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アユプロジェクト代表取締役社長・田中忠幸氏インタビュー

自己破産から年商15億の企業家へ ヤンキー社長は元いじめられっ子

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 この世にゴマンといる社長の中でも、強いリーダーシップと独自の経営哲学を持ち、人生においても異彩を放ってきた企業のトップの声を聞いていくインタビュー企画。今回登場するのは、30年ちょっとの人生で、いじめられっ子→ヤンキー→自己破産→ベンチャー社長、と紆余曲折を味わったモバイル広告代理店の社長。若き茶髪のリーダーは、リベンジ精神を糧に、いじめられた過去や自己破産というどん底状態を腕っ節ひとつで清算してきた。年商15億円への道のりにあったものとは?

 * * *

 今思えば、よく自殺しなかったと思いますよ。もっとも、自殺という選択肢をよく知らなかっただけで、今みたいに新聞やテレビで子どもの自殺が連日報じられていたら、真似して僕も死んでいたかもしれないですね」

 年商15億円のモバイル広告代理店「アユプロジェクト」の社長・田中忠幸氏は、中学校3年間にわたる壮絶ないじめ体験をそう振り返る。

 三重県四日市で生まれ育った田中少年は、幼くして両親が離婚しながらも、外装工職人の父に育てられながら明るく育つ。

「小学校では人気者。でも、中学では、教室で騒ぐ僕にイラつく奴もいたみたい。その連中がタッグを組んで無視を始めた。何を言っても笑ってくれない。いつのまにか教室の空気全体が変わっていました」

 バスケット部では部員全員からボールをぶつけられる日が続き、夏前には退部。自転車は毎日ひっくり返され、サドルも抜かれてどこかへ捨てられた。

 いじめられていることに気づきながらも、まだ一過性のものだという期待があった。そのうち仲間に入れるだろう、まさか3年間もいじめが続くはずがない……。しかし、いじめは日に日にエスカレート。地獄のような3年間の始まりだった。

「朝いきなり顔面を殴られる。鼻血が出ても笑うしかない。トイレでは、おしっこした途端に後ろから蹴っ飛ばされる。ズボンが濡れると『汚ねえぞこいつ!』と引きずり回される。だからトイレは行かなくて済むように、水飲むのを我慢していました」

 一番つらかったのは、参観日に、母親代わりに来てくれた祖母が馬鹿にされることだった。「あれがお前の母ちゃんか!」「ババいんじゃ!」と罵る同級生。さらに、祖母が毎朝作ってくれる弁当までもいじめの材料に。

「同級生の弁当はプチトマトとか暖色系の食材で、見た目もかわいらしい。でもばあちゃんの弁当はいつも肉炒めで、遠目に見ると黒いんですよ。『なんじゃそら、エサか!』と、弁当にゴミをかけてくる。でも、ばあちゃんに申し訳なくて全部食べた。言い返せない自分にも悲しかったですね」

 その後は登校拒否、家出を繰り返し、学校へ行けば殴られ、蹴られる。それでも「卒業すれば人生リセットできる」と信じ、泣きながら耐えた。当時、少年誌に『カメレオン』という漫画が連載され、中学でいじめられっ子だった主人公が高校から不良デビューして天下をとるという内容が人気を集めた。夢中になって読んでいた田中氏にとって、この主人公は自己投影した分身だったのだ。

■”高校デビュー”でいじめっ子に復讐図る

 地獄の3年間を耐え続けた田中氏は、高校生活で人生を180度転換。まさに漫画『カメレオン』ばりの”変身”に成功する。県下の不良が集まる”有名な”私立高校だったが、中学の同級生が誰も来ない学校はそこしかなかった。髪形から学ランまで全身ヤンキー色で染め、人生をリセットしたい一心で不良どもとはったりと勢いで渡り合った。

「ある日プロレスごっこをしたら、喧嘩好きな不良らと対等にやりあえた。投げられたり蹴られたりしても僕には効かない。3年間殴られ続けて慣れていたというのもあるんですが(笑)、親父の手伝いでガキの頃から肉体労働していたので、体も鍛えられていたんですね」

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 2mの足場板の上を20kgの資材をかついで歩き回って来た少年にとって、プロレスごっこはまさに遊びだった。おもしろくてウェイトトレーニングも始めると、田中氏はいつのまにかクラス1~2位のマッチョに。家の手伝いで日当2万円を稼いでいたので、資金も潤沢。学校帰りは「すがきや」で不良たちにラーメンと餃子をおごって兄貴風を吹かせた。

 金もある、喧嘩もできる。「田中はん」と慕われる田中氏は、いつしか不良たちのリーダーに。心に余裕が生まれてくると、こんどは中学でいじめた連中に仕返しをしたい思いに駆られ始めた。

