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『秘密結社 鷹の爪THE MOVIE3』フロッグマン監督インタビュー

夢やぶれて、夢を叶えた逆転人生! 予算表示に込めた”蛙男”の想いとは?(前編)

frogman_main.jpg少人数による制作スタイルを信条とする「蛙男商会」を率いるフロッグマン監督。
30分のTVシリーズ『秘密結社 鷹の爪 カウントダウン』は、
土曜日に脚本を考え、放送当日の火曜日に納品という驚異的なスピードで
1クール放映が続いた。

 スーザン・ボイルはYouTubeをきっかけに世界的に大ブレイクした48歳の歌姫だが、彼女の活躍に先駆けてアニメ『鷹の爪』シリーズをヒットさせてきたフロッグマン監督も、逆転人生の体現者だ。映画監督を志し、20代は実写映画のスタッフとして下積みを経験してきたが、30代を迎え”夢やぶれて”、妻の故郷である島根県に移住。定職のない日々を過ごしていたが、そんな逆境生活を投影したFlashアニメ『菅井君と家族石』を自宅のPCで配信したところ、大きな話題に。以後、フロッグマン作品は『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE 総統は二度死ぬ』(07)をはじめ、スタジオジブリとは真逆な超低予算な内容で人気を博し、1月16日(土)より封切られるシリーズ第3弾『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3 http://鷹の爪.jpは永遠に』を含め、この3年間で劇場アニメだけで5本も製作するという量産ぶり。映画監督になるという”夢やぶれて”、逆に売れっ子監督になったというミラクルな人生を歩んでいる人なのだ。

──劇場用アニメだけで、すでに5本。ギャグの量と質も、相変わらずのハイペース。20代の頃に溜め込んでいたものが膨大だったんですね。


フロッグマン それは大きいですね。ずっと溜め込んできたアイデアや欲求を、ようやくアニメという形を使って放出しているところなんです。『鷹の爪』以外にもやりたい企画はありますし、実写映画の企画もいろいろ考えているんです。

──『鷹の爪』や同時上映『古墳ギャルのコフィー』はブラックギャグ満載ですが、実写映画のスタッフ時代は小学生と船乗りとの交流を描いた『白い船』(02)などヒューマンタッチの作品に参加されていますよね。

フロッグマン よく、ご存知で(笑)。実写映画のスタッフの頃から「笑いと人情がブレンドされたものをやりたい」とずっと思っていたんです。『白い船』の錦織良成監督は心温まる作品を撮る一方で、自衛隊を題材にした『守ってあげたい!』(00)みたいな娯楽作品も手掛けている人。錦織監督にはいろいろと学ばせてもらった。その影響はかなり受けていると思います。

──しかし、実写映画の監督になる夢は叶わず、”日本一目立たない県”島根県に移住。家賃3万円の山奥の借家に、親子3人でつつましく暮らす生活だったそうで。

フロッグマン 家賃まで調べたんですか(笑)。島根時代は妻が地元の会社で契約社員として働き、ボクは近所のお祭りをビデオで撮影したり、たまに来る地元のローカルCMを製作したり、ときどき上京して映画製作に参加するという生活でした。道路の側溝のカタログ製作などもやりました。物すごく地味な作業ですよ。長男が生まれたこともあり、家族3人が食べていくためなら、何でも引き受けました。今回、劇場版第3弾を仕上げながら、テレビシリーズ『秘密結社 鷹の爪 カウントダウン』の締め切りに毎週追われていたんですが、その頃のことを考えると仕事があるだけもありがたいですよ。それに実写映画のスタッフだったときと比べて、忙しいとはいえアニメ製作のほうがずっと楽なんです。

──実写映画の頃は、現場の予算とスケジュールを管理する”制作”を担当されていたと聞いています。

フロッグマン えぇ、予算とスケジュールを任されていたので、責任は重いし、各方面に気を遣う仕事でした。本来は事務仕事のはずなんですが、人手不足で肉体労働の合間に事務仕事をしていたので、肉体的にも精神的にも辛かった。それに比べれば、冷暖房の効いた部屋でPC相手にやっている今の仕事は比べものにならないですよ。『守ってあげたい!』のときは、撮影協力の自衛官から「あんたたち、狂ってるよ!」と言われたぐらいですから(苦笑)。そのくらい日本映画の現場は過酷でした。

takanotsume_main.jpg「地球に優しい世界征服」を企む”鷹の爪団”の総統。
「キャラ設定には謳っていませんが、総統の思想は
ジョン・レノンの名曲『イマジン』に影響を受けて
います。ボク自身が7人兄弟で、兄の影響でビートル
ズを聴くようになったんです」とフロッグマン監督は
解説する。
(c)「秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3」製作委員会

──劇場版『鷹の爪』では、スクリーン横に残りの製作費を表示する”バジェット・ゲージ”をはじめ、お金に関する辛口ギャグが多いのはそのため?

