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「写真はここで生きていたという証」被災者の思い出を取り戻す、被災写真洗浄ボランティア

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 東日本沿岸部を襲った大津波は、多くの家々を飲み込んでいった。そこにあった生活の痕跡はすべて洗い流され、残されたがれきの山々は震災から半年を経過しても、まだ片付け終わることがない。

 流されたのは家だけではない。津波被災地を歩くと、それぞれの家庭で大切に収められていたであろう思い出の品々が、がれきと一緒に野ざらしにされていることに気づく。食器やノート、ランドセル、ぬいぐるみ、泥だらけになった生活用品たちは、そのどれもが震災以前にあった生活を思い起こさせる。

 そんな品々の中でも、最も強烈な印象を与えるのが、思い出を切り取った写真たち。どんな家の棚にも、記念日を写したアルバムは存在する。観光地での記念写真や、人生で最高の1コマ、仲間たちとのふざけたスナップ。それらを大津波は例外なく飲み込んでしまった。

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 そんな、思い出の写真を洗浄するボランティア活動が盛んに行われている。8月下旬、秋葉原のアートスペース「3331 Arts Chiyoda」で行われたイベントに足を運んだ。

■もしかしたらこの人も津波で……

  この日、洗浄を行ったのは、津波が逆流した宮城県・名取川河口近くにある名取市閖上(ゆりあげ)地区で回収された写真。このイベントのために、およそ70名あまりのボランティアたちが集結した。アート系施設ということもあり、参加者は20〜30代の比較的若い人々が多い。

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 現像液に浸して絵を浮かび上がらせる写真は、そもそも水に強い構造を持っている。しかし、海水に流され、泥にまみれることにより、微生物を原因とした劣化が進む。すると印画紙にプリントされた写真画像は、ドロドロに溶けたような状態になってしまう。写真の腐食を食い止め、どんな写真かが分からなくなる前に写真を持ち主のもとに届けることが、このプロジェクトの目的だ。

 午前10時30分、主催する富士フイルムのスタッフからのオリエンテーリングが終わると、あらかじめ決められていたグループごとに分かれて作業開始。比較的年齢層が若いせいか「真剣に集中して取り組む」というボランティアのイメージとは異なり、どことなく和気あいあいとした雰囲気を感じる。しかし、ある参加者に話を聞いたところ、やはりその心境は複雑なようだ。ある参加者は「もしかしたらこの人も津波で……と考えると怖くなってしまうこともあります」とうつむきながら語っていた。アルバムに収められた写真は人生の幸福な一瞬を切り取ったものが多く、現在とのギャップに耐え切れないボランティアも多いという。

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 また別の参加者は、この活動に参加する意義をこう語った。「震災に対しては、自分でも何かできないかと、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていたんです。今回、思い切って参加したんですが、やっぱり自己満足なんじゃないかという意識は消えません。ただ、先ほど結婚式の写真を洗浄したんですが、洗っているこちらも幸せな気持ちになりましたね」。

 筆者も実際に洗浄ボランティアを体験してみたが、気持ちはやはり複雑だった。筆者が携わったアルバムは、1995年頃に撮影された女の子の赤ん坊の写真。水が染み込んでアルバムに張り付いてしまった写真を丁寧にはがし、筆などで優しく汚れを洗い流し、乾燥させる。見ず知らずの他人の写真を洗浄するのは不思議な気分だが、やはり気になるのは写真に写った人が無事であるかどうか。カメラの前で笑っていた彼女は、今はもう16歳のはず。「死者・行方不明者合わせて2万人」という言葉には、あまりリアリティーを感じられないが、この赤ん坊だった女性だけは無事でいてほしいと思ってしまう。

■1枚の写真がこれからの支えになる

S10.JPG富士フイルム・板橋氏。

 この活動のプロジェクトリーダーを務める富士フイルムの板橋氏は、震災直後からこの活動を開始し、現地に赴いて被災者の写真洗浄活動をサポートしていた。「被災地では写真を洗うための桶もなく、冷たい水で手もかじかみ、なかなか作業が進みませんでした」と振り返る。

「写真は他のものとは異なり、一度失ってしまったら二度と取り戻すことはできません。できるだけ多くの写真が無事な姿のままで持ち主のもとに戻ってほしいですね」

 この活動の意義について質問すると、「震災後、初めて被災地を訪れた際にある避難所のリーダーの方が『津波にあった人は一切合財流されてしまった。本当に何もない、あるのは記憶だけ。でも、記憶も時間とともに薄れていく。1枚の写真があることが、今までここで生きてきたということの証になり、これから生きていく支えになる』とおっしゃったんです。それが、この活動を進める原動力となりました」と静かに語ってくれた。

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 同社広報の宮田さんは、「ボランティアは3331のホームページでのみの募集だったのですが、Twitterなどで情報が広まり、すぐに定員に達してしまいました。この活動をきっかけとして、写真の価値が見直されたのではないかと思います。いろいろな人に、写真の力を感じてほしいですね」と語る。

 注目を集める写真洗浄活動だが、この日、70人がかりで一日中作業を行っても、洗浄を終えた写真はアルバム40〜50冊分に過ぎない。被災地に埋もれたままとなっているアルバムのすべてを洗浄するには、まだまだ膨大な時間がかかりそうだ。
(取材・文・写真=萩原雄太[かもめマシーン])

誕生用アルバム

大切なものだからこそ。

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最終更新:2013/09/11 16:28
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