「地獄の日々でしたから、それくらい許されるでしょう(笑)。毎日電話で公園に数人ずつ呼び出してはタイマンでボコにしてました。みんな僕の”変身”を知りませんから『田中ぁ? 正気かコラ!』と威勢よくやってくる。でも顔面に頭突き入れて急所蹴り上げたら、たいていは鼻血出して静かになりました」

 一通り”復讐劇”を終えた田中氏は、その後も順風満帆の高校生活を送るものの、1年が終わる頃のある日、無免許による自動車事故を機会に「潮時だから」とあっさり退学。父親の仕事を本格的に手伝い始める。時代はバブル崩壊がいわれ始めた1991年、16歳での社会人デビューだった。

 初めの数年は毎月80万円稼いで羽振りのいい生活を送ったが、90年代も半ばを過ぎると不況の波はいよいよ本格化し、建築件数は激減。ついに仕事はゼロで多額の負債を抱えることに。仕方なくトラック運転手をしながら30万円の月給をすべて返済に充てるも、焼け石に水だった。父親と互いに保証人になりながら金策に走った結果、親子そろって破産宣告。いじめに続き、人生2度目のどん底を経験する。田中氏25歳のときだ。

「ところが、他の運送会社3社からお誘いがかかった。配送先の事業所でゴミを拾ったりしてたのを評価してくれる人がいたんですね。他人が嫌がる仕事は、積極的にやってましたから。結局『前の1・5倍出すよ』と言ってくれた社長さんにお世話になりました」

 どん底から這い上がり始めたこの運転手生活で、田中氏は人生最大の転機を迎える。モバイルコンテンツとの出会いである。運転の休憩時間に携帯電話をいじるうち、携帯電話でサイトを作れる時代になっていることを知る。本を買って見よう見まねで、男性向けのエンタテインメントサイトを作り、iモードの掲示板へPRを書き込みながらユーザを増やしていった。意見を取り入れながらサイトの改良も進め、アクセス数が日に8,000件を超えたとき、ある代理店から広告枠を買いたいと連絡が入る。

「1枠8万円を3枠24万円、前金で振り込むからと。ほぼ月給ですよね。で、翌月また24万。『こ、これは金になる!』と(笑)。アクセスを増やすため、必死でサイトの充実化を図りましたよ」

 サイト訪問者からの声を拾ってはサイトへ反映し、寝床でアイデアが浮ぶと、すぐ起きてノートにメモ。ユーザ視点に立ちながら夢中でサイト構築をするうちにアクセスも激増。広告収入は、いつしか月150万円を超えていた。

「当時のウェブ広告市場は850億円くらいで、過去3年で3倍以上に急成長していた。携帯利用者数も、まだ増えてました。ここは勝負だと思い、広告を売る側ならさらにチャンスが広がるだろうと、モバイル広告代理店の起業を決めました。そして、アユプロジェクトを立ち上げたのが02年、28歳のとき。不安もありましたが、地獄を何度か見てますから、怖いものもない(笑)」

 実際、事業は順調な立ち上がりを見せて、初年度から年商10億円を達成。その後も紆余曲折を経ながら、不採算部門の閉鎖や一部リストラなどドラスティックな経営改革を断行。確実に進化を遂げながら、現在では年商15億円の企業へ成長した。

「社員の報酬にインセンティブを導入したり、業務の役割分担を決めて各自に責任を持たせるなど、社内体制を変えることで空気を変えていったわけですが、とにかく優秀なスタッフに助けられてきました。僕ひとりの力なんて知れてますから」
 趣味で始めたブログも好評。芸能人並みに激しい私生活から日々の雑感までを、飾らない言葉で綴っている。いまや「アメブロ」のベンチャー社長人気ランキング上位の常連だ。ビールなら一日飲み続けられるという酒豪。永遠のヤンキー社長は「昨日も西麻布で2時まででしたよ」といたずらっぽく笑った。
(「サイゾー」09年8月号より/文=浮島さとし、写真=笹村泰夫)

●田中忠幸(たなか・ただゆき)
1974年11月21日、三重県四日市市に生まれる。幼少時代に両親が離婚、外装工職人の父親に育てられる。中学校時代に3年間にわたり壮絶ないじめを受け、登校拒否や家出を繰り返す。高校へ進学してから不良デビューをはたし、かつてのいじめた相手に暴力で”報復”。喧嘩や無免許運転などを繰り返し、1年で高校を退学する。父親の後を継ぐべく職人の道に入るが不況で、廃業。トラック運転手を経た後、28歳のときにモバイル広告代理店「アユプロジェクト」を起業。初年度から年商10億円の会社へ。個性溢れる社長ブログ(http://ameblo.jp/ayupro)も人気。いじめや自己破産などの悲惨な体験を乗り越えてきたことで、全国から世代を超えた悩みや相談が寄せられている。

最終更新:2010/09/28 19:38
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