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【田澤健一郎/体育会系LGBTQ】サッカー強豪校でカミングアウトを封じた少年

文=田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)

 社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。(月刊サイゾー2021年6月号より転載)

【田澤健一郎/体育会系LGBTQ】サッカー強豪校でカミングアウトを封じた少年の画像1
(写真/佐藤将希)

 東京のとある公園にある運動場。

 人工芝の上ではサッカーの試合が行われている。

 ゴールの前の混戦。競り合いになった2人の選手からボールがこぼれた。その刹那、ボールに素早く反応した大柄な選手が足を振り抜く。

 強烈なシュートがゴールキーパーのダイビングを無視するようにゴールネットを揺らした。

「体が大きいこともあって、子どもの頃からいろいろなポジションをやらされたんですけど、最後は一応、フォワードだったんで」

 試合が終わると、大柄な選手――鍼灸師として働く中澤誠(仮名)は控えめに笑った。物腰が柔らかく落ち着いた口調は、論理的な症状の説明がよく似合いそうである。

「選手の仕事はみんなバラバラ。まぁ、草サッカーを楽しむ休日の趣味仲間ですね」
 ただ、その仲間たちには共通項がある。誠も含め、選手はみなゲイなのだ。

「学生時代、ゲイの友人から教えてもらったのがチームに入ったきっかけです」
 気の置けないゲイ仲間と好きなサッカーを目いっぱいプレーする。普段の仕事では多くがゲイであることを隠しているというメンバーたち。ゲイだけで組んだチームで臨む草サッカーは、なによりのストレス解消。誠にとってもそれは同じだ。

「チームにはいろいろな人がいるから、ゲイ同士のつながりというか、世界が一気に広がりましたね」

 だが、誠が今のようにゲイとして充実した生活を送れるようになるまでは、時間を要した。

 30代の誠だが、試合を見ればフィジカルも技術もひとりだけ突出していることが素人目にもわかる。

「10代の頃は本気でプロを目指していました。高校では全国大会にも出ましたがプロになれず、どうしてもあきらめられなくて卒業後もアルバイトをしながら練習を続け、プロテストを受けていたんです」

 生まれは首都圏のベッドタウン。サッカーが盛んな土地柄で、小学生時代にボールを蹴り始めた。中学時代はJリーグクラブの下部組織に所属した時期もあるが、卒業後は「当時は高校選手権で活躍したほうがプロへの近道に思えたから」と高体連でのプレーを希望。知己のあったサッカー関係者の伝手で、関東圏のある強豪校を薦められる。

「サッカー部強化に取り組んで間もない高校で、指導者も実績豊富な方でした。場所が他県なので、部活に集中するなら寮生活になる。家を出ることはあまり想像していなかったのですが、周囲にはサッカーのために地方の高校へ進む選手もたくさんいる。『なら自分も』と進学を決めました」

 こうして誠は15歳で親元を離れ、Jリーガーという夢を追った。

「全国から選手が集まっていたので、最初はレベルの違いに愕然としました。部員全員、プロを目指しているようなチームでしたから。それでも必死に頑張って、なんとかレギュラーになり、全国大会にも出場することができました。ただ、僕も含め誰ひとり、プロから声はかからなかった」

 練習試合では田中達也(現アルビレックス新潟)や大久保嘉人(現セレッソ大阪)など、後に日本代表で活躍する選手たちとも戦い、力の差を見せつけられた。だが、誠はあきらめなかった。

「プロって本当にすごい場所だとわかったし、段違いの選手がいることも知りました。だけど、自分にとって、それはあきらめる理由にはならなくて。自分で無理と決めるのではなく、プロの目で見てもらって無理と言われたらあきらめようという心境だったんです」

 だから大学進学も就職もせず、卒業後はプロテストからJリーガーを目指す道を選んだ。しかし、現実は甘くなかった。

「プロテストに挑戦し続けましたが、結局、合格の返事はもらえませんでした。自分としては20歳まで受からなかったらキッパリあきらめると決めていたので、そこでタイムオーバー。今となってはもう少し粘ってもよかったかなとも思いますが、当時は『ここまでやったんだから』と自分なりに納得しました」

 その後は「選手は無理でもスポーツにかかわる仕事を」と現在の職業である鍼灸師を志し、改めて専門学校に入学。卒業後はクリニックで現場経験を積んで今に至る。

 なんとも愚直なアスリート人生。その生真面目ともいえる真っすぐな性格は、誠がゲイとして生きていく道程にも大きく作用した。

団体競技にマイナスになるからゲイである自分を押し殺した

「子どもの頃、練習後によく親とスーパー銭湯に行ったんですけど、男の体を見るとドキドキするというか、普通の男の子が女性の体を見るような目になっている感覚はありました。だけど、それがどういうことなのかはわかっていない感じで」

