【必読】恐怖の冤罪 ― 検察の証拠隠蔽と闘った男の1年7カ月、全告白!
■“まったく頼りにならなかった”弁護人たち
ところで、ここまで読んで「弁護人はどうした?」という疑問を持った人も多いかもしれない。本来なら、控訴趣意書を作成するのも、法廷で検察を追いつめるのも、弁護人の仕事である。なのに、その存在はこれまでいっさい登場していない。
これには理由がある。筆者から見ても、弁護人の影が極めて薄かった。内田さんの裁判では、1審は自費で雇う「私選」、再審は国が公費でつけてくれる「国選」の弁護人が担当しているが、内田さんの言葉を借りれば「二人ともまったく頼りにならなかった」のだ。
私選の方はつながりのあった70代のベテラン弁護士だったが、いかんせん高齢すぎた。そして国選の方は、さほど刑事裁判に慣れていない先生だった。ともに家族とのやり取りなど、法廷外のことは親身になって世話をしてくれたようだが、弁護人として法廷に立つその姿は、筆者の目にも不安に映るほどだった。
裁判で無罪を主張するためには、“限られた時間内”に検察側の主張を崩し、かつ“論理的”に潔白を証明していく能力が求められる。二人の弁護人は、お世辞にもこの能力が高いようには見えなかった。
1審でそれを痛感した内田さんは、再審の法廷戦術を自力で組み立てた。弁護人にできることは、基本的にすべて被告でもできるという。陳述書も、控訴趣意書も、自分でまとめた。特に再尋問の際は、「証人がこう答えたらこう質問してください」「こう逃げたらこう問いつめてください」と、弁護人に“台本”まで用意した。
しかし、それでも弁護人はトンチンカンな質問を繰り返した。何を聞きたいのか、傍聴人にもよくわからなかった。小川裁判長による追求という“ハプニング”が起きたからよかったものの、あのまま弁護人任せだったらどうなっていたのか……想像するに、ゾッとする。
内田さんが“自力”で裁判を戦うハメになった背景には、こういった事情もあったのだ。
■「誰も見ていない」裁判の孤独
さて、これまで事件や裁判のあらましを追いつつ、内田さんが控訴審で逆転無罪を勝ち取るまでの顛末を紹介してきた。
これを「ある冤罪被害者の奮闘記」と見るなら、確かに胸のすくような逆転劇だろう。事実、裁判長の口から「被告人は無罪」の言葉が出たとき、内田さんは「ヨッシャー!!!」と雄叫びを上げ、傍聴席の我々も盛大な拍手を送った。裁判長から「静粛に!」と叱られたひと幕は、いつまでも語り継ぎたい感動的な思い出だ。
しかし、である。見方を変えれば、これは極めて“孤独”な物語ではないだろうか。
内田さんはある日、身に覚えのないことで突然逮捕された。そして約1年半も身柄を拘束された。その間、仕事も社会生活も完全にストップした。最終的には無罪判決を勝ち取ることができたが、それは血のにじむような努力と、いくつもの偶然が奇跡的に重なり合った結果に過ぎない。
友人としてのひいき目を抜きにしても、内田さんは極めて地頭の良い人間だ。そして、中古車やブランド品の販売を生業にしてきたこともあり、法律に詳しく、交渉術にも長けている。また、かつてプロサッカー選手を志していただけあって、体力に恵まれており、なおかつ性格も極めてポジティブだ。こういう資質がなければ、裁判を戦い抜くことはおよそ不可能だっただろう。
思い返してみると、ことの発端は「詐欺未遂」だった。幸い、狙われた消費者金融に被害は出ていない。そして、実刑を受けた後藤と小原は、初犯ということもあって執行猶予がつき、すでにシャバで普通に生活している。犯行を指示した真犯人も捕まっていない。はっきり言って、事件としては相当“地味”である。
それに対し、首謀者に仕立て上げられた内田さんは、1年半も拘束され、仕事と社会生活も取り上げられた。見ようによっては、実質的な被害を受けたのは内田さんただ一人。こんな理不尽があるだろうか……。
珍しい事件ではないため、新聞に載ることもない。社会的に注目される裁判ではないため、支援者が集まるわけでもない。頼みの弁護士も、報酬の安い国選の仕事ゆえ、どこまで弁護活動に力を注いでくれるかわからない。また、裁判は平日の日中に行われるため、いかに心配してくれる家族や友人がいても、そのほとんどが傍聴に来られない。
そんな中、たった一人で現実と向き合い、身の潔白を証明するために裁判を戦っていく。その孤独たるや、想像をはるかに絶するものだろう──。これが、全12回の裁判を傍聴して抱いた筆者の感想だ。
7月2日で、逆転無罪を勝ち取ってからちょうど2年が経った。
内田さんはシャバへ戻った後、「冤罪コンサルタント」として活動を始めた。冤罪を含む「理不尽な事件」に巻き込まれてしまった人々の苦しみを分かち合うためだ。弁護士ではないので実質的な弁護活動はできないが、自身のブログに寄せられる様々な悩みに対し、無料で相談に応じている。
冤罪で逮捕されるケースは確かに希だろう。しかし、何らかの事件や揉めごとに巻き込まれる可能性は誰にだってある。内田さんは自力で裁判を戦うハメになったが、そこで体得した“無実を証明するためのノウハウ”は、きっと理不尽と戦う人々の助けになるはずだ。
(取材・文=清田隆之)
●プロフィール
内田浩樹(うちだ・ひろき)
1976年、埼玉県生まれ。冤罪コンサルタント、ブロガー。有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判において、2回も無罪判決(1件は逆転無罪)を勝ち取る。その経験を活かし、刑事裁判の実態を伝えるブログを毎日更新中。冤罪に苦しむ人々の相談にも無料で応じている。
・ブログ http://gyakutenmuzai.jp/
・ツイッター @gyakutenmuzai
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