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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第122回

加藤茶 “無邪気すぎる71歳”天才コント職人が過ごす「老いらくのユートピア」

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「加藤茶が衰弱している」と話題になっている。6月9日放送のNHK旅番組『鶴瓶の家族に乾杯』に出演したときにも、表情の変化が乏しく、笑福亭鶴瓶が話しかけても反応が鈍い。生気のない加藤を、鶴瓶が必死でフォローしているように見受けられる場面もあった。私たちはこの事態をどう受け止めるべきだろうか?

 芸人には大きく分けて2つのタイプがある。しゃべりがうまい人と、コントを演じるのがうまい人だ。前者は漫才師、漫談家、落語家に多く、後者はコント芸人、喜劇役者に多い。最近の若手芸人は、両方を器用にこなす人も多いが、もともとはそれぞれ別の職業だと考えたほうがいいくらい、大きな違いがある。

 言うまでもなく、加藤は後者に属する。彼は福島育ちでなまりも強く、しゃべりで人を笑わせるタイプではない。トーク主体のバラエティ番組に出る機会もそれほど多くないし、たまに出ても積極的にペラペラしゃべって場を盛り上げたりはしない。

 そんな加藤が、年齢を重ねて肉体的にも衰えた結果、うまくしゃべれなくなっているのはそれほど不思議なことではないだろう。彼は何かのきっかけで急に衰えたわけではなく、ただ年齢を重ねているだけだ。もちろん肉体的な衰えは否定できないが、ここまで騒がれたり心配されたりするほどのことではないと思う。

 加藤の衰えがこれほど注目されるのは、彼の本質的な部分を人々がはっきり理解していないからではないだろうか。加藤茶という芸人は何者なのか? ひとことで言えば、彼は「懲りない男」だ。

 以前、雑誌「コメ旬 Vol.3」(キネマ旬報社)のインタビューで、『8時だョ!全員集合』(TBS系)のディレクターである高橋利明氏に話を聞いたことがある。高橋氏は加藤茶について「とにかく反省しない人」と答えていた。何かをやって失敗したら、それが良くなかったということは心の中では分かっている。でも、反省はしないし、何度でも同じミスを平気でする。それが加藤のスタイルだというのだ。

 つまり、ザ・ドリフターズのコントでしばしば見受けられた、同じミスを繰り返していかりや長介に怒鳴られる加藤、というのは演技でもなんでもなく、彼の素顔そのものだったのだ。

 加藤の頭の中では、どんな体験も出来事も1つ1つその場で消去されていく。彼はただ、いま目の前にあるものに向き合い、全力でぶつかるだけ。過去を振り返らず、未来への責任は負わず、今を楽しむ。コツコツと努力を重ねて社会的に立派な地位を築きたいとか、出世して偉くなりたいとか、そういう欲望は彼には一切ない。それが加藤の生き方なのだ。

 『8時だョ!全員集合』でも、それを象徴する出来事があった。あの有名な「停電事件」だ。1984年6月16日、入間市民会館で生放送が始まった途端、会場中の明かりが消えてしまった。画面は真っ暗になり、出演者の声と会場のざわめきだけが聞こえている。リーダーのいかりやは、必死になって打開策を考えている。

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