 どこか友人と異なる感覚を持ってはいたが、そこはまだ子ども。小中学校は周囲と同じように好きな女の子もでき、男を好きになったこともない。ただ、“異なる感覚”が消えることもなかった。

「中学生になり、エロ本とかAVとか見るようになっても、目が行くのは男優さんの体。女優さんの体を見ても興奮しないんです。だからといって女性が嫌いになるわけではなく、彼女もつくっていました。その頃の彼女を好きだった気持ちがウソではなかったと思うし、ファーストキスだってドキドキしていましたよ」

“異なる感覚”が中澤を悩ませるようになるのは、サッカーに打ち込むべく進学した高校時代である。

「高校生になると、童貞を卒業する同級生が増えるじゃないですか。女性とセックスをする自分をリアルに想像するようになってきたら、『オレ、できないかも』と思ってしまったんです。そしたら徐々に、その気持ちが膨らんできて……」

 サッカー部といえば、運動部の中でも花形の部類に入る。ましてや、全国も狙える強豪校。部員たちは学校では大いにモテた。

「さっさと初体験を済ませて、しっかり遊んでいるチャラいタイプの同級生もいました。部室でも、みんな当たり前のようにセックスの話をしていましたね」

 その風景は強豪校だから特別というわけではないだろう。性への関心が高まる10代の少年が集う華やかな運動部ならば、ごく普通の高校でもあり得る光景だ。だが、誠にとってはそれが悩みの種だった。

「部室でそういう話が出るたび、『自分には無理かも』という気持ちになる。そこからは部室でも寮でも自分がノンケのふりをして会話を合わせるようになりました」

 高校生になり、ネットの普及もあってセクシュアリティに関する知識が増え、自分がゲイと呼ばれる種類の人間であることを自覚し始めていた。しかし、カミングアウトという選択肢は迷わず消し去る。

「自分自身がまだ完全に受け入れられないのも理由でしたが、サッカーが団体競技だったことも影響していたと思います。当時の……いや、今の状況でも団体競技をやる上ではカミングアウトのメリットってないんです。仮にゲイであることを明らかにしても、部員全員が受け入れてくれる可能性は低いはず。団体競技はチームワークが大事。そう考えると、ひとりでもゲイを毛嫌いするような選手がいたら、競技に支障が出て、自分の居場所がなくなるかもしれない。プロを目指してサッカーをしている以上、居場所がなくなるのは困る。はっきり言えば、カミングアウトは競技の妨げになるんです」

 自分の性に素直になれば夢が潰れる――。誠は当然のように話すが、つらい現実だ。そんな事情も知らず、チームメイトはセックスの経験を武勇伝のように披露する。誠が話を合わせて「いいな」「すごいな」と相づちを打てば、罪の意識なく「お前も早くやれよ」とけしかけられる。

「でも、それが苦痛というわけではなかったんですよ。体が大きくてナメられるタイプではなかったから、イジメみたいにはならなかったし。チャラいタイプに比べれば真剣にプロを目指して練習に取り組んでいたから、『あいつは真面目で奥手』と思われていた程度じゃないですかね」

 スポーツ強豪校のイケイケな男子がつくり出すマッチョな雰囲気の強要は、プロを目指して練習に励んできた誠の歩みがはねのけた。

「後から知ったことですが、同じゲイでも、ちょっと女性っぽいナヨナヨしたタイプは『男らしくない』といった理由でイジメられ、悩むことも多いそうです。だけど、僕はずっと体育会育ちで、見た目や振る舞いも男っぽかったからイジメられもしないし、それで苦悩することもなかった」

 ひとつ、“ラッキー”な事情もあった。

「タイプの男が周囲にいなかったんです。ゴツい男が好きで、サッカー選手っぽい体型やチャラいタイプは好みじゃない。生徒も女子のほうが多い高校だったし、ラグビー部や柔道部もなかった。もし恋をしてしまうような男子がいたら、ゲイである自分を抑えられなくなって、何かヤバい事態が起きていたかもしれない(笑)」

 トップアスリート、あるいはそれを目指す選手には、節制やトレーニングに毎日コツコツと取り組める自己管理能力が求められる。サッカーのためにゲイである自分を押し殺していた誠のエピソードは、「競技にマイナスになることはやらない」といった一種の“節制”の話を聞いているようだった。

 しかし、その“節制”も、高校を卒業すると徐々に利かなくなっていく。

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