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コロンブスの銅像を撤去せよ!~新大陸 “発見”と大虐殺

 今、全米各地のコロンブスの銅像にペンキがかけられる、頭部がはねられる、台座が壊されるといった事件が続いている。

 きっかけは8月12日にヴァージニア州シャーロッツヴィルで起こった白人至上主義者によるデモだ。同市の公園にある南北戦争時の南軍ロバート・E・リー将軍の銅像が「奴隷制の象徴」として撤去されることが決まったところ、KKK、ネオナチ、オルタ・ライトといった白人至上主義者が撤去反対を訴えて集まった。それに対する抗議者のグループとのあいだで暴力的な衝突が起こり、抗議者側の女性1名が亡くなり、20名近くが重軽傷を負う惨事となった。

 この事件をきっかけに、「では、他の抑圧者の銅像はどうする?」という議論が持ち上がった。これはまさにアメリカにとってパンドラの箱だった。アメリカ合衆国とはヨーロッパ人が先住民を追い立て、殺し、アフリカから黒人を誘拐し、奴隷として強制労働させたことによって繁栄した国だ。英雄と称される抑圧者は多数存在し、その銅像も全米各地に無数にある。そして、その筆頭がコロンブスなのだ。

残忍な虐殺者としてのコロンブス

コロンブスの銅像を撤去せよ!~新大陸 発見と大虐殺の画像2
クリストファー・コロンブス(c.1451 – 1506)(wikipediaより)
 コロンブスといえば、日本でも「新大陸発見」をした偉人として世界史でかならず習う。とはいえ、日本からは遠く離れた場所のハナシであり、日本人にとってはそれ以上でも、それ以下でもなく、試験のための暗記事項のひとつに過ぎない。

 だが、アメリカス(北米・中米・南米を総称する場合、アメリカスと複数形にする)の歴史はコロンブスによって劇的に変えられてしまった。その史実を「功績」とするのは侵略した側であるヨーロッパ系の子孫であり、侵略された側の先住民と、奴隷として連行されたアフリカ人の子孫はコロンブスを「残忍な虐殺者」と捉えている。

 クリストファー・コロンブスは1451年頃にイタリアで誕生したとされている。成長して航海士、冒険家となり、当時、盛大な国力を誇ったスペインの支援により1492年にインドを目指して出航。同年の秋、インドではなくカリブ海のサンサルバドル島(ハバナ)にたどり着き、続いてフアナ島(キューバ)、エスパニョーラ島(ハイチ/ドミニカ共和国)にも上陸。以後1502年までに計4回、ヨーロッパ~カリブ海(西インド諸島)間の航海を繰り返した。

 当時のヨーロッパ人が欲していたスパイスと金が採れることから、西インド諸島は次々と欧州の植民地とされた。どの島にも先住民が暮らしており、「平和的かつ友好的」で「ものを所有する概念が薄く」、かつ「体躯ががっしり」していた。それを見たコロンブスは、サンサルバドル島に到着した初日の日誌に「優れた奴隷になるだろう」と記している。また、キリスト教の布教も容易におこなえると考えた。

 日誌の文面どおり、コロンブスは先住民を奴隷化し、過酷な労働を課した。だが先住民にも奴隷となることを拒む者たちがいた。コロンブスとその配下は非常に残忍な方法で先住民を大量虐殺し、見せしめとして切り刻んだ身体のパーツを屋外で晒すことすらあった。女性へのレイプも当然のようにおこなわれた。また、先住民を奴隷としてスペインに連れて行くこともした。さらには意図的ではないにせよ、当時のカリブ海には存在しなかった伝染病をヨーロッパから持ち込んで蔓延させることもしてしまった。その結果、島々の先住民はコロンブスの到着から約60年後にほぼ全滅してしまうのである。

 コロンブスは西インド諸島での残忍な行為と統治能力の欠如によりスペインで裁判にかけられるが、有罪を逃れる。その数年後の1506年、スペインで死去。その後もヨーロッパ人のアメリカス侵略は続き、南米、北米にも及んだ。

 17世紀になるとヨーロッパ人はアフリカ人を捉え、奴隷として西インド諸島へ送り込み始めた。黒人奴隷制といえば北米が知られるが、実は西インド諸島で先に始まっている。今、ジャマイカ、ドミニカ共和国、ハイチ、プエルトリコ、トリニダード&トバゴといった西インド諸島に黒人が暮らしているのはこれが理由だ。かつ身分や立場の違いを超え、先住民、ヨーロッパ人、黒人の混血も進んだ。中南米の人々の外観が多様な理由だ。

 現在は中南米国のほとんどが植民地から脱して独立国となっているが、経済的、または政治的に不安定な国が多い。そのため、アメリカ合衆国へ大量の移民がやって来る。今ではアメリカ生まれの二世や三世も無数にいる。彼らが全米各地で見ることになるのが、侵略者にして虐殺者のコロンブスの銅像なのである。

