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『どうかと思うが、面白い』発売記念インタビュー

「世の中って狂ったモン勝ち!」注目のホラー作家・平山夢明が説く、奇人のススメ

yumeaki_hirayama.jpg平山さんも十分、おかしな人でした!

 人間の持つ狂気を描き出し続けている人気ホラー小説作家・平山夢明。そんな彼が日常の中で見つけた奇人、変人、キチガイについてユーモアたっぷりに綴った「週刊SPA!」(扶桑社)連載中のコラム『どうかと思うが、面白い』(同)が単行本化された。狂気から生み出される恐怖が一回りして大爆笑エピソードになってしまっている本作の発売を記念して、平山氏のキチガイ観をたっぷり語ってもらった。おそらく日刊サイゾー史上最高に「キチガイ」っていう単語が出てきますよ。(取材・文=北村ヂン)

――新刊『どうかと思うが、面白い』にもキチガイな人の話がたくさん出てきますが、ボクもそういう人とかかわることが多いんで、キチガイとの上手い付き合い方を教えてもらいたいのですが。

「キチガイと付き合う時は、常に心の中に”檻”を入れておくっていうのが大事だね。コレ以上は近づけないぞって。その点、この本の挿絵を描いてくれた清野とおるくん(漫画『東京都北区赤羽』の作者/参照記事)なんか見てるとハラハラするわけ。だってキチガイから『カレーを作ったから食いに来い』って言われて家まで食いに行ったりしてるんだぜ。カレーって味が強いから何を入れられてても分からないじゃん? イヤだよー。俺の場合、自分からはキチガイに近寄っていかないからね。ただ、キチガイの方から勝手に寄って来ちゃうんだけど……」

――普通に暮らしてたらそうそうキチガイなんて寄ってこないですよ。平山さんからそういうオーラが出てるんでしょうね。

「小さいころからキチガイに選ばれるタイプだったんだよね。友達5人で遊んでても、絶対に俺の方に寄ってくるみたいな。しかも俺が会ったことあるキチガイって、いきなり殴ったりとか、鼻噛みちぎったりするバイオレントなキチガイが多かったから。見ず知らずの人にいきなりボコられるって、傷付くもんだよ。だからあんまり密に、ダチみたいにはなりたくないよね」

――とはいえ、キチガイを見つけたら「いいネタだ!」みたいな意識はあるんですよね。

「あるね。でも面白いキチガイならば、だよ。出オチみたいなキチガイって多いじゃん。見た瞬間『ああー、あのタイプのキチガイね』みたいな」

――ホラー小説で人間の狂気を描くことに定評のある平山さんですが、やはりリアルにキチガイとかかわっている影響もあるんですかね。

「やっぱり影響してるんだろうな。あと、俺は小説の中でわざと引きというか、アイキャッチとしてキチガイを登場させることがよくあるね。どんな小説でも”ダレ場”ってあるでしょ。そこでダレられるのが怖いからキチガイの話で引き付けておくんだよ。キチガイって目が離せないじゃん」

――平山さんの中ではキチガイはキャッチーな存在だと。

「うん、キチガイも俺たちもホントに紙一重で中身はそんなに変わらないと思ってるからね。誰でも日々暮らしている中で、うっすらとおかしな行動をしてしまうことってあるでしょ。だから、一時的にキチガイみたいになってる人ってのはよくいるわけ。でも普通は、一日とか一週間とかするとリセット出来るんだよ。でも、突き抜けたキチガイってのは、そのキチガイ要素がリセットされないまま少しずつミルフィーユみたいに積み重なった結果、エライことになっちゃってる人なんだ」

――ああ、継続しておかしなことをやってるヤツが突き抜けたキチガイだと。歌舞伎町で変な格好してる人って時々見かけますけど、新宿タイガーマスク(歌舞伎町近辺でタイガーマスクをかぶって新聞配達しているキチガイ)は30年くらい毎日あの格好だから別格って感じがしますもんね。

「ところで、アナタもかなりおかしなことをやってそうな顔してるけど……」

――いやー、そんなおかしなことはやってませんよ。学生時代、いろんなところでウンコしてたくらいで。

「えー何それ、十分おかしいよ! どういうこと!?」

――もともとは飲み会で酔っぱらうとすぐに全裸になってたんですけど、しばらくしたらみんな脱ぐようになっちゃって笑いも取れなくなって。じゃあどうしようって考えた時に、「ここでウンコしたらウケるかな」って。それで、嫌いなヤツの家の前とか、居酒屋の皿とかにウンコしてた時期があるんですけど……。

「キミ、狂ってるよ! 完全に狂ってるよ!」

――いやいや、でもさすがに今はそんなことしてないですからね。コレは継続してないから大丈夫ってことですよね!?

