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「Iターンドラマ」ブーム来たる!? 松尾スズキ×松田龍平『ジヌよさらば かむろば村へ』

jinu.jpg(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

 今週取り上げる最新映画は、演劇・映画・テレビとマルチに活躍する松尾スズキの監督作品と、10代の新進女優2人が映画初主演を飾るフレッシュな感動作(いずれも4月4日公開)。東京で挫折を経験した主人公が地方の村で再起を図るのが共通点で、くしくも今週始まったNHK朝ドラ『まれ』も、東京で自己破産した主人公一家が能登で生活を立て直す話。この春、ちょっとした「Iターンドラマ」のブームが来ているのかも!?


 『ジヌよさらば かむろば村へ』は、いがらしみきおの人気コミック『かむろば村へ』(小学館刊)を原作に、松尾スズキ監督、松田龍平主演で実写化したコメディ。銀行員時代の過酷な体験が原因で「お金恐怖症」になり、東京から東北の寒村・かむろば村に移住した武晴(松田)は、お金を1円も使わない自給自足の生活を始める。無謀で頼りない武晴だが、異常に世話好きな村長(阿部サダヲ)とその美人妻(松たか子)、自他ともに認める村の「神様」(西田敏行)ら濃すぎる村人たちに助けられ、少しずつ村の暮らしに慣れてゆく。しかし、ヤクザの青木(荒川良々)が、女子高生・青葉(二階堂ふみ)に武晴を誘惑させて金を脅し取ろうと画策したことがきっかけとなり、村全体を揺るがす大騒動に発展する。

 松尾監督と松田のタッグは2004年の『恋の門』以来。松尾が主宰する劇団・大人計画の俳優陣(阿部、荒川のほかにも村杉蝉之介、伊勢志摩、皆川猿時など)が醸し出す独特の「松尾ワールド」に、松田のボケ味が相性抜群だ。のどかな山間の村を背景に、役人や政治家やヤクザも入り乱れるやたら人間くさいドタバタと、神がかりでファンタジックなエピソードが絶妙に混じり合う。タイトルの「ジヌ」は、東北の方言で「銭」の意味。高齢化、過疎化が進む地方の農村を舞台に、Iターン、断捨離、ダウンサイジングといった現代的な要素を盛り込み、たたみかける笑いの先に「人間らしい生き方って、なんだろう」と考えさせる深みも備えた快作だ。

 『案山子とラケット 亜季と珠子の夏休み』は、夏の佐渡島を舞台に、ソフトテニスを通じて2人の女子中学生と周囲の人々に起こる変化を描くハートフルなドラマ。中学3年生の亜季は、東京の学校で所属していたソフトテニス部で心に傷を負い、日本海の島で離れて暮らす父の元へやってきた。転校先の同級生・珠子から、ソフトテニスを教えてほしいと熱心に頼まれ、再びラケットを握る亜季。だが、村にはテニスコートがないことから、2人は廃校の校庭にコートを作ろうと奮闘する。

 亜季役の平祐奈と珠子役の大友花恋、いずれも映画初主演となる女優2人のピュアな魅力が見どころだ。石原さとみに似た美少女の平(実際、『貞子3D』では石原が演じるヒロインの少女時代を平が演じた)と、天真爛漫な表情が綾瀬はるかを思わせる大友が、海の青と山の緑が美しい島の景観を背景に、ライトでさわやかなスポ根ドラマを繰り広げる。BGMの詩情あふれるピアノも印象的で、岩井俊二監督の『花とアリス』(04年)にも通じる仲良し少女2人の成長物語。限界集落化する前に地域を活性化しようとする、村民の取り組みも現代的だ。課題はいくつかあるが、全体としてとても気持ちのいい作品に仕上がっている。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『ジヌよさらば かむろば村へ』作品情報
<http://eiga.com/movie/80317/>

『案山子とラケット 亜季と珠子の夏休み』作品情報
<http://eiga.com/movie/81842/>

最終更新:2015/04/03 23:00
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