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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第11回

内定取り消しにブラック企業……若年雇用問題の解決に必要な”公共”の精神とは!?【前編】

若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

■今回の提言
「個人化された労働者が会社と交渉できるシステムを作れ!」

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ゲスト/坂倉昇平[NPO法人POSSE理事]
     川村遼平[NPO法人POSSE事務局長]

──今回のゲストは、若年層の労働問題の解決・支援に取り組むNPO法人・POSSEの理事・坂倉昇平氏と、同事務局長の川村遼平氏。若者の労働をめぐる状況は悪化の一途をたどっているように見える。この状況を脱するために奮闘するお2人に話を聞いた。



荻上 今回は、若者の労働問題に取り組まれているNPO法人POSSEから、事務局長の川村遼平さんと、広報ミニコミ「POSSE」編集長の坂倉昇平さんをお招きしました。

 大きな雇用情勢の流れを見るに、リーマンショックで底をついて以降、世界的には緩やかな回復傾向にある中で、日本は一進一退を繰り返しながらも、なかなか長期不況を脱しきれていない状況です。直近では、全世代的に多少の雇用改善が見られたものの、15~24歳の完全失業率はむしろ上昇、季節調整後の数値は11.1%にも達しています。これはかつて就職氷河期といわれた十数年前よりもさらに悪い。卒業年度の景気は生涯賃金にまで影響を与えるため、これからさらに「失われた世代」が生まれ続けてしまうということです。こうした現状がある中で、まずはPOSSEの活動を立ち上げられた経緯と、問題への取り組みのスタンスをお聞かせ願えますか?

坂倉 POSSEを立ち上げたのは、5年前の2006年です。当時はちょうど非正規雇用の問題が話題になり始めていて、それとセットで「若者がどんどん堕落しているから、非正規になっているんだ」というような自己責任論や俗流若者論が出てきた時期でした。そのため、実際にトラブルを抱える若者の労働相談事業を軸にしながら、まずはマスコミ上での粗雑な議論に対して、若年雇用の実態を正確に把握し、公表するための調査活動が、POSSEとしての最初の活動でした。

 一方で、07~08年くらいになるとマスコミの自己責任論に対抗するかたちで「ロスジェネ」(かもがわ出版)などの雑誌が登場して、若者が虐げられている状況や貧困問題を告発する、いわゆるロスジェネ論壇が形成されていきました。そうした動きには社会的な啓発という意義はありましたが、その機運が若者全体に共有され得るものだったかというと、あくまで一部の文化人による表現にとどまり、当事者の間で影響を持ちにくいという印象がありました。既存の言説へのダメ出しが中心で、若者労働者の生活を改善できるような具体的な政策論が語られることはほとんどなかったと思います。
 
 ですから、「こういう実態があって、ひどい」と憂うのではなく、現場に根付いた調査に加え、建設的な政策論を提起していくべきだと考え、情報発信のために自分たちの雑誌の刊行を始めたのです。

川村 僕は07年からPOSSEに参加していますが、現在は板倉が雑誌担当として若者雇用に関してどういう議論があるのかを整理し、僕が個別の労働相談の担当として現場の声をきちんと集め、代表の今野(晴貴)が政策分析をするという役割分担になっています。相談担当としては、月に30件ほどの事案を受け、相談者の雇用状況の改善手段を提示していく。そうして垣間見えてくる実態を、さらにはアンケートなどを通じて調査し、雑誌媒体などで発表していく。これが、僕たちの基本的な問題への取り組み方です。

■「ブラック企業」と若年雇用の問題の実態

荻上 雑誌「POSSE」の9号では「もう、逃げだせない。ブラック企業」という特集を組まれています。「ブラック企業」というのは、00年代後半に雇用情勢の悪化によって労働環境における被雇用者の立場が弱くなっていくのに呼応するかたちで、その待遇が非人道的であったり、労働基準法に反する理不尽な要求をしてくるような会社を総称するキーワードですね。

坂倉 ブラック企業という言葉は、一般的には「労働関連法令に抵触するような働かせ方をする、特別にひどい会社」というニュアンスで使われていますが、もともと日本の労働環境においては、法令違反や非人道的な働かせ方は一般的でした。サービス残業は常態化し、長時間労働時間への規制が機能せず、過労死ラインを超えて働かせる企業に対する取り締まりすらありません。仕事内容の面でも、会社が労働者の事情を無視した配置転換などの指揮命令権を無限定に発揮することができたりと、労働者が「社畜」とまで揶揄される雇用慣行がまかり通ってきました。ただ、それでも我慢してとにかく会社にしがみついていれば、見返りに長期雇用と年功賃金で生活が守られるという「常識」が存在し、その実態はさほど問題化されなかったのです。もちろん、過労死した労働者や、中小企業の労働者、女性などはその保障の限りではなかったのですが。

 しかし、労働政策学者の濱口桂一郎氏が指摘しているように、その長期雇用慣行が崩れ、最近では「試用期間切り」に象徴的ですが、がんばって働いても会社が雇用を保障しないという不安定な状況が広まったことで、これまで問題性が潜在化されていた労働環境が、あらためて「ブラック」として概念化されるようになってきたわけです。

川村 実際に街頭アンケートをしてみて問題だと感じるのが、違法状態を経験している若者は半数以上いるにもかかわらず、そのうちの8割は何もしないで泣き寝入りしてしまうという回答なんですよね。労働相談の現場でも、例えば試用期間であっても労働者をクビにするには一般正社員と同じく合理的な理由がなければならないはずなんですが、「会社と価値観が合わないから」といった非常に曖昧な理由で切られたり、頑張って正社員になって成績を上げていても急に会社とコミュニケーションが取れなくなって、それまで一度も叱責を受けたことのない人がいきなり最低限の評価を食らって辞めさせられたりするケースがよくあります。それでも多くの場合は、辞めさせられた人が「この会社、おかしいじゃないか」と声を上げることなく、しかも自己都合退職を迫られるので、失業保険を3カ月間受給できないというペナルティまで発生してしまう。相談に来る人のほとんどは自分が悪いと思わされてしまっていて、その中で「ただ、自己都合で辞めると困ってしまうから、せめて会社都合で辞めるかたちにしたい」という、本当にギリギリの状況に追い込まれてからの事案が多いんですよね。そういう人たちが異議申し立てとまではいかなくとも、とにかくSOSを発信できるようにしようというのが、僕たちの問題意識です。

 ですから、若年雇用の問題が、単にマッチング機会を増大して内定率が回復すればいいんだという数字の議論に落とし込まれてしまうことに対しては非常に疑問を抱いています。

最終更新:2011/04/01 10:49
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