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さよなら&こんにちは、ピンク映画の殿堂「上野オークラ」新たなる旅立ち

uenoop01.jpgピンク映画文化を守っていきたいと熱く語る斎藤支配人。
「AVと違ってピンク映画は絡みも演技。
AVとは異なるピンク映画の映画としての面白さを、
若い方にも知ってほしいですね

 
 『おくりびと』(08)の滝田洋二郎監督、『ヒーローショー』の井筒和幸監督、『BOX 袴田事件』の高橋伴明監督、『トウキョウソナタ』(08)の黒沢清監督、『それでもボクはやってない』(07)の周防正行監督、そして『キャタピラー』の公開を控える若松孝二監督……。日本映画界を支えてきた名監督たちは、み~んなピンク映画出身なのだ。『肉体の市場』(62)から始まったピンク映画は、『ピンク映画館の灯』(自由国民社)によると全盛期には全国に1,000館以上もの成人映画専門館を数えたとされる。中高生の頃はエロいポスターが貼られたピンク映画館の前を通る度にドキドキしたものだが、今ではピンク映画館の数は全国で70~80館程度に。レッドデータブックに登録されかねない状況となっている。そんな中、58年の歴史を誇る映画館「上野オークラ劇場」が8月1日(日)で閉館、さらに8月4日(水)から新館がオープンするという。ピンク映画館の新館が建てられるとは、このご時勢では非常にレアなニュース。上野オークラの名物支配人として親しまれている斎藤豪計支配人にことの真相を尋ねた。

──”都会のオアシス”上野オークラが建て替えられると聞き、驚きました。それにしても、ずいぶん歴史のある劇場だったんですね。

斎藤豪計支配人(以下、斎藤) もともと「上野公楽座」という名称の東映の封切館として1952年に建てられた映画館なんです。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)で描かれていた時代ですから、かなりの歴史ですよね。70年頃から、今のようなピンク映画館になりました。当時の名称は「上野OP劇場」。いつから「上野オークラ劇場」となったかはハッキリしません(苦笑)。建物自体はしっかりしていて不都合はないんですが、お客さまの年齢が年々上がってきているので、ここで思い切って建て替え、バリアフリー化しようということなんです。今、建て直さないと、10年後に建て直すことができるかどうか分かりませんから。新館はすぐ隣に建てられ、3スクリーン。聴覚に障害がある方にはヘッドホンを貸し出します。シネコン並みに明るく清潔な内装でシートもかなり高級なので、若い方や女性の方にも気軽に入っていただきたいですね。

──ピンク映画は1本あたり製作費300万円、かなり過酷な現場だと聞いていますが、配給・興行側は意外とお金があるんですか?

斎藤 いえいえ、当館は大蔵映画の直営館ですが、やはり興行部門も厳しいですよ(苦笑)。不動産部門、レジャー部門の均衡経営で成り立っているのが実情です。かつては日活をはじめ大手映画会社も成人映画を製作・配給していましたが、現在では大蔵映画、新東宝、新日本映像(エクセス)の3社だけです。大蔵映画は毎年36本の新作を公開していますが、新東宝とエクセスは昨年で10本程度。ピンク映画の製作本数は年々減っており、大蔵映画のメイン館である当館がなくなれば、ピンク映画の存在そのものが危うくなるんです。大蔵映画の社内でも、今後もピンク映画産業を守っていこうということでは考えは一致しています。とは言え、ボランティアではやっていけない。そこで新しい客層にアピールできるよう、新館オープンを起爆剤にしたいと考えているんです。

──03年に斎藤支配人が就任されてから、ちらしをカラー化し、劇場のブログをほぼ毎日更新、人気女優や監督を招いてのトークイベントを催すなど、さまざまな営業努力を積み重ねています。斎藤支配人をそこまで突き動かしているものは何なのでしょうか?

uenoop03.jpgロードショー館「上野スタームービー」
跡に建てられた新館。3スクリーンで、
女性も入りやすいよう、明るい色使
いの劇場となっている。不忍池から
の風が心地よい立地だ。

斎藤 大蔵映画に入社して10年目になるんですが、03年に上野オークラの支配人になる前は、やはり大蔵映画が経営するロードショー館「上野スタームービー」に勤めていました。正直に言うと、それまではピンク映画のことはあまり知らなかった。でも、ピンク映画の世界に触れ、「なんて愛しい世界があったんだ」と感銘した。完全に洗脳されてしまったんです(笑)。ピンク映画は1本の上映時間が約1時間と気楽に楽しめる上に、濡れ場さえしっかり押さえていれば、あとは作り手の自由がある程度許されているんです。ドラマ、サスペンス、コメディ、パロディなど多彩な作品が作られている。大手の映画会社が作らないような、何でもないような男女の出会いや別れを描いたものもあり、けっこうホロリとさせられるんです。しかも、テレビや一般映画では省かれる男女の絡みがしっかりと描かれる。今年のピンク大賞で第1位に選出された『壷姫ソープ ぬる肌で裏責め』(09)はソープ嬢になった高校時代の同級生と主人公が再会する何気ない話ですが、もう胸がやばいくらいにキュンキュンしましたね(笑)。お客様の中には80歳に近いような年齢の方もおられるんですが、映画を観た後に「いいものを観せてもらったよ」と言いながら背筋をピンと伸ばして帰っていかれる。そういうのを見ると、何だか自分もうれしくなってくるんです。

