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二郎とマラソンは似て非!? 生粋のジロリアンが語るラーメン二郎の経営学

jiro02.jpg多いときには月20杯、二郎のラーメンを食べるという、
筋金入りのジロリアン・牧田氏。

 ラーメン狂がお気に入りの店を語るときは、得てしてアツく前のめりになりがち。中でも、”ラーメン二郎”をこよなく愛する人々の、傾倒ぶりときたらない。皆さんの周囲にも、ラーメン二郎をソウルフードにしている”ジロリアン”がいるのではないだろうか。

 信州大学経営大学院で教鞭をとる、経営学者の牧田幸裕さんも、そんなジロリアンのひとり。二郎好きが高じて、書籍『ラーメン二郎にまなぶ経営学』(東洋経済新報社)まで出してしまったのだ。そんな牧田氏に溢れんばかりの二郎愛を語ってもらった。

――”ラーメン二郎”と”経営学”とは唐突ですね?


牧田幸裕氏(以下、牧田) いえ、実はラーメン二郎は経営学を解説するのに非常に良いモデルなんです。一般的に商売のやり方は、お客様を広く薄く取るか、もしくは、狭く深く取るか、の大きく分けて2つ。後者を経営学では”差別化”と言います。二郎は、この”差別化”に成功しているいいケースなんですよ。二郎を使って、差別化の説明をすれば、経営学に慣れ親しんでない方々にも入りやすいのではないか、と思って書きました。

――経営学の本というよりは、二郎の素晴らしさをあの手この手で説かれているようで、牧田さんの愛情がひしひしと伝わってきました。

牧田 光栄です。本の執筆のときは、まず二郎を食べに行き、その高いテンションのまま書いていました。そうすると、ついつい暑苦しい文章になってしまうんですが(笑)。執筆時は月に20杯は二郎を食べていたので、まさに”ロイヤル・ジロリアン”(=牧田氏の造語。月に20杯、年間で約20万円を二郎につぎこむ人の意)でした。

――それほどまでに愛する二郎との、出会いのきっかけとは?

牧田 社会人1年目、全然自分の力が通用しなくて、自信を失っていたんです。そのときにふらっと入ったラーメン屋が二郎だった。二郎のことを何も知らずに大盛りを頼んだら、とんでもない大きさのラーメンが出てきて、僕はラーメンにすら勝てないのか、と思ったんです。ですが、ラーメンなんかにまで負けてなるものか、と悔しい気持ちをバネに完食。この二郎大盛りに打ち勝ったのが、東京に出てきたときの初めての成功体験だったわけです。目の前のラーメンは、”いただくモノ”であって、決して”戦うモノ”ではないのですが。

jiro03.jpg“ロイヤル・ジロリアン”とは牧田氏の
造語で、月に15~20回二郎に通う人を
指すらしい。彼らが年間二郎に費やす
金額はおよそ20万円!

――”戦い”と言いたくなるほど、食べ切るのが大変なんですか?

牧田 店舗によって差がありますが、麺の量は「小」で200~300グラム、「大」で400~500グラムありますからね。ちなみに、他のラーメン屋はだいたい120~150グラムです。また、二郎の店から出てくる人を観察していたところ、疲れている人が妙に多い、ということに気付いたんです。ラーメンを食べているだけなのに、疲れるとはどういうことだ、と。でも、みんなどこか爽やか。まるで、マラソンを走り終わったあとの高橋尚子選手のように、達成感がにじみ出たほほえみを浮かべているんですよ。つまり、二郎を食べている間はまさにマラソンで、自分を信じて頑張って食べ切ることに喜びを見出す文化がある。これが、二郎独特の”差別化”のひとつなわけです。

――ラーメン二郎を食べるのは、スポーツのようなものなのですね。マラソンということは、個人競技なのでしょうか?

牧田 チームスポーツの要素も持っているかと思います。周囲のお客さんとの”同志愛”のようなものを感じるんですよね。例えば、他のラーメン屋では気にならないのに、二郎では、周囲の人がラーメンをズルズルとすする音が気になる。その音を聞くことで、心の中で『お互い頑張って食べてるな』と励まされる。こうして、偶然同じ日、同じ時間、同じ店に居合わせた何人かが、チームになって頑張ってる、という状況が生まれるんですよ。この、店内のジロリアンとの独特な連帯感も、二郎の提供価値になっていますね。

――”ロイヤル・ジロリアン”のようなベテランさんがたくさんいる中で、初心者はどう振る舞えばいいのでしょう。二郎でのお作法をうまくこなせるのか、不安です。

牧田 おそらく、初めての人が面食らう関門は、”トッピングコール”でしょうね。「野菜ましまし、カラカラ、アブラ、ニンニク」などと言うのですが、ジロリアンの間では”呪文”と呼ばれています。食券を出したら、トッピングコール(=呪文)を突然聞かれるので、ボーっとしないこと。また、呪文は流暢に言えなくてもいいので、ゆっくりと自信を持って言うことです。ベテランのジロリアンは早口でペラペラと唱えるけど、それができないからって焦らなくても大丈夫。緊張のあまり噛んでしまうこともあるかもしれませんが、周りのジロリアンもそんな初々しい姿を見て、「自分にもそういう時代があったよなぁ」なんて昔を振り返るはずですよ。

 結局、”経営学”ではなく”二郎”の話に終始してしまったが、これこそがラーメン二郎の経営戦略でもある、と牧田氏は言う。「二郎の顧客が、二郎の良さを周囲に口コミで広める。つまりこれは、経営学で言う”コミュニティマーケティング”に成功している、ということです」。

 そんなジロリアン兼経営学者・牧田氏に、初心者にもオススメの二郎はどの店舗かを聞いたところ、「こればっかりは主観になってしまいますが、僕は三田本店と目黒店がお気に入り。でも、人によって好みが分かれる部分ですから、ぜひ自分にとっての最高の二郎を探して食べ歩いて下さい。”二郎クエスト”です! スライムは出てきませんがね(笑)」とのこと。モンハンもいいけど、今度は二郎でも狩りに行こうかしら、なんて。
(取材・文=朝井麻由美)

●まきた・ゆきひろ
1970年京都市生まれ。京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。アクセンチュア戦略グループ、サイエント、ICGなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年IBMビジネスコンサルティングサービスへ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年信州大学大学院経済・社会政策科学研究科助教授。07年より現職。著書に『フレームワークを使いこなすための50問』(東洋経済新報社)、雑誌連載など多数。

ラーメン二郎にまなぶ経営学 ―大行列をつくる26(ジロー)の秘訣

ある意味、二郎入門書。

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最終更新:2011/08/08 17:17
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