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インドのつもりのカリブ海

 コロンブスには日本ではあまり知られていない歴史が他にもある。コロンブスは主にカリブ海の島々に通い、かつ南米(ヴェネズエラ)、中米(ホンジュラスなど)には上陸しているが、北米大陸に足を踏み入れたことはない。

 いずれにせよ島々にも大陸にも先住民が暮らしており、コロンブスが「発見」したわけではない。また、コロンブスはアメリカスにやってきた「最初のヨーロッパ人」でもない。11世紀にヴァイキングのレイフ・エリクソンが訪れていることが定説となっている。

 コロンブスの航海は言葉の齟齬(そご)も起こしてしまった。まず、コロンブスは自分がたどり着いたカリブ海の島々を「インド」と信じていた。したがって先住民をインディオ/インディアン(インド人)と呼んだ。これが元となり、先住民全般をインディオ/インディアン(現在、米国ではネイティヴ・アメリカン)と呼ぶようになった。後になって本物のインドは東(アジア)にあることが分かり、カリブ海の島々は「西インド諸島」、そこに住む人々は「ウェスト・インディアン」と呼ばれることとなった。ゆえに今も英語での会話では稀に「その Indian って、どの Indian のこと?」と聞き返さなければならないことがある。

コロンブスはイタリア系市民の誇り

 先住民への残虐な行為からコロンブスの英雄視を止めようという声はこれまでにもあったが、今回のヴァージニア州の件を受け、反コロンブスの空気が一気に広がった。各地の行政首長が銅像撤去の検討を発表する中、待ちきれない者たちがコロンブス像の破壊に走っているのだ。他方、イタリア系市民にとってコロンブスは偉大なる英雄だ。

 ヴァージニア州の事件後、全米各地で5体のコロンブス像が被害に遭っており、うち一件はニューヨーク市内の住宅地区で起こっている。台座に青いスプレー塗料で「虐殺を称えるな」「(銅像を)壊してしまえ」と書かれている。

 この件はニューヨーク市長の発言に関連していると思われる。先月、市長は「ニューヨーク市有地にある銅像や記念碑の適性を検討する」と語った。複数あるコロンブス像も含まれるわけだが、この提言は市長自身に激しくバックラッシュした。

 ニューヨーク市の白人にはイタリア系が非常に多い。イタリア系市民にとって祖国イタリアで生まれ、アメリカを「発見」したコロンブスはヒーローだ。彼らのプライドの象徴が、マンハッタンにあるコロンブス像だ。セントラルパーク近くの一角はその名も “コロンバス・サークル” という広場になっており、21メートルもの柱の上に立つコロンブス像がある。この像はコロンブスの新世界 “発見” 400周年にあたる1892年に、当時ニューヨークにあったイタリア語の新聞社がスポンサーとなり、イタリア人の彫刻家に依頼して制作したものだ。

 アメリカではかつて白人の中にも出身国別のヒエラルキーがあり、イタリア系は底辺に置かれて苦労をした辛い歴史がある。だからこそ今も同胞の英雄が必要なのだ。コロンブス像を撤去検討のリストに含められたことに、ニューヨークのイタリア系市民は激怒した。市長自身もイタリア系であることから「裏切り者」扱いとなった。市長は今年の秋に再選挙を控えていることから譲歩せざるを得ず、今は撤去について言葉をにごしている。さらに10月9日の “コロンバス・デイ” のパレードにも参加すると表明した。

 コロンバス・デイはコロンブスが初めてサンサルバドル島に上陸した日にちなみ、今では10月の第2月曜日となっている。かつては全米各地でそれぞれに祝われていたが、連邦の祝日(日本の “国民の祝日” にあたる)に格上げされたのは、やはりニューヨーク市のイタリア系市民の尽力による。この日は全米各地でパレードがおこなわれるが、ニューヨークのものが最大規模であり、イタリア系市民のエスニック・パレードと呼べるものとなっている。

 ニューヨークでは盛大に祝われるコロンバス・デイだが、コロンブスの所業に異を唱え、祝日の名称を「ネイティヴ・アメリカンの日」などに変えた州、さらには祝日を実践せず、平日としている州がある。先日、ロサンゼルス市も名称をコロンバス・デイから「先住民の日(Indigenous Peoples Day)」に変更する発表をおこなった。

 若く、自由で、リベラルな国であるはずのアメリカ合衆国だが、実は暗く重い過去を背負っている。現在の繁栄は “光と陰” の光の部分だ。同じひとつの銅像が光の側にいるか、陰に押し込められた側にいるかによって全く異なって見える。コロンブス像の運命や如何に。
(堂本かおる)

最終更新:2017/09/08 07:15
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