「まあ、そういうことだよ。誰だって酔っぱらったり、性欲が高まったりした時はおかしくなっちゃうもんだけど、それを継続しちゃう人ってのは、俺たちには見えない世界が見えてるんだよ。キチガイの恍惚っていうかな。キチガイって脳が停止してるから気持ちいいんだと思うんだ」

――平山さんがおかしくなっちゃう瞬間ってどんな時ですか。

「俺の場合は眠い、腹減った、ヤリたい……とかでおかしくなるね。昔、給食に出てくるビーフンが大好きでさ、吐くほど食いたいと思ってて、友達の内田と、給食係になった時にビーフンを強奪して腹いっぱい食おうっていう話になったのね。それで給食の容器丸ごと学校の屋上に持って行ってガンガン食ったんだけど、やっぱり半分くらいしか食えないんだよ」

――そりゃ食えないでしょう。

「こんなに腹減ってて、しかも美味しいんだからクラス40人分のビーフンくらい空っぽに出来ると思ってたのに……。給食泥棒までやってんのに、コレしか食えない自分が情けないやら悲しいやらで。いまさら半分になったビーフンを教室に持って行ったって、どうせ文句言われるんだから、もうヤケクソになってビーフンの容器に小便したんだよ。そしたら先生が後ろに先生が立っててさぁ、すっごい殴られたね。『この人、大人なのに本気じゃん!』って。ひどいよね、体罰だよ!」

――うーん、この件に関しては先生に同情しちゃいますね。でも、そこでホントに丸ごと食えちゃうような突き抜けた人に対する憧れっていうのがあるんですよね。

「あるよー。結局、世の中って狂ったモン勝ちだからね。ちょこちょこ真面目にやってるヤツが一番ワリを食うの。だってさ、政治家ってみんなキチガイじゃん。日本がこんな大変なことになってるのに、選挙やろうとか言い出してんだもん。日本って今、家にたとえるならば火事になってるような状態でしょ。じゃあ、どうやって火を消そうかって時に、まずはじっくり家族会議をやろうって言い出してるわけだから……ありゃあキチガイだね。小沢一郎なんて犯罪者で刑事被告人だぜ、そんなヤツの言いなりになって動いてる部下がいるなんて、完全にキチガイでしょ。でも、キチガイってものすごい引力があるんだよね。小沢とかも星でいえば木星級の引力を持ってるよ。織田信長とかシーザーだってみんなキチガイだったんだと思うけど、すごいパワーだから誰も文句言えないんだよね」

――信長に「やめなよ、比叡山焼き討ちなんて」とか言えないですよね。

「ただ、ある面ではキチガイの妄想が人類の進歩を支えてきたっていう面もあるんだよ。『海の果てまで行ったらどうなってるんだろう?』って思ってホントに行ってみるヤツなんてキチガイでしょ。でも、そいつが行ったおかげで地球が丸いっていうのが分かったんだもん。だから狂うっていうのは必ずしも悪いことではないんだよね。ただ、ある程度コントロールしなくちゃいけない。『狂う』って、性欲とか食欲みたいな欲求のひとつだと思うんだ。みんな狂いたいと思ってるんだよ。だからディスコとか行って踊り狂ったりしてるわけでしょ。テレビゲームやってるヤツだってみんな狂ってるよ、寝ないで延々やってたりするんでしょ。アレは完全に狂人だよね。でもああいう時って自分のエネルギーを全解放出来てるから気持ちいいんだよ」

――ああ、狂ったように何かに没入している時の気持ちよさっていうのは分かりますね。

「だから厚労省とかもシャブとかマリファナとかを解禁して、みんな適度に狂えるようにすればいいのにね。みんなマリファナとか吸ってたら、絶対に自殺者減ると思うよ。世の中にある悩みの九割九分って答えなんかないんですよ。結局、自分がどう思うかしかないんだから、暗く考えてたら変なことになっちゃうよ」

――そんな時はガンジャでもキメてハッピーになった方がいいと。

「そうだね。みんなもっと狂った方がいいよ。狂った方が幸せだなって人、世の中に多いもん」

――ただ、自分が上手く狂うためには、平山さんのように身の回りにいるガチなキチガイも楽しく観察できるような余裕っていうのも必要ですよね。今の日本だと、キチガイを見かけても「あんな人、見ちゃダメよ!」とかになっちゃいますもんね。

「そうそう。そういう風にキチガイから遠ざけられ続けて上手くキチガイになれないヤツって、じゃあまっとうなヤツになるのかというとそうでもなくて、だいたい変態になっちゃうんだよ。変態はダメだよ……弱々しいし、気持ち悪いでしょ」

――「キチガイってどうかと思うけど、いいもんだよ」ってことですよね。新刊のタイトル『どうかと思うが、面白い』っていうのは、平山さん自身のテーマなのかなって思います。

「あの言葉は、東えりかさんっていう書評家が『夢ちゃんの小説って面白いんだけど、普通に友達に勧めると人格を疑われちゃうから、この本どうかと思うけど面白いよって勧めるようにしてる』って言ってたんだよ。確かに俺が好きなものとか納得する表現って、世間的に見ると『どうかと思うけどね』っていう表現なんだよ。だから、キチガイってのもどうかと思うけど、せっかく神様が『キチガイ力』っていうのを人間に与えてくれてるんだから上手く使った方がいいよね」

――自然に脳内麻薬が出るようになってるくらいですからね。

「キチガイな部分が自分にはないと思い込んで封じ込めたりするのはつまんないからね。みんな、キチガイ上手になった方がいいよ!」

●ひらやま・ゆめあき
1961年神奈川県生まれ。94年『異常快楽殺人』(角川ホラー文庫)で作家デビュー。『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)で日本推理作家協会賞受賞、『このミステリーがすごい!』2007年版国内編第1位を獲得。2010年『ダイナー』(ポプラ社)で第28回日本冒険小説大賞、第13回大藪春彦賞を受賞。人間の狂気と恐怖を描く第一人者として活躍中。

どうかと思うが、面白い

ホントにどうかと思う。

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最終更新:2013/09/12 17:36
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