──毎年GWに開催している「OP映画祭り」は、女優や監督たちがピンク映画ファンと触れ合う機会として盛況ですね。

uenoop04.jpg上野アメ横近くにある”都会のオアシス”
上野オークラ劇場の斎藤支配人(44)。
大蔵映画に入社して10年。上野オーク
ラの支配人に就任して7年。トーク
イベントの司会を務めるなど、ピンク映
画ファンから愛される存在だ。

斎藤 今年で3回目なんですが、3日間連続のイベントを企画したところ、連日大入りでした。最近のピンク映画館は、全国的に見てもいい話題が少ないので、少しでも明るいニュースを当館から発信していきたいという思いですね。女優さんや監督のみなさんは多少の無理を押してでも快く参加してくれるし、ピンク映画ファンのみなさんがまた心優しい方ばかり。劇場内がとても温かい雰囲気になり、イベントの司会を務めているボクに握手を求めてくる方もおられるほど(笑)。皆様から喜ばれているイベントなので、これからもしっかり企画し、もっとファン層を広げていければと考えています。

──斎藤支配人おすすめの監督、女優はいますか?

斎藤 滝田監督らが一般映画に次々と進出した80~90年代と状況は違うとは思いますが、若手監督では先ほど話した『壷姫ソープ』の加藤義一監督やピンク大賞の常連である竹洞哲也監督の新作はいつも楽しみにしています。新人女優ではAVでも活躍しているかすみ果穂さん。テレビのバラエティー番組(『おねだりマスカット』)では四股を踏んでみせたりしていましたが、あれはテレビ向けに作ったキャラクターだと思います。普段はとっても普通でとっても良い娘なんです。これまでもAVからピンク映画に来た女優さんは少なくありませんが、ピンク映画は1本を3~4日間で撮り上げる厳しい現場で、しかもAVと違ってギャラが低い。お芝居をするのが本当に好きな方じゃないと続かないんです。その点、かすみさんはすでに何本もピンク映画に出演されていて、とても頑張っていらっしゃるので、これからも大いに期待しています。

──支配人として答えにくい質問かもしれませんが、ピンク映画館に対し”ハッテン場(男性同性愛者の社交場)”というイメージを抱く人もいるかと思います。その点はどうお考えですか?

斎藤 う~ん、それはナイーブな問題ですねぇ。確かにピンク映画館には居心地の良さからなのか、さまざまなお客さまが来られます。支配人としては「こういう人たちには来てほしくない」とは言いたくないんです。当館ではそちら系の方が一般のお客さまにちょっかいを出そうとしていると、スタッフが注意するようにしています。でも、そちら系の方たちは劇場で体調の悪いお客さまが出たときには背負って出口まで運んだりするような、優しい方が多いんですよ……。まず何よりも、みなさんが安心して映画を鑑賞できる劇場であるように今後もいっそう努めたいですね。

uenoop02.jpg昭和な雰囲気が漂う旧館のロビー。人気女優
たちのサイン会もこちらで行なわれてきた。

──最後に、8月1日の夕方で閉館となる旧館のクロージングイベント、8月4日から始まる新館でのオープニング情報について教えてください。

斎藤 旧館でのフィナーレには、ピンク映画第1号とされる『肉体の市場』に助監督として参加し、これまで400本以上のピンク映画を監督してきた大ベテランの小川欽也監督をフューチャーします。特に7月31日(土)には『新怪談色欲外道 お岩の怨霊四谷怪談』(76)、『怪談バラバラ幽霊』(68)といった貴重なお宝フィルムを1日限定で上映し、小川監督らのトークショーも予定しています。新館では8月1日に”女性限定のピンク映画鑑賞会”を開催します。ユーロスペースやポレポレ東中野といった一般映画館でのピンク映画の上映は女性のお客さまが多いので、新しい上野オークラにも足を運んでもらいたいですね。8月4日からのオープニングは加藤監督、池島ゆたか監督、竹洞監督の最新作の上映の他、人気女優たちの舞台挨拶やサイン会も実施する予定です。ピンク映画の新しい歴史をぜひ体感してください。

 面倒な質問に対しても、誠実に答える斎藤支配人。さすが”都会のオアシス”をもり立ててきた好漢である。はたして”都会のオアシス”は今後どのように変わっていくのか。上野オークラの大いなる試みに注目したい。
(取材・文=長野辰次)

●上野オークラ劇場
JR上野駅不忍口から徒歩3分に位置する成人映画専門館。ピンク映画業界の最大手・大蔵映画のメイン館として、連日3本立てのオールナイト上映を週替わりで編成している。サラリーマンやシニアの憩いの空間。斎藤支配人が就任してからは、人気女優や監督を劇場に招いてのトークイベントなどを積極的に催し、サブカル好きな若い世代も足を運ぶように。近年の功績が認められ、10年5月にピンク大賞特別賞が上野オークラ劇場に贈られた。
住所/東京都台東区上野2-14-31
<http://uenookura.blog108.fc2.com/>

日本映画ポスター集 ピンク映画篇

これが日本のカルチャーです。

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最終更新:2010/07/27 18:00
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