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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.442

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』

 黒沢清監督はこれまでに『降霊』(99)、『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』『クリーピー』、そして『ダゲレオタイプの女』(16)と夫婦の物語を繰り返し描いてきた。先日、黒沢監督にインタビューする機会があり、黒沢監督と奥さんとの夫婦関係が映画にも投影されているのかを尋ねたところ、「作品の中で描いている夫婦は架空のもの」「うちはいたって普通の夫婦です」と照れながらも、大学時代からの付き合いである奥さんとは観た映画の感想を話し合ったり、脚本づくりの際にアイデアをもらったりしていることを話してくれた。黒沢監督は意識していないというが、ありのままの自分を受け入れてくれるパートナーへのリスペクトと信頼感が『散歩する侵略者』からも感じられる。

 本作と同じ9月9日(土)公開の『三度目の殺人』も、黒沢清ファンには見逃せない作品となっている。辛口ホームドラマで人気の是枝裕和監督が初めて挑んだ司法サスペンスだが、福山雅治扮するエリート弁護士が拘置所の接見室で対峙することになる殺人犯を演じているのは黒沢清作品の常連俳優・役所広司。ダークな黒沢清ワールドから、ヒューマニズム溢れる是枝作品へ音もなく忍び込んできた侵入者のような怪しい存在だ。しかも役所広司が演じる殺人犯の三隅は、相手の心を読み取る特殊能力の持ち主。三隅に心を読まれることで、エリート弁護士(福山雅治)も足の不自由な少女(広瀬すず)も常識で雁字搦めになっていた心の扉を解放され、それと同時に従来の社会のシステムから遊離してしまうことになる。役所広司演じる怪人物・三隅は、黒沢監督の傑作ホラーファンタジー『CURE』(97)に登場した催眠術師によく似たキャラクターとなっている。

 日常生活が機能しなくなる悲喜劇を描いた『散歩する侵略者』と司法という信頼すべくシステムの危うさをクローズアップした『三度目の殺人』。黒沢清監督と是枝裕和監督、どちらも高度にシステム化された現代社会の歪みを見つめる映画監督ゆえに、生み出された作品に共通項があるのは自然なことだろう。
(文=長野辰次)

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』の画像4

『散歩する侵略者』
原作/前川知大 脚本/田中幸子、黒沢清 
出演/長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
配給/松竹、日活 9月9日(土)より全国ロードショー
(c)2017「散歩する侵略者」製作委員会
http://sanpo-movie.jp

『三度目の殺人』
監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/福山雅治、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎、役所広司
配給/東宝、ギャガ 9月9日(土)より全国ロードショー
http://gaga.ne.jp/sandome

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最終更新:2017/09/01 20:00
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