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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『この世界の片隅に』監督が語る

貯金ゼロ目前、食費は1日100円……苦境極まった片渕須直監督『この世界の片隅に』は、どう完成したか

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 11月12日、ようやくアニメーション映画『この世界の片隅に』(原作/こうの史代)が全国公開を迎える。

 最初に制作発表がなされたのは、2012年の8月。しかし、企画は遅々として進まなかった。

 事態がガラリと変わったのは、制作発表から2年半後の15年3月だった。クラウドファンディングによる資金調達が始まると、わずか9日間で当初の目標額2,000万円に到達。最終的には、3,374人の支援者が総額3,622万4,000円を出資する国内最高金額を記録した。

 こうして同6月には製作委員会も発足。さらに、今年8月には本予告と共に、主役である「すずさん」の声を、7月に芸名を新たにするなど動向が注目されていた女優・のんが担当することも発表され、『この世界の片隅に』のタイトルは、多くのメディアが取り上げるに至った。

 多くの困難を乗り越えて、ようやく完成に至った『この世界の片隅に』。ここに至るまでのさまざまなエピソードを、片渕須直監督に語っていただいた。

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■クラウドファンディングが作品にもたらしたもの

──WEBアニメスタイルで連載してきたコラム『1300日の記録』。いわば『この世界の片隅に』の制作日誌ですが、12年8月20日に始まった連載の第1回では、遡って10年8月6日のことを記されていますね。ここで、監督はプロデューサーの丸山正雄さん(MAPPA代表取締役会長/本作では企画)とのやりとりを記しています。ここでは、こう書いていらっしゃいますね。

「この頃、2009年夏に完成した『マイマイ新子と千年の魔法』の次回作になる企画を模索している。丸山さんには、片渕には次はTVシリーズを作らせたい、というかなりはっきりした思いがあったらしかった」

『マイマイ新子と千年の魔法』に続いて次回作も、丸山さんと一緒に歩もうと思うに至るには、どのような経緯があったのでしょうか?

片渕 うーん『マイマイ新子と千年の魔法』をやった結果、その次という話をしやすかったということがあります。

当初、丸山さんは『この世界の片隅に』を、アニメーションにするのはよいが、テレビシリーズ向けなんじゃないかと考えていました。それは、映画のほうが企画を成立させるためのハードルが高いからです。

ところが、丸山さんが映画でやるべきだと考えを改める出来事がありました。

10年10月に作品の舞台となった防府市で『マイマイ新子と千年の魔法』の野外上映会が開催されたことです。このとき、地元だけでなく全国から1,000人あまりの人が集まってくれました。

──ほとんど村祭りみたいですね。

片渕 そう。しかも会場には、横幅20メートルのスクリーンを貼って、後ろに映画の中に映るのと同じ山がそびえてたんですから。

丸山さんは、防府市に行くまでは「映画は無理だからあきらめろ」と僕に話すつもりだったようです。ところが、野外上映のスクリーンの前に集まっている人を見て考え方が180度変わったらしく、翌朝「やっぱり映画で作らなくちゃだめだ」と。野外上映会の後、温泉宿に一泊したんですが、丸山さんは一晩ずうっと、僕にどう切り出すか考えていたそうです。

そうしたお客さんが存在していること、そうしたお客さんをあらかじめ見積もることができたのが、丸山さんとしては大きかったと思います。

その後、クラウドファンディングを行ったのも、スポンサードしている方々に、そうしたお客さんの存在を可視化して理解していただくためでした。

──月並みな言い方ですが、丸山さんは、純粋にアニメーションを愛している方と聞いています。

片渕 ゼロ号試写のときには、上映中から声をあげて泣いていたみたいです。終わった後、別のスタッフが聞いたんですが「生きていてよかった」とまで言っていたそうです。

丸山さんが、いっぱいお客さんがくるのを形で示さなきゃだめだよというので、クラウドファンディングをやったのですが、そこまでも本当に完成するのか、さまざまな出来事がありました。だから、形になったときに、いろんなものがこみあげてきたのでしょう。

──丸山さんは、これからもクラウドファンディングで制作をと考えていらっしゃるのでは?

片渕 いや『この世界の片隅に』の前から「クラウドファンディングができれば、いろんなことは解決できるね」とは言っていました。けれども、通常のクラウドファンディングって、どんなに頑張っても、映画の制作費の10%くらいが限界だと思うんですよね。それが、わかったときに、丸ごとクラウドファンディングで映画を作るのは無理だと、消極的になっていた時期もあるんですよ。

だけど、クラウドファンディングでお客さんの数が確認できたら、道が拓けるんじゃないかと思ったときに、映画の完成へ向けての道が始まったと考えています。

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