フロッグマン まさに、その通り(笑)。みんな、もっとお金の使い方をちゃんと考えようよという、ボクなりのメッセージなんです。大きなことで言えば、「高速道路などに無駄に国の予算を投じるのはどうか?」と言うことですし、日本映画で言えば「別にヘリコプターをチャーターして空撮しなくても、クレーン撮影で充分じゃないの?」と言うこと。空撮に無駄なお金を使うくらいなら、エキストラの数を50人じゃなくて100人にした方が映画として質が上がるわけです。制作をしていた頃に、間違ったお金の使い方をしている現場をいろいろ見てきました。『鷹の爪』も製作費10億円だったら、そう簡単に作らせてもらえないけど、これが1本3,000万~4,000万円程度の予算だから作らせてもらえるわけです。うちのアニメーションは動きや美しさではなく、どれだけギャグを詰め込められるかで勝負しています(笑)。

──『鷹の爪』はサブタイトルをネーミングライツとして売り出し、プロダクションプレイスメント(劇中に商品を登場させ、広告収入を得る手法)もストーリーを盛り上げるためのネタとして使用。各企業への営業は電通に委託しているんでしょうか?

フロッグマン えぇ、脚本を書いた段階で、内容に合った企業を電通さんに探してもらっています。作品を広告として売ることに抵抗を感じる人もいるかと思いますが、そうでもしないと製作費を回収できないという日本のアニメ界の現状があるわけです。深夜放映されているアニメ番組はすべて製作会社の自腹で作られていて、DVD発売時のプロモーションのためにやっているようなもの。そういう赤字が当たり前とされる風潮の中で、どうすれば製作費を回収できるかと考えると、やはり営業しかないんです。そこで”バジェット・ゲージ”を表示するなど、お客さんもゲーム感覚で楽しんでもらえるようにしているんです。

──古くは鈴木清順監督のカルト映画『殺しの烙印』(67)で宍戸錠が炊飯器の湯気に興奮するシーンも、ガス器具メーカーのプロダクションプレイスメンだったそうです。商業主義との融合は、フロッグマン監督にとっては必ずしもマイナスではない?

フロッグマン ボクの世代は、生まれたときからテレビ番組を観て育っているわけですからね。商業主義を味方につけることで、創作活動にプラスになるなら、その方がいいと思いますね。
後編につづく/取材・文=長野辰次)

●ふろっぐまん
1971年東京都生まれ。「蛙男商会」の代表を務める映像クリエイター。映画、TVドラマの製作現場を経験後、結婚を機に2002年に島根県に移住。2004年、wed上で配信した自主製作アニメ『菅井君と家族石』が話題となり、2006年から深夜番組『ザ・フロッグマン・ショー』(テレビ朝日系)内で『秘密結社 鷹の爪』を放映。2007年に9カ月間におよぶロングラン公開された初監督作『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE 総統は二度死ぬ』は、ニューヨーク国際インディペンデント映画祭アニメーション部門最優秀作品賞と監督賞をダブル受賞。2008年に6カ月間にわたってロングラン公開した劇場版第2弾『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE2 私の愛した黒烏龍茶』はサブタイトルのネーミングライツが話題となった。その他の監督作に『菅井君と家族石THE MOVIE』(08)、『ピューと吹く!ジャガー いま、吹きにゆきます』(09)がある。現在、実写映画の企画も密かに検討中。

takanotsume_sub02.jpg

●『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3 http://鷹の爪.jpは永遠に』
監督・脚本・キャラクターデザイン・録音・Flash・編集・声の出演/フロッグマン 友情監督/山崎貴(白組) ゲスト声優/川村ゆきえ、板東英二、もう中学生、堂真理子(テレビ朝日アナウンサー) 主題歌/スーザン・ボイル 配給/DEL 1月16日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国TOHOシネマズ系にて公開
http://鷹の爪.jp

蛙男商会アンソロジー [DVD]

初期作品集。

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最終更新:2012/01/18 21:42
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