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神のイタズラ? 失敗と偶然が生み出した奇跡の写真『味写入門』

ajisya.jpg『味写入門』アスペクト

 カメラと言えば、ほんの数年前まで、24枚撮り、36枚撮りなどのフィルムを入れて使用する銀塩カメラが主流だった。とくに、ガリガリガリと独特の音を出しながらフィルムを巻き上げる使い捨てカメラは一世を風靡し、老若男女問わず、誰もが気軽に使えるカメラとして、日常生活の中でも、旅先でも、記念撮影でも、あらゆる場面で使われていた。

 そして、撮影したフィルムをカメラ屋に持って行き、同時プリント(現像と撮影した写真すべてを一枚ずつプリントしてもらう)を頼んだ。その写真を眺めながら、「あー、またいらない写真がいっぱいあるな」。そう思った人は多いはず。

 デジカメ全盛期の今、撮影した写真は画面ですぐに確認することができ、事業仕分けのように無駄な写真はバッサリと省かれ、すぐに削除されてしまう。

 けれど、その「いらないなー」と思った写真の中に、実は偶然が重なり、生み出された奇跡の一枚が隠れていたりする。明らかにシャッターチャンスを逃している、デタラメな構図、家族を差しおき、なぜか赤の他人が中央にいる……など。それが、デジカメでは見過ごされやすいが、フィルムカメラの場合は全てプリントされているので、しっかりと残されている。

 一度、失敗作として認識された写真は、家のどこかしらに放置されたまま時が流れる。それを大掃除か何かのきっかけで目にすると、失敗作だったはずの写真に、意図せず映り込んだ現場の空気や人々の表情などが映りこんでおり、独特の味わいを醸し出していることがある。これを「味写」と言う。
 
 本書『味写入門』は、人気サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で2004年から08年に連載された「天久聖一の味写入門」という企画を1冊にまとめた本だ。その始まりは、押入れの中に眠る、家族アルバムにも貼れないボツテイク写真の募集だった。ユーザーからどんなものが届くかわからないまま出発したが、蓋を開けると、お宝の山。その収集係を務めたのが、著者の天久聖一氏だ。

 彼は本書の対談の中で、味写に共通するものを「神のイタズラでしょうか?」と語っている。その言葉の通り、まさに神業とも思える一瞬のできごとを切り取った写真の数々が凝縮されている。そして、プロには決して出せない、圧倒的なクオリティの低さ(いや、高いのか?)も魅力のひとつとなっている。
 
 やはり、写真は言葉で説明するよりも、観るのがイチバン。と言うことで、本書の解説とともに、独断で選んだ3枚をご紹介。

「おじいさんの湯気」

yuge.jpg(C)天久聖一/アスペクト

 ランニング姿、食べ物を頬張る表情、そして、1ミリたりとも狂いのない掛け軸の模様の位置、何もかもがドンピシャで収まっていて、もはや神がかった領域だ。

「不都合な真実」

futsugou.jpg(C)天久聖一/アスペクト

 この宴会場に一体何があったのか。あまりにも畳が汚すぎて、何かワケあり事件があったのでは……と憶測を呼んでしまうほど。そのわりに、映っている人の表情は非常に楽しげ。

真打ち登場

shinuchi.jpg(C)天久聖一/アスペクト

 この写真で注目すべきは、”ブレない表情”にほかならない。端から端へと移動しているのか、はたまた、その場で右往左往して踊っているのか。歌っていると、どこからともなく、登場しそうな勢いだ。

 本書では、上記で紹介した写真を含め、90枚の究極の味写が収められている。見てすぐに笑える写真、よく見ると面白さが詰まっている写真、解説を読むと見方が一変する写真まで、見どころ、ツッコミどころ満載の内容に仕上がっている。

 これを機に、一度自分の家に眠る写真を引っ張り出してみよう。ひょっとしたら当時は思いもよらなかった、衝撃の真実が隠れている、かもしれない。
(文=上浦未来) 

天久聖一(あまひさ・まさかず)
1968年香川県生まれ。1989年漫画家としてデビュー。株式会社来夢来人代表取締役。著書に、『バングラデシュ日本』(太田出版)、『新しいバカドリル』(ポプラ社)、『バカはサイレンで泣く’09』(扶桑社)など多数。また、電気グルーヴのPVも手がけ、『モノノケダンス』はスペースシャワーTVの「ミュージックビデオアワード09」で年間優秀作品に選ばれた。
ほぼ日刊イトイ新聞「天久聖一の味写入門」<http://www.1101.com/ajisha/index.html>

味写入門

爆笑必至。

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最終更新:2010/04/12 18:00
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