のほうである。最初に架空の人物について、その作者に真正面から訊ねるということ自体が、「遊び」を仕掛けているといえる。それに対し乱歩が、明智小五郎がまるで実在の人物であるかのようにスラッと、それでいて期待に違わぬファンタジックな答えを返すあたりはさすがだが、最初の思い切った質問に宿る遊び心こそが、美輪自身の「七色の血が出る」というアクロバティックな回答を導き出したといっても過言ではない。

 『紅白』における「ヨイトマケの唄」が大きな感動を呼んだのは、もちろん「母が子を想い、子が母を想う」歌詞の内容によるところもあるだろう。だがより重要なのは、我々がそこから受け取ったものが、一般的な「共感」に基づくぬるくて心地よい感動ではなく、もっと先鋭的で突き刺さるような、決定的な感動であったということだ。その感動の種類は、「共感」というよりは「違和感」といったほうが近いものであったかもしれない。ひとりで男女複数の役割を演じるというスタイル、歌が主役と割り切っての黒衣黒髪にシンプルなカメラワークという極端にミニマムな演出、以前は出場を断った『紅白』に77歳にして初出場するという英断、「紅組と白組の間の桃組で出ます。衣装はヌードです」という事前会見での軽妙洒脱な発言など、美輪の言動はすべてにおいて遊び心にあふれている。そんな「遊び」の精神こそが美輪明宏の得体の知れなさの正体であり、そのカリスマ的魅力の根源にある。

 「遊び」と「感動」という言葉は、イメージ的になかなか結びつきにくいかもしれないが、優れた芸術やエンタテインメントの中で、それらは必ずや両立している。お涙頂戴の「遊びなき感動」まみれの今だからこそ、いま一度「遊び」の重要性を見直す必要があるだろう。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2013/01/12